サミーさんから届いた “西部劇”

 
 アメリカのストックトン市在住の日本人シンガーサミーさんより、素敵な “西部劇” が送られてきた。
 といっても、DVDに録画された西部劇の映画というようなものではない。A2サイズぐらいの大判に引き延ばされた写真が2セットだ。

 これが、実にいい !
 アメリカの荒野を疾駆する幌馬車。
 大地から砂塵が舞い散り、それが乾いた空気となって、画像を眺めている部屋の中まで満ちてくるようだ。
 自分がかつて観た西部劇のスチール写真を引き伸ばしたもののように思えたので、記憶をたどりながら眺めていたが、“役者たち” の顔に見覚えがない。

 後からサミーさんにうかがうと、これは映画のワンシーンを切り取ったものではなく、彼女の友人が参加している「幌馬車愛好会」の走行イベントを撮影したものだという。
 アメリカには、いまだにこの手の乗り物を楽しむ人たちが多く、このような馬車が数台こぞってカントリー・ドライブをすることがよく行われているのだという。
 走行するときは、後ろの荷台はフラットベッドのみ。幌を張るためのカマボコ型の鉄柱も付けず、当然幌も装着しないのだとか。
 どうりで、最初見たときに「駅馬車」に見えたわけだ。

 このような映像に満ちたアメリカ西部劇が私は大好きなのだが、最近この手の映画はほとんど制作されていない。
 記憶に残っているのは、クエンティン・タランティーノ監督の『ジャンゴ』(2012年)か、ジョニー・デップが出演した『ローン・レンジャー』(2013年)ぐらいか。
 それ以外に、最近話題になった西部劇というのを知らない。
 
 西部劇が衰退した理由には、諸説ある。
 一つは、かつて単純に “悪役” として登場させてきたインディアン(ネイティブ・アメリカン)の扱い方が、今では人種問題に触れてしまうこと。
 それと付随して、西部劇の精神的支柱となっていた “アメリカの正義” にベトナム戦争以降のアメリカ人自身が疑問を持ち始めたこと。
 
 そのような政治的・思想的な背景が大きいとはいえるが、映画技術のなかでCGの占める比率が上がり、荒唐無稽な映像が当たり前になってきたときに、荒野を馬で疾駆するような単純なアクションでは人々の関心をつなぎとめにくくなったことが大きな理由であるかもしれない。『カウボーイ&エイリアン』(2006年)などという映画は、そのことを端的に物語っている。
 
 そのようにSF系やファンタジー系、現代アクション系で十分観客を呼び込めることを知ったハリウッド映画制作者たちは、若者に縁遠くなった古臭い時代劇(西部劇)に大金をつぎ込むリスクを回避したくなったのだろう。

 もっと単純な理由として、馬を巧みに操れる俳優がいなくなったということを挙げる人もいる。
 確かに、西部劇の妙味は “手綱(たづな)さばき” にある。
 ただ馬の上に跨っていればいいという問題ではない。後ろ脚で棹立ちする馬を上手に御したり、くるくると輪乗りしたり、障害物を乗り越えたりと、乗馬シーンを上手に演じるためには、乗り手にそうとうな技術が要求される。

 そのような人馬一体となった美しいシーンを、私のような世代の者は「当たり前」のように見てきたが、考えてみれば、あれは「馬と人間」が一体となって作りあげた「アート」だったのだな … と思う。

 西部劇といっても、私の好みは片寄っていて、悪役 … つまり銀行強盗などのアウトローたちが主役になる映画が好き。
 そういった意味で、
 サム・ペキンパーの 『ワイルドバンチ』
 ジョージ・ロイヒルの 『明日に向かって撃て』
 ジェームズ・マンゴールドの 『 3時10分、決断のとき
 ウォルター・ヒルの 『ロング・ライダース』
 などが好み。
 
 これらのアウトローたちは、たいていラストで壮絶な撃ち合いを演じた挙句、若いままに悲劇的な最期を遂げる。
 一瞬のうちに生命を燃焼させ、炎となって散るときの “はかなさ” みたいなものが、日本的な「桜の散る美学」を感じさせる。

 もっとも、西部劇の場合は、正義を守る男が主人公になっても、どこかアウトロー的な雰囲気が漂う。
 保安官が主人公になっても、たいてい他の職業が務まらないために町に流れてきた男だったりすることが多く、賞金稼ぎなどになれば、もろ人殺しを “正職” としている。
 西部劇のベスト10に必ず選ばれる『荒野の七人』だって、金に釣られて集まってきた “ならず者” のような連中だし。

 でも、そういう “いかがわしい” 連中の面構えが魅力的だった。
 西部劇というのは、まっとうな人生を歩めない人間たちを美しいヒーローとして描く「倒錯したドラマ」だったのかもしれない。
 そのような倒錯ドラマに観客が熱中できた時代が、アメリカの良い時代だったのだろう。
 この手のうさんくさい連中は、いまでは「テロリスト」とか「警官のいうことを聞かない危険分子」として簡単に拘束され、言うことを聞かないとリンチにあったり、撃ち殺されちゃうわけだから。  
 
 
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