綾瀬はるか 天然

 
 昼休みの時間帯。
 僕は、駅前ビルのフードコートで、生姜焼き定食を咀嚼していた。

 「紅白見たぁ !? 」
 「見ったぁ !! 見ったぁ !! 」

 隣のテーブルに陣取った若いOL風の5人組女の子が歓声を上げている。
 たぶん、冬休みはそれぞれの実家に帰って紅白歌合戦を眺め、休みが明けて、久しぶりに仲間に会ったのだろう。

 「私なんかさぁ、学生の頃より真剣に見たよ」
 「なんで ? なんで ? … 実は私もそうなの !! 」
 「社会人になると、やっぱり紅白見るよねぇ !! 」
 「見るよねぇ !! 」 

 う~ん ……
 社会人になると、紅白を見る ? 
 そこのところの因果関係が、今ひとつ分からない。
 とにかく、最近の若者の心情は分からないことばかりだ、と思いつつ、生姜焼きの切れ端を箸でつまみ、口の中に入れたとき …… 。

 「だっけどさぁ、ガッカリだよね、綾瀬はるか」
 「ほんとだよねぇ、イライラしたよね」
 「私さぁ、もう今回120%ぐらい好きになるつもりでいたの」
 「私も !! 私も !! 」
 「だけど、腹立ったよねぇ !! 」
 「ほんと !! ほんと !! イライラしたぁ。私、録画取っていたの止めちゃった」

 OLたちの話題は、昨年の紅白の司会を務めた綾瀬はるかに及んだ。
 しかも、そうとう評判が悪い。

 確かに、自分も紅白を見ていたから分かるのだけれど、最初から歌手の曲名を忘れたり、セリフを噛んじゃったり、まぁ、綾瀬はるかの司会は近年にない迷走ぶりで、そうとう不安ぶくみのステージになってしまったのも事実。

 しかし、意外とそのボケっぷりがウケて、視聴者の綾瀬はるかに対する印象は、案外良かったという話も聞く。
 卒なくバラエティ番組をこなす女性タレントが溢れるなかで、この日の綾瀬はるかは、素人よりも不器用な女優でしかなかったが、それがなんとも希少価値に思えたものだった。 

 だが、OLたちはそうは見ないんだな。
 
 「綾瀬はるかって、なんであんなにモタモタするんだろうね。嫌だね」
 「嫌だね !! 嫌だね !! でもさぁ、能年玲奈もおんなじ !! 不器用だよね。あれじゃ嵐がかわいそうだよね」

 いやぁ、予想外の展開。
 能年玲奈といえば、昨年日本中の人々がいちばん注目した役者じゃないか ?
 “天下のあまちゃん”
 畏れ多くも、そのあまちゃんに、「不器用だよね !! 」 と容赦ない批判を浴びせるとは … 。

 綾瀬はるか
 能年玲奈

 この二人が、いま 「好感度の高い女優」 ということで引っ張りダコになっているのは、むしろ、その不器用さゆえではなかろうか。
 
 今テレビをみれば、 “反射神経だけ !! ” の芸人ばかり。
 バラエティでもクイズ番組で、その場の空気を瞬時に読み取り、当意即妙に切り返すだけの話芸で 「笑い」 をつかむタレントしか出てこない。
 見ているうちに、それが当たり前のようになってしまい、そういうタレントのテンポに少しでも乗り遅れた人が登場すると、もうそれだけで空気が澱んだふうに感じられてしまう。
 能年玲奈だって、民放のバラエティに出演したときは、空気の読めなさすぎが際立ってしまい、まさに 「宇宙人」 に見えたからな。

 しかし、今の日本のマジョリティーたちは、むしろ綾瀬と能年の不器用さに 「誠実さ」 や 「真剣さ」 を見出してきているのではなかろうか。

 世渡りのコツを骨の髄まで染み込ませたようなバラエティのお笑い芸人たちと比べ、綾瀬はるかと能年玲奈には、「初々しさ」 がある。その 「初々しさ」 を今の時代では貴重なものだと感じる人が増えているような気がする。

 だが、それは、同じような “初々しい (?) ” 年齢の若いOLたちにしてみれば評価の対象にはなりえなかったのかもしれない。その手の 「初々しさ」 は、同年齢の若い女性からすれば、モタモタしている自分を見ているようで許せなかったのだろう。

 そういった意味で、小さいときからバラエティ番組の “テンポ感” を身に付けた若い人には、きっと綾瀬はるかも能年玲奈もトロく見えるんだろうな。  

 でも、ものごとには何でも反動がある。
 ここしばらくは器用な芸人たちの天下が続いたけど、その空気に疲れた年配の人たちもいっぱいいて、逆に天然ボケのタレントに癒やしを感じる時代が来ているのかもしれない。

 ま、その次は、そういう流れに対する反動というものも、きっと出てくるんだろうけどね。
 
 

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綾瀬はるか 天然 への2件のコメント

  1. クボトモ より:

    他人を評価する基準も二極化?しているのかも知れませんね。
    ひとつは、何事もそつなくこなし華やかな人生を歩く人、
    つまり「勝ち組」と呼ばれているタイプを支持する人々。

    もう一方は、光るものはひとつくらいしか持ってないけど、
    それに懸命になっている人。
    他のことには不器用で、しかし実直で
    いわゆる職人肌のタイプを支持する人々。

    綾瀬はるかさんも能年玲奈ちゃんも素敵だなと思いますし、
    コツコツと時計を直し続けてウン十年という職人さんや、
    和製ボブスレーを作るために全財産と全時間を投げ出した人が
    僕にはキラキラ輝いて見えます。
    僕は二つ目を支持する派なんでしょう(笑)

    それぞれ価値観の違いですから
    どちらを支持するのも間違いでは無いと思うのですけど…。
    ただ自分が支持しない方を酷く言うのはちょっと違うかなと思います。
    自分と価値観の違うものを叩く風潮は、後にどんな反動を生むのでしょうか。

    • 町田 より:

      >クボトモさん、ようこそ
      ああ、なるほど !!
      >>「人の評価の基準が二極化している」 と言われれば、確かにそのとおりですね。これは、おっしゃるように、日本人の社会意識が二極化していることのあらわれなんでしょうね。

      ご指摘のとおり、>>「そのどちらが正しい」 ということはなく、バランスのいい社会というのは、その相反する評価が両輪となって進んでいくことで達成されるわけですから、どちらかを排除すればいいという問題ではないですよね。
      だから、>>「自分が支持しないものを酷く叩く」 という風潮には自分もなじめません。

      実は、役者としての綾瀬はるかも能年玲奈も、自分はそれほど評価していなんですよ。(役者として “うまいなぁ !! と感心する尾野真千子さんの絶対的なファンなもので … ^_^; )
      だけど、紅白でたどたどしい態度しかとれなかった綾瀬はるかと能年玲奈には、けっこう共感しました。「頑張れよ」 と素直に応援したくなったくらいです。
       

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