ターミネーターの世界は現実のものとなるのか

 
 テレビを観ていたら、池上彰が解説者となって、世界の軍事技術の現状をレポートする番組が放映されていた。

 それによると、ステレス戦闘機のようなレーダーに映らない戦闘機などはもう珍しい段階ではなく、レーダーに映らない戦車なども開発され、さらには鳥と見間違えるほどの高性能小型偵察機、9mもの壁を自在に跳躍して敵の施設内に飛び込んでしまう偵察ロボットのようなものまで実現化されているのだという。

 そのような小型無人偵察機や小型無人戦闘機は、どのように操縦されるのだろうか。

 番組を見ていたら、ゲーム機のコントローラーのようなものが提示された。それは軍事用に開発されたコントローラーではなく、実際にゲーム機で使われる市販のコントローラーを流用したものなのだという。
 操縦者は、そのコントローラーを使い、モニター上に反映される “敵” の戦闘員を攻撃したり、“敵” の軍事施設を破壊したりするのだそうだ。

 スタジオに登場していた一人のパネラーが、すかさず「ゲーム感覚で戦争をするとなると、人間の傷の痛みや死の苦しみにも無頓着になりますね」という危惧を表明した。
 池上彰氏が、即座に「その通りです」と答える。
 戦争はゲーム化の一途をたどる。
 だから、「人間の死」をもって戦争の悲惨さを糾弾する思想は、今後ますますピンチに立たされる、ということなのだそうだ。

 さらにいえば、戦争を行う主体も、やがて人間ではなく、ロボットになっていくという時代がすぐそこに来ているという。
 番組では、造形的には人間と同じ構造を持ちながら、より強靭な腕力とスピードを持つ “戦闘ロボット” のプロトタイプが披露された。
 また、地上戦になったときに、人間が背負うには重すぎる物資を軽々と背中に背負って野山をかけめぐる “犬型ロボット(Big Dog)” も登場していた。
 そういうものが、実際の紛争地域に登場するのは、もう時間の問題らしい。


 
 今までハリウッドのSF映画の出来事だと思われていたものが、もう実用化の段階まで進んできている。
 ロボットの知能は、I T 技術の進歩によって幾何級数的に緻密化されており、演算能力だけでなく、やがて戦略上の総合的な判断においても、人間を凌駕していくといわれている。

 …… いったいどういう時代になっていくのか。
 機械と人間が、やがて地球の主導権を争って敵対するような『ターミネーター』のような世界が、本当にそこまで来ているのかもしれない。

▼ ターミネーター

 このような事態は、何も「戦争」だけに限定されているわけではない。
 ある科学者によると、「今は人類がこれまで築き上げてきた技術史の延長戦では予測不能な未来モデルが現われる時期」なのだという。
 これから先の世の中では、技術の進歩を支配するのは人類ではなく、人工知能やそれを組み込んだ超人類(ロボットとか、サイボーグとか、アンドロイド等)であり、人類の知能や経験に基づいた未来予測は通用しなくなるとも。

 そのことに言及した科学者の予想では、「機械の知能が人類の知能を超える日」が到来するのは、2045年だという。
 …… ほんまかいな、… という気もしないでもないが、テレビに登場した無人戦闘機や戦闘ロボットを見ていると、にわかに信憑性が増すように感じられる。
 コンピューターの処理速度は、この20年間で千万倍ほど向上したといわれており、そうなると、2045年などという年よりもさらに早く、ここ10年ほどで、巨大人工知能が人類をコントロールするような世界が訪れるかもしれない。

 週刊文春で連載コラムを受け持つ辻野晃一郎氏は、2013年にオックスフォード大学が発表した『雇用の未来:コンピューター化によって職はどうなる?』という論文を引用し、「今後10~20年間でアメリカの雇用の半分がなくなる」と予想している。
 現在、日本では労働者の派遣法改正の話が議員たちの間で議論を呼んでいるが、問題はそんなところにはないとか。
 派遣社員とか正社員などという区別などとは関係なく、もっと深いところで雇用環境が大転換を遂げる時代が来ているというのだ。

