徳大寺有恒という生き方

  
 今月号の 『NAVI CARS (ナビカーズ) 』 は “保存版” と銘打って、自動車評論家の徳大寺有恒さんを特集しています。
 
  
  
 タイトルは、ずばり 「徳大寺有恒という生き方」 。
 
 確かに、この世に自動車評論家はあまたおりますが、「生き方」 という言葉で表現できる評論を書けるのは、世界広しといえども、徳大寺さんぐらいしかいないかもしれません。 
 
 自動車を語ることが、すなわち人生を語ること。
 のみならず、自動車を通じて世界の文化を語り、音楽を語り、芸術を語り、文学を語る。
 そういう “知の領域” を横断的に逍遥し、機械のかたまりに過ぎない自動車に血を通わせ、魂を取り出し、スリリングなエンターティメントに仕立てる “言葉の魔術師” 。
 そういう自動車評論家と同時代に生きられた僕らは、幸せ者かもしれません。

 『NAVI CARS』 の特集では、その徳大寺有恒の自動車美学が生まれてくる背景にずばり迫真しています。
 世に 「徳大寺」 の名前を広めた 『間違いだらけの車選び』 に始まり、自動車評論家としての軌跡を回顧した 『駆け抜けてきた』 に至るまで、その主著13冊を徹底分析。
 
 
 
 さらには、元 『NAVI』 誌の看板記事 「NAVI TALK」 で、白熱の議論を展開した大川悠元編集長の思い出話。『間違いだらけ … 』 を創刊した草思社の元社長木谷東男氏の談話なども収録。

 ご本人が特に愛したジャグァー、フェラーリ、ベントレー、シトロエンなどのご自身の手による分析記事も読み応え十分。
 稀代の評論家 「徳大寺有恒」 を、さまざまな角度からスポットライトで照らし、その多面的な魅力を立体的に浮かび上がらせた編集部の手腕はなかなかのものです。

 なかでも、若いころから徳大寺さんを陰で支えてきた奥様のインタビュー記事は秀逸。
 今まであまり取り上げられることのなかった 「家庭内から見た徳大寺像」 というのも、今回の目玉記事の一つではないでしょうか。

 奥様と結婚されてから5年目。
 最初に始めたカー用品会社が倒産。
 「自動車評論家」 を目指しながら、自分の車さえ持てない借金まみれの貧乏暮らし。
 
 それを支えたのが奥様。
 「あなた欲しい車があるなら思い切って買ったら ? 」
 そういって、奥様が自分の働き分からお金を工面して手に入れたのが、VWゴルフ。
 この車に乗ったときの印象から、あの出世作の 『間違いだらけの車選び』 が生まれてくるわけですから、人生、何が縁になるか分かりません。

 記事の最後に出てくる奥様の万感こもった言葉が印象的です。

 「半世紀以上、主人と一緒にいて私も面白かったですね。本当に波瀾万丈でしたから」

 その一言からも、「徳大寺有恒」 は夫婦二人で作られてきた “ブランド” なんだということが分かります。

 この 『NAVI CARS 徳大寺有恒という生き方』 。
 私が担当した 『ダンディー・トーク』 という単行本も取り上げていただきました。徳大寺さんと一緒にお仕事をさせていただいたときの思い出話を4ページほど書いています。

 また、「NAVI CARS編集部が選ぶ徳大寺有恒を知るための13冊」 には、『ダンディー・トーク』 のⅠとⅡも収録していただきました。
 特に、Ⅱに関しては、沼田亨さんが好意的な批評を書き添えてくれました。
 『ダンディー・トーク』 は自分にとっても思い出深いシリーズなので、まさに編集者冥利に尽きるというものです。
 
 
関連記事 「徳大寺有恒 『ダンディー・トーク』 」

参考記事 「塩野七生 × アントニオ・シモーネ 『ローマで語る』 」 (塩野七生さんと徳大寺有恒さんの対談)
  
  

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徳大寺有恒という生き方 への2件のコメント

  1. 刀猫 より:

    小学校高学年から自動車雑誌を毎月三冊位読んでいる様な自動車雑誌オタクでした。
    当時の試乗記は「コーナリング性能は良いが灰皿の使い勝手が悪い」みたいな適当な提灯試乗記事が多かった様に思います。
    そんな時代にモーターマガジン?の試乗記の中に「こんなブレーキ性能では危険だ」
    「加速することで危険を回避する事もあるのだから、こんなに遅くてはいけない」
    なんて過激な書き方をするレポーターが現れて、余りの書き方に小学生だった私でも
    自動車会社に訴えられるんじゃないかと心配したほどでした。
    その方が後の徳大寺さんだったんだと思います、当時は本名だったのかな?
    それからはレポーターの名前を確認して試乗記を読むようになりました。
    今でもはっきり覚えてますが凄いインパクトでした。

    • 町田 より:

      >刀猫さん、ようこそ
      昔の自動車雑誌の試乗インプレッションは、確かに「乗り味とインテリア造形への印象」が主要記事でしたね。特にコーナリング性能への言及は避けては通れなくて、やれアンダーだのオーバーだのと、ほとんどサスペンションチューニングでなんとかなるようなことばかり中心に言及していたように思います。
      徳大寺さんが新しい評論のスタイルを確立したとしたら、それは自動車設計の根本に立ち入ったことではなかったでしょうか。重量バランスとかパッケージングという、それまであまり取り上げられなかったことに注目する視点が、新しいスタイルを確立することにつながったように思います。
      それがVWゴルフから得た教訓であったことは、その後何度も触れられていますね。

      「徳大寺有恒」というペンネームは、『間違いだらけ … 』 以降ですから、それ以前となると、本名「杉江博愛」で書かれていた記事になるのでしょうね。
      ただ、やはり有名になったのは “徳大寺” 以降ですから、それ以前の記事を読まれたとしたら、それは貴重な体験だったのかもしれませんね。
       

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