ジョージャクとは情弱と書く

 
 今年の正月が終わるころ、自分よりも、30歳ぐらい若い人たちと飲む機会があった。
 デザイン畑の人やら、音楽家で政治・文化・思想系のポータルサイトなどを運営していたりする人々である。

 いやぁ、みんな物事をよく考えているよ。
 60歳を過ぎると、だいたい同年齢ぐらいの人たちとしか交流がなくなってしまうから、話題も健康問題やら、老後の趣味やら、現状維持的な話になりがち。
 だから、未来に目を向けている若い人たちの話を聞いていると、自分の頭から脳ミソを取り出し、真水でじゃぶじゃぶ洗うような爽快感を得られる。

 一連の会話のなかで、ときどき「ジョージャク」という単語が出てきた。
 “情報弱者” という言葉の短縮形らしい。
 もう4~5年前ぐらいから使われていた言葉らしいのだが、うかつなことに、そういう言葉があることを、こっちは全然知らなかった。

 で、「ジョージャク」の意味をさらに詳しく知りたくなって、家に帰ってネットを開いてみると、情報弱者一般のなかで、特に「I Tを使いこなせない人」を指すということが分かってきた。
 Wikiなどを見ると、
 「I Tに関する知識が十分でないため、放送やインターネットから情報を享受できない人」
 … みたいな説明がなされている。

 で、検索エンジンでさらに言葉の意味を調べてみると、みな一様に、
 「情弱ではこれからの社会を生き抜けない」
 とか、
 「情弱はカモにされるだけ」
 とか、
 「情弱から脱するには …」
 みたいなことばかり書かれている。
 いわば、I Tリテラシーのない人間は、この社会では生きていけない脱落者扱いなんだわ。
 まさに、そういう言葉がネットで飛び交っていることすら知らなかった私が、見事に「情弱」なわけよ。
 でも、情弱を揶揄する人たちのおごり高ぶりを見て、あまり愉快な気はしなかった。

 しかし、私がその晩話した若い人たちが語っていた「ジョージャク」という言葉の響きは少し違って聞こえた。
 彼らは、「I Tリテラシーに乏しい」という意味に限定することなく、広く「マスコミそのものに踊らされている」というニュアンスで使っていた。
 たとえば、いまの流行モノ。
 音楽でもファッションでも、あるいは新商品でも、何かが「流行している」という現象は、すべて企業側が緻密に計算した情報操作に過ぎないという。

 音楽などは、「このアーチストやこのアイドルで一儲けしよう」という企画が立てられたときには、テレビの出演交渉から雑誌取材の段どりから、イベント運営に至るまで、すべて巧妙な仕掛けが施される。

 もちろん、昔から芸能界の運営はみなそのように進められてきたのだけれど、それを仕掛ける代理店の資金力なども昔とは比べものにならないほど膨大になっているから、仕掛け方がハンパない。
 一夜にして、大スターを誕生させるなど朝飯前。
 そして巨額な資金を投入して、一気にマーケットを開拓し、ものすごい早いスピードで資金回収を行う。

 ファッションなんかでも、「この生地が余りそうだから、来年のブームはこれでいこう」ぐらいのノリで、流行色やらデザインが決定される。
 そうやって、ターゲットを定め、一流のコピーライターが憎いキャッチを考え、なうてのカメラマンが旬のモデルを使って、ため息が出るくらいの映像美をひねり出す。

 で、そういう企画自体をワイドショーなどに売り込み、ニュースキャスターが、「いま20代の女性を中心に、こういう現象が起きています」などとニュース仕立てで報道する。
 そこで新しい造語が生まれ、「レキジョ(歴女)」だとか、「リケジョ(理系女)」とかメディアが飛びつきそうなキャッチが作られていく。

 そして、消費動向に詳しいといわれる専門家が、その “トレンド” が生まれた背景を、人々の社会意識の変化やら経済動向などに絡み合わせてもっともらしい解説を施す。 

 昔読んだ何かの記事で、誰かがこんなことを言っていた。

 「(テレビにおいて)民放のお客様は視聴者じゃない。民放の正体は株式会社だから、CMなどにお金を出すスポンサーがほんとうのお客様である。だから、テレビ画面に映っているのは『情報』ではない。情報の姿を借りた『商品』だ」

 そういうメディア操作に簡単に踊らされる消費者が、すなわち本当の意味での「情報弱者」ではないのか?
 私に、そのことを伝えてくれた若い人は、「ジョージャク」という言葉を、そういう文脈で使った。

 消費者が “踊らされる” というのは、何も今の時代に限ったことではないけれど、今はジョージャクの人がどんどん増えているので、業界が仕掛けたときにはその波及効果がすさまじいらしい。
 昔と違って、膨大な資金を投入すれば、それに倍するリターンが約束されているという。ますます資金力があるところだけが、儲かっていく仕組みになっているようだ。