 その環境変化の要因を二つ挙げるとすれば、ひとつは先ほど言った「人の雇用をロボットや人工知能に置き換える」という要因。
 もうひとつは、労働における知的作業の主要部分を、インターネットにつながる「不特定多数」の人間に外注するというワークスタイルの台頭(← これをクラウドソーシングというらしい)。
 この二つの労働環境が整うにしたがって、近い将来、10人中9人は、今とは違う仕事におもむかなければならなくなるとも。

 企業経営者にしてみれば、正社員や派遣社員を使うより、コンピューターとロボットや、さらには「不特定多数」の人間の英知を活用した方がコストも安くなるし、創造性も高まるという計算が成り立つ。

 そのような企業形態が一般化されれば、会社組織というのは、そういうワークスタイルをマネジメントするごく少数のエリートがいれば十分ということになる。
 そして、その「少数のエリート」も、やがて機械にとって代わられるようになるだろう。
 「超高性能巨大コンピューター」が人類を管理する映画『マトリクス』のような世界が、すぐそこまで来ているのだろうか?
 そんな世界は見たくもないが、ちょっと好奇心も働く。
 
 
参考記事 「VRの旅と、リアルの旅  東浩紀 『弱いつながり』 」

参考記事 「ヒト型ロボットの誕生で、男の性欲はますますバーチャル志向になる」


参考記事 「貧者の兵器とロボット兵器」

 
 

カテゴリー: コラム&エッセイ   パーマリンク

ターミネーターの世界は現実のものとなるのか への11件のコメント

  1. 軍事技術は、一般の目に触れる倍以上進んでいると言います。
    民生機器とは全く異なる採算度外視の世界の研究ですから、最先端がどこまでのものやら、想像するだに恐ろしくなります。
    コンピューターによる人類の支配は、ディストピアSFの古典的なテーマですが、昨今のネットワークの浸透具合からすると、コンピューターに支配されるよりコンピューターが使えなくなる(ネットワークでも可)の方が影響が大きいような気がします。
    また、一方でDNA操作に代表される生化学分野の進歩がどこまでいくのか、またその進歩がどんな成果と副作用をもたらすのか。
    人類はいままで多くの種を絶滅に追いやってきましたが、おそらく人類を絶滅させるのは人類ではないかと…

    • 町田 より:

      >わたなべたつお さん、ようこそ
      なるほど !
      >>「民生機器とは異なる採算度外視の研究をベースにした軍事技術は一般の目に触れる倍以上に進んでいる」
      確かに、そのとおりですね。
      我々の知らないところで、世界の軍事テクノロジーは想像もできないほどの進化を遂げているのでしょうね。

      さらに、>>「DNA操作に代表される生化学分野の進歩が、何を人間にもたらすのか」ということも、十分に考えるに足るテーマであるように思います。

      たぶん、「人間+機械」系のテクノロジーが進化することによって、従来の「人間は80歳ぐらいまでしか健康なライフスタイルは維持できない」という考えは大きく修正せざるを得なくなるでしょう。
      それは、ここ2000年来人類の思考を束ねていた哲学と宗教にも影響を及ぼしていくでしょうね。
      たいへんな時代が来ていることを感じます。
       

  2. クボトモ より:

    映画の中でターミネーターを開発した「サイバーダイン社」、
    今実際に存在する会社となっています。
    人をサポートするロボット・テクノロジーの会社ですが、
    この会社が上場した時に得も言われぬ寒気…がしました。

    某通信会社が人とコミュニケーションするロボットを市販しましたが、
    このロボットも、機能が搭載・完結させられているのではなく、
    ネット上でいくらでもシステムを成長させられる仕組みになっているとのことで、
    ますますターミネーターを思い起こさせられました。

