タモリの知性

 
 正月のテレビはつまらない、… と思っていたが、丹念に番組を探していくと、なかなか楽しめるものがあった。

 感心したことが一つあった。
 1月1日の夕刻にかけて放映されていた『NHKスペシャル 戦後70年 ニッポンの肖像』。
 1945年の終戦の年から、1990年初期のバブル崩壊に至るまで、NHKが保存していた実写フィルムを次々と流しながら、コメンテーターたちがその感想を語り合うといったものだが、ゲストとして招かれていたタモリの頭のクレバーぶりとその含羞の持ち具合には本当に感心した。

 タモリは現在70歳だという。
 つまり、“戦後70年” という日本の戦後史をそのままなぞるように生きてきた人である。
 彼は、その歩みのなかで、「いちばん印象に残る時代は何か?」というアナウンサーの問いに対して、「バブル以降」だと答えている。

 つまり、高度成長の時代までは、とにかく “重厚長大” なものを尊重する時代風潮があって、それに対する息苦しさみたいなものを感じていたという。
 そして、それに続くバブルの時代は、今度は一転して、軽くて派手なものばかりが珍重されるようになった。
 しかし、それに対しても違和感を抱いていたとも。

 彼はいう。
 「バブルの頃というのは、誰もが時代に乗り遅れまいと必死に狂騒のなかに身を投じていたんですね。それは、そうしないと自分自身と向き合うことになってしまうから」

 すごい答だと思った。
 こんな簡潔にバブル期の人間の心象を的確に表現できる人など、ほかにいないと思った。

 残念ながら、最初にアナウンサーに尋ねられた「印象に残る時代は?」という問に対し、タモリが答えた「バブル以降」というその理由は開陳されることなく他の話題に移ってしまったが、たぶん “失われた20年” という負の時代を通して、 
 「人々がようやく自分と向き合う時代となった」
 というような答が用意されていたのだと推測する。

 『笑っていいとも』がずっと放映されていた頃、私は彼のことを “もう終わった人” だと思っていた。
 ギャグにもパワーがないし、アドリブもマンネリ化していたし、それなのに周囲のタレントたちからは “タモリ様” と持ち上げられ、過去の名声におんぶしてルーティンワークをこなしているだけの覇気のないタレントとしてしか見ていなかった。

 でも、この番組では、彼はそうとうのインテリあることが、その落ち着いたしゃべり方から浮かんでいた。『笑っていいとも』から解放されて、ようやく等身大の自分をさらせる立場に立った人間の “ゆとり” のようなものさえ漂っていた。

 最後に、「今回の企画を総括して一言」とアナウンサーに振られたとき、彼が言ったことは「今年もよろしく」というあっけない挨拶でしかなかった。
 これにも感心した。
 並みのタレントだったら、ここで気の利いたセリフを一発かますはずだ。
 ましてやタモリぐらいの知性があったら、視聴者が「なるほど !」とうなずくぐらいの言葉を難なくひねり出せただろう。

 しかし、彼はそれをやってしまう “エゲツなさ” を分かった人だった。

 含羞
 恥を知る心

 それが、彼の照れ笑いのような唇の動きに漂っていた。
 そうとうなインテリなんだな … とそのとき思った。
 ビートたけしみたいな “アーチスト” として自分を売ることもなく、さんまのような、速射砲のごとくギャグを飛ばす路線もとらず、それでもタモリが生き延びてこれたのは、「恥を知る」という知性があったればこそだったのかもしれない。
 
 70歳のタモリ。
 今年60代の半ばに達する自分には、まだまだその背中を追うことができる “大人” がいるということが分かった番組だった。
  
 

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タモリの知性 への4件のコメント

  1. よしひこ より:

    おじゃまします。
    時々見てるのですが、コメントするのは初めてです。

    自分もこの番組を見て、タモリの「バブル以降」発言がとても意外だったので、何でだろうと思ったのですが、こちらに書かれた「人々がようやく自分と向き合う時代となった」からだろう、という推測は、なるほど、という感じでした。
    まあ大部分の人々は何も考えるひまもなくバブルに呑み込まれたとは思うのですが、とにかくバブル崩壊以降、人々が多かれ少なかれ「自分と向き合う」ことになったのは確かだと思います。
    それは決して楽しいことでもないのですが、生きるうえで避けてはならないことではあろうから、そういう意味では、バブル崩壊後から現在に至るまでをポジティブに見ることもできるのかなと。そんな感想です。

    • 町田 より:

      よしひこ さん、ようこそ
      はじめまして。
      元旦のタモリの番組をともにご覧になった方からコメントをいただけるというのはとてもうれしいです。ありがとうございました。

      よしひこさんのブログも拝読しました。
      話題がとても多岐に渡っていて、しかも深い掘り下げがあって、感服いたしました。
      ・ドイツ思想の「低迷」
      ・ハムレットという「時代精神」
      などは、人文系の勉強をするときの参考文献としても鋭いものがあって、刺激されました。

      ティーガー戦車が出る映画の話もマニアックな突っ込みがあって、面白いですね。
      これから大いに勉強させてもらいます。
       
      また、「気になるブログ」の中にも拾い上げていただき、感謝いたします。

  2. より:

    タモリさん、素敵ですよね。
    照れている大人の姿って可愛くて、そこがその人の品の良さや色気につながっている気がして心惹かれます。

    なんでも照れずに堂々とやってのけれるようになること=大人になること、ではないのだな、と教えてくれるチャーミーングな奥ゆかしさを持った方ですね。

    • 町田 より:

      獏さん、ようこそ
      タモリさんに対する印象、まさに同じものを感じました。
      やっぱりあの人は、すごい人ですね。
      確かに「大人」を感じます。
      本当の「大人」というのは、おっしゃるように「照れ」というものを知っており、その奥ゆかしさがチャーミングな色気になっているんでしょうね。
      いやぁ、まさに同感です !! 

      獏さんがご自分のブログで拾い上げている数々の “言葉” もみな素敵ですよ。
       

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