 で、結論なんだけれど、「情報弱者」とは、情報に “うとい” 人のことを言うのではなくて、情報を “うのみ” にする人なんだ、ということ。
 他人の「ジョージャク」を笑っている人がいたとしたら、その人自身が情弱だったという時代が来ているのかもしれない。
 
 

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ジョージャクとは情弱と書く への6件のコメント

  1. Get より:

    タイトルのジョージャクが目に飛び込んで来た時、咄嗟に
    Joe Jack. と無意識に解釈し、”Who the heck is that.” 
    でも日本語だったんですね。
    新しい語彙を吸収する環境作り、意識して励まなければ追い付きません。
    ”日々一新” どころでは無く ”日々一旧”
    然し、昔に比べ新しい知識を素早く的確に得ることが出来る昨今ではあります。
    このIT教養の適度な教育を身に付けるべく、日夜PCに向かいます。 

    • 町田 より:

      >Get さん、ようこそ
      やはり、若い人たちとのリアルな交流がないと、時代感覚みたいなものは身につきませんね。
      “ジョージャク”じゃないですけど、そういう新しい(?)語彙は、ただ意味を覚えるのではなく、会話の中のどういう文脈で、どういうニュアンスで語られるのか、そういった皮膚感覚的に捉えないと、時代の空気が分かりません。
      「歳をとって考え方が硬直してしまう」というのは、テレビやネットや雑誌などの媒体を通して “時代を読もう” とするからで、やっぱり生きた言葉に触れていないと頭デッカチになってしまうのでしょうね。

      それでも昔に比べると、Getさんがおっしゃるように、新しい知識を身に付ける環境は整ってきているのかもしれません。
      こちらも精一杯勉強中です。
       

  2. Take より:

    されど温故知新 でもあるような気がします。老いてきた僕らができることは古き良きものを(驕った言い方ですが)教えることかもしれませんね。
    仰る通り、現代の「勝てる」ものは利用者に便利なものではなく、利用者が便利に見える幻想のような気がします。まぁそれはそれでいいのかも知れませんが、そればかりで、それを追求する情報量が多すぎると返って疲弊します。それは大都会で毎日生活していると何もない草原がうらやましく見えるものなのかもしれません。
    僕はたまに豪華な食事を夢見ながら白いご飯とみそ汁の毎日の方が気も胃も楽です(笑)

    • 町田 より:

      >Take さん、ようこそ
      おっしゃること、よく分かるつもりです。
      現在流通する多くの商品は、実は、 >>「利用者に便利なもの」ではなく、>>「利用者が便利だと思える(ただの)幻想」であるというご指摘は、まさに当を得ていると思いました。
      “依存症ビジネス”という言葉がありますが、本来はそれほど必要ではない商品を、企業側が巧みな洗脳操作によって、あたかもそれが欠如すると「禁断症状」に落ち込むように仕向けるビジネスがあるといいます。
      最悪の例は、危険ドラッグやオンラインポルノなどですけれども、i Phoneとそのアプリ、ゲーム類なども、利用者をいつのまにか依存症に陥らせるように巧妙にデザインされていると言われています。

      そう考えると、情報量があまりにも多い現代社会は、あらゆるところに依存症に陥るようなものが潜んでいるということになりますね。

      おっしゃるように、「温故知新」ではないですけれど、老いた私たちができることは、依存症に罹りやすい現代社会のなかで、そこから抜け出す道を、古いものの中から探り出すということなのかもしれませんね。
       

  3. 七猫 より:

    うちの子供たちは、よく「ググレカス」と言います。ひどいときは「ggrks」と。「そんなことはじぶんでgoogleで調べろよカス野郎」と言う意味だそうです。説明するのが面倒くさいということですな。母音の入力すら面倒なのかと。「私は年寄りだしどうやって調べたらいいかわからないもン」とぶりっ子をしてみましたら「こうやって両手を出してカチャカチャってやればいいの!」というお見通しの答えが返ってきまして、こっちも調べるのが面倒くさいだけということがバレバレでした。脳みそのほうもちょっとしたことをするにも「どっこいしょ」なわけですが、整備とチューンアップを欠かさなければ旧車もまだまだ走れると思ってもらえているうちが花なんでしょうか。

    • 町田 より:

      >七猫さん、ようこそ
      >>「ググレカス」という言葉ははじめて聞きましたが、今の子供たちの考え方・感じ方がうまく集約されていそうで、妙に納得いたしました。
      グーグルで検索することを「ググル」といいますけれど、「ググれないやつはカスだ」ということなんですね。

      やっぱり、私などの年になってくると、ネット系の作業を始めるときは、どうしても「どっこいしょ」になってしまいます。操作を覚えても、仕事などで継続していない限り、「あれ……、どうやればいいんだけっけ? Ctrt+S+何々 だっけな」ってな感じで、その都度迷ってしまいますし。

      いざというときに間に合わせるためには、おっしゃるように、「整備とチューナップ」を欠かさずに古い物でも使える準備を怠らない必要もありますよね。
       

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