木曽路を走り、馬籠宿を歩く

 

 木曽路を走ったのは、実は生まれてはじめてであった。
 漠然と、“山深い難所” というイメージがあって、走り抜けるにも時間がかかり、長期の休みでも取らないかぎり行けない場所という印象を持っていたからだ。
 お盆明けに1週間ぐらいの休みが取れたので、ようやく行くことができた。

 走ったのは、塩尻と中央道・中津川インターを結ぶ国道19号線。
 旧中山道ともいわれる道だ。

 山深い。
 右を見ても、左を見ても山が迫ってくる。
 道は、ところどころ細くて曲がりくねっているにもかかわらず、トラックとすれ違うことも多く、物流の大動脈でもあるようだ。
 
 道路沿いに「道の駅」が多いことも特徴。
 北から順に、
 「木曽ならかわ」
 「奈良井木曽の大橋」
 「木曽川源流の里きそむら」
 「日義木曽駒高原」
 「三岳」
 「木曽福島」
 「大桑」
 「賤母 (しずも)」
 10km ぐらい走ると、次の道の駅が出てくるといった印象だ。

 南木曽町を超えると、妻籠宿(つまごじゅく)と並んで人気の高い馬籠宿(まごめじゅく)がある。
 テレビの観光番組ではよく紹介される場所だが、もちろんここを訪れたのもはじめて。

 駐車場にクルマを止めて、まず周囲の景色を見渡す。
 どこを見ても、濃い緑に覆われた山、また山。
 「木曽路はすべて山の中である」
  と、この地で生まれた文豪島崎藤村は、代表作の『夜明け前』の書き出しでそう語ったが、なるほど木曽山脈と並行して走る道だけあって、見飽きるほどの山々が連なっている。

 この山深い地が幸いしたのか、早々と整備が進んだ東海道などと違い、江戸時代からの街道や宿場町の景観が残されているのが、この旧中山道の特徴ともいえそうだ。
 馬籠宿は、そんな古(いにしえ)の宿場町の風情をたたえた貴重な観光地のひとつである。

 
 
 もっとも、町そのものは新しい。
 明治28年と大正4年の火災により、江戸期からの町並みは焼失し、現在残されたものは、その後に復元されたものだという。
 確かに古びた家々が連なっているようで、どことなくテーマパーク的な雰囲気があるのは、観光地としての再生を意図した町づくりが進んだせいかもしれない。
 とはいえ、建物の “色あせ具合” が本物っぽく、並みのテーマパークとは年季が違う。土産物屋の看板などもほど良くくすんでいて、いい味を醸し出している。


 
 坂を登っていくと、左手に古びた水車小屋。
 そこから道は、直角に折れ曲がり、ゆるやかな坂がさらに続いていく。
 このあたりを「枡形(ますがた)」というのだとか。
 枡形というのは、城郭などで敵の軍勢が通過するのを妨げるためのクランクのことをいうらしいが、昔はこの宿場町の防衛のために機能していたのだろう。


 
 やがて右手に出てくるのは、清水屋資料館(↓) 。
 島崎藤村の作品『嵐』に出てくる登場人物の家だという。
 中には、藤村の書簡、掛け軸、写真などをはじめ、江戸期の生活道具などを保存され、この町でも貴重な文化遺産となっている。

 資料館の近くには、土産用の銘菓などを売る商店が連なる。
 川上屋(↓)は、元治元年(1864年)から続いている和菓子屋。本店は中津川宿にあるらしいのだが、これはその馬籠店。

 ここでは名物の栗きんとんを買う。
 本来は、栗の収穫期となる9月に入ってから売り出されるものらしいが、今年は栗が早くから採れたため、8月後半に売り出したという。
 製法は素朴ながら、栗そのものの味を濃く保った本物の風格があった。

 その近くには、焼いた山栗を売る田中屋(↓)がある。
 どうやらこのあたり一帯は、栗の産地のようだ。
 焼き山栗は試食するだけでもいいので、観光客がむらがっている。
 小袋で600円。
 一袋買っても、「もう一つおまけ」とばかりに、さらに試食品を手渡してくれる。
 実に鷹揚(おうよう)。
 この地が観光地として潤っているせいか、どの店を覗いても、ぎすぎすした感じの店主がいない。 

 土蔵を改造した「茶房 土蔵」(↓)という喫茶店に入る。
 120年近い米蔵を改装した店だという。

 入口は、いかにも「狭くて暗い土蔵」という雰囲気であったが、中は意外と広く、坂道に面したテーブル席が長く続いていて、見晴らしは上々。
 いちばん奥のテーブルに陣取ると、そこから中津川市内の景観が遠望できた。

 周りの空気が、急にひんやりと感じられるようになった8月の後半。
 開け放たれた窓から入る風は天然のクーラー。
 ていねいに落とされた香りの高いコーヒーの温かさが、なぜかほっとする1日だった。
 

  
  

カテゴリー: 旅&キャンプ   パーマリンク

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong> <img localsrc="" alt="">