ジェームズ・ブラウン セックスマシーン

 
 BS-TBSの『SONG TO SOUL ~ 永遠の一曲 ~ 』という音楽番組で、ジェームズ・ブラウンの「セックスマシーン」が採り上げられていた(2014年12月24日)。
 ジェームズ・ブラウンが亡くなったのは、2006年のやはりクリスマスの日だったから、その追悼という意味もあったのかもしれない。

▼ セックスマシーン

 Sex Machine
 忘れられない曲なのである。
 ディスコに通っていて、はじめて女と向かい合って踊ったのがこの曲であった。
 その相手は、どこからともなく私の前に現われ、自分と同じステップを踊るようにうながした。
 踊り慣れた相手の華麗なステップに幻惑されつつ、ミラーボールの下で挑むように差し込んでくるその視線に、私は緊張した視線を返すのが精一杯だった。
 まるで黒人とのハーフのように、肌の黒い娘だった。
 わずか2~3分ほどのダンス。
 名前も告げずに去っていく成熟した女の背中を見つめながら、私はソウル・ミュージックの官能性に打ちのめされた。

 「セックスマシーン」は、それまで私が聞いていたどのダンスナンバーの曲とも違っていた。
 私が新宿の「ジ・アザー」などに通い始めたのは、60年代の中頃。
 高校生だった。
 当時、踊れる曲の筆頭にあがっていたのが、フォートップスの「リーチアウト・アイル・ビー・ゼア」、サム&デイブの「ホールド・オン」、テンプテーションズの「ゲット・レディ」。チークタイムで流れるのはオーティス・レディングの「ドック・オブ・ザ・ベイ」などであった。

 「セックスマシーン」は、それらの曲を、あっという間にのんびりとした牧歌的なただのダンスナンバーに変えてしまった。

 「セックスマシーン」には、バイオレンスと血の匂いがした。
 体内のアドレナリンが急激に高まり、脳天の割れ目から、脳みそが宙に向かってほとばしる様子が自分で体感できた。

 アジ演説のように挑発的に喚き散らすJBの掛け声から始まり、1、2、3、4 … というカウントが終わった瞬間、すべての楽器がズシンと沈み込むようなタメを作ってジャンプを用意する。
 そして、間髪入れずにホーンセクションが、草原を疾駆するオオカミの群れのように、牙を剥き出して聴衆に襲いかかる。
 こんなスリリングなイントロを持つ曲が、当時ほかにあっただろうか。

 後に「ファンク」という言葉で呼ばれるようになったJBのソウルナンバーを最初に世に広めたのが、この「セックスマシーン」。
 身体の中に、金属のくさびを打ち込んでくるようなギターカッティング。大地の底を巨大な恐竜が這って行くようなベースラニング。
 天地をゆるがす雷鳴のように、鋭いリズムを刻み続けるホーンセクション。
 すべてが、人間の脳天を揺さぶりたてるリズム、リズム、リズムの嵐となって、聞く者を忘我の境地に誘い込む。

 この曲の特徴は、すべてがワンコードであること。
 つまり、音楽ではないのだ。
 音楽からすべてを引いてしまい、リズムだけを残した曲なのだ。

 さらに、この曲には「歌詞」がない。
 つまり、「物語」がない。
 あるのは、ただのアジテーション(扇動)。
 それも、「立ち上がれ」とひたすら連呼するだけのもっとも単純なアジテーション。
 なのに、そのストイックなリズムの繰り返しと、シンプルなアジテーションは、どんな音楽よりも強烈に、人をある種の狂気へと誘導していく。

 こういう音の洗礼を受けて育ってしまった人間には、後のユーロビートを主体とした80年代のディスコサウンドなどは、もう退屈で踊っていられない。
 80年代ディスコサウンドは、私にとっては踊る曲ではなくて、運転中の高揚感を維持するための、ただのドライブミュージックでしかなかった。

 「セックスマシーン」が登場した1970年という年は、まだ黒人の人種差別が根強く残っていた最後の年で、それに対する黒人たちの怨嗟、怒り、懊悩がアメリカ社会に不穏な空気をまき散らしていた時代だった。 
 後のソウル・ミュージックの隆盛は、彼らのプライド回復の過程と歩調を合わせている。

 しかし、75年以降、次第に黒人たちの間に市民権が与えられるようになり、彼らも急速に白人社会に糾合されていくようになる。
 彼らの間に、「辛い差別の時代を忘れ、白人たちといっしょに現世の楽しさを享受しよう」というメンタリティーが生まれると同時に、「セックスマシーン」のような血と暴力の匂いのするダンスミュージックは、明るく能天気な80年代ディスコミュージックに吸収されるようになる。

 それは黒人音楽のグローバル化であったが、同時に民族的なローカリティを失っていったソウル・ミュージックは、アメリカ白人が手掛けても、ヨーロッパ人が手掛けても同じような音にしかならないただのポップスになっていった。

 「セックスマシーン」を聞いていると、今でも腰のあたりが左右に揺れ始める。
 ミラーボールの逆光に浮かび上がった謎の女の顔がよみがえる。

 2015年の5月には、ミック・ジャガーが制作を手掛けた、ジェームス・ブラウンの伝記映画『Get On Up』(ジェームス・ブラウン 最高の魂を持つ男)が日本公開されるという。
  
  
関連記事 「JBよ安らかに」 
 
参考記事 「アフロヘアの少女」
 
 

カテゴリー: 音楽   パーマリンク

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong> <img localsrc="" alt="">