    効率よく作業をする。
    その域はロボットに取って代わられるのかも知れません。
    しかし、どう生きるか、何が幸せなのか、感覚的なものは人が決めてゆける社会で在りたい。
    私はそう思うのです。

    • 町田 より:

      >クボトモさん、ようこそ
      日本でも、介護用ロボット産業を振興させるというのは、安倍政権の主要な柱になっていくらしいですね。
      人間の気持ちをなごませるための愛玩用ロボットのプロトタイプもいろいろ制作されているようですし、“超人間” たちが人間の身近な生活圏に登場するようになるのも時間の問題かもしれません。

      そのように精度をあげていくロボットたちが、「鉄腕アトム」のように人類の友となって人類の平和に貢献するのか、それとも「ターミネーター」のように、やがて邪魔な人類を排除するようになっていくのか、それは今の段階ではなんともいえませんね。

      たぶん、「効率」と「生産性」だけを一義的に追及するように企画されたロボットがその能力を高めていくと、人間というものが本来持っている “非効率性” が、彼らにとってはイライラのネタになりそうな気もします(笑)。

      >>「どう生きるか、何が幸せなのかは人が決めていける社会でありたい」
      おっしゃるとおりですね。
      ロボットの進化は、「人間とは何か」というテーマを人間にも強いるようになっていくかもしれません。
       

  3. かっちゃん より:

    高速あみだくじ回答生成装置としてのコンピュータの暴走や攻撃が脅威となるのは、規範性と分岐計算が機能の中核をしめるような分野、すなわち金融や防衛や物流でしょう。Yの字の先端にYの字を次々と接ぎ木するような世界(スケールを調整すると全体は扇型のようになります)の中で最短距離や最短時間を求める分野です。この世界はどんどん緻密度をあげるという指向性を持っていますが、携帯のネットワークを例にとるまでもなく、(原則的に)ノイズにはめっぽう弱いです。

    一方、農業や教育や医療はブースターとしてのITが機能不全に陥っても、程度の差はともかく、活動の源泉まで絶えてしまうわけではありません。コンピューターが自己崩壊するような場面に遭遇したとしても、次の瞬間からどこかしらにおいて植物は芽を吹き、子供達は生まれ、復興の掛け声はあがり、言葉は紡がれる・・楽観的すぎでしょうか?

    • 町田 より:

      >かっちゃん さん、ようこそ
      コンピューターの世界が、 >>「Y字の先端にY字を接ぎ木するように広がっていく」というお話は面白く拝読しました。それが金融、防衛、物流などの面には強さを発揮するが “ノイズ” には弱いという説明も納得がいきます。>>「高速あみだくじ回答生成装置」とは言い得て妙ですね。

      それって、かつてフランス哲学の分野で、「ツリー」と「リゾーム」とか言われたカテゴリー分類の話とも関連ありますか?
      そのへんの知識には暗いので、自分にはよく分からないのですが…。

      かっちゃんさんの話に関連するかどうか分かりませんが、かつてチェスで人間とコンピューターが対戦したときの話があります。当初、コンピューターの方が圧倒的に演算能力に優れ、かつデータストックも豊富なので、人間はなかなか勝てなかったと聞きます。ところが、あるとき、人間側が、定石とはまったく関係ない恣意的な(無意味な)駒をひとつ進めた。それがコンピューターの計算能力を狂わせ、人間に勝利をもたらしたという話があったように記憶します。それはかっちゃん さんがおっしゃる「ノイズに弱い」ということを補則する例の一つなのでしょうか?

      ただ、最近の対戦では、ついに人間もコンピューターに勝てなくなったようですね。それはもしかしたら、コンピューターも、人間の脳活動の “ゆらぎ” のようなものを体得してきたということとは違うのでしょうか?

      また、最近は、これまでコンピューターが苦手としてきた芸術創作分野でも人間的能力を付与させることにチャレンジしているという学者がいるという話も聞いています。
      私自身もまた、かっちゃんさんと同じように、コンピューターは “ノイズ” の処理力で限界があると考えているのですが、一方では、もしかしたらそれも近い将来くつがえされるという気がしないでもありません。
       

  4. かっちゃん より:

    つまるところ、単純作業の高速化の到達点は、ノイズ的な振る舞いを意図した「恣意的」好意さえも、確立的選択肢のひとつとして「先回り」して迎え撃つ、という点から逸脱することは無いでしょう。生物系の処理はスピード優先にはデザインされていません。

    高速化という意味では、物理的(電子のスピード)には光速度の壁がありますし、論理的には円周率の計算(実質的に無限時間かかります)が瞬時にできる様にでもならない限り一定の有限時間にとどまるでしょう。

    なので、「見かけ上」の凌駕はありそうですが、「原理的」な凌駕はなさそうです。
    アリスの三角形という面白い図形があります。方眼紙に一辺8x8の正方形を書き、上辺側と底辺を共に5:3に印をつけて分け、8x5と8x3の長方形ふたつに分けます。
    太い長方形の長辺(8)の両側にそれぞれ下から3:上から5、下から5:上から3と互い違いに目印をつけて3の点どうしを斜めに(できれば線は太めが良い)結びます。一方8x3の細い長方形の方は普通に対角線を一本だけ(太めに)引きます(直角三角形がふたつ出来ます)。

    さて、細い長方形からできたふたつの直角三角形を90度回転させ、高さが3の状態で、太い長方形の2分割からできた台形(5x3)の3の辺につなげると、5x13の直角三角形が二つできるので、そのふたつを斜辺同士あわせて5x13の長方形を作ってみてください。

    最初の正方形のマス数は8x8=64個ですが、出来上がった長方形のマス数は5x13=65個となり、いつの間にか「見かけ上」1個分増えています。お暇なときにでもお試しください!

  5. かっちゃん より:

    度々すみません。確立的>確率的、好意>行為でした。

  6. かっちゃん より:

    拙いですが・・5x3の台形と8x3の長方形はこんな感じです。
     ーーーーー ーーー
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    ーーーーー ーーー

  7. かっちゃん より:

    半角と全角が混ざってしまい見事にズレてしまいました(苦笑)ので、
    半角だけで投稿してみます。+が台形の斜辺のつもりですがそうなるかどうか。。??

    = = = = = o o o
    = = = = = o o o
    = = = = + o o o
    = = = + = o o o
    = = + = = o o o
    + = = = = o o o
    = = = = = o o o
    = = = = = o o o

    =====|===

    • 町田 より:

      >かっちゃん さん、ようこそ
      解りました。
      いろいろな図形なども具体的に提示いただき、数学的な訓練に長けていない私にも、かっちゃんさんの言わんとしていることが、おぼろげながら具体像としてイメージできたようです。

      要するに、コンピューターの演算能力がいかに高速化されようとも、「光速度」を超えることができない以上、あくまでも “疑似ノイズ” 的なふるまいにとどまらざるを得ないということなのですね。

      >>「生物系の処理はスピード優先にはデザインされていない」
      それが、機械系とは異なる生物系の能力の柔軟性を保証しているというようなことなのでしょうか。
      非常に勉強になりました。

      ただ、そのような機械系頭脳が、農業、教育、医療などの分野においても、人間が行っていた管理を代行するとなると、>>「活動の源泉まで絶える」ことはなくても、産業構造が変化し、現在の人間の感覚からすれば、ずいぶん窮屈な社会に移行するということはありませんか?
      「スピード優先にデザインされていない生物系」の脳は、そこからも自立を保っていけるのでしょうか?
      そのへんのことが、まだ自分には十分に考え尽くせない課題です。

      「確立」 → 「確率」
      「好意」 → 「行為」
      などの変換ミスは、追加の訂正コメントをいただきましたので、あえて前文を修正することは控えました。

      また、いろいろとご教授いただきたいと思います。
      よろしくお願い申しあげます。
       

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