ブルースに抱かれて眠る

  
 ピーター・バラカン氏の『わが青春のサウンドトラック』という本を読むと、彼の黒人ブルースに対するなみなみならぬ情熱がよく伝わってくる。

 氏が音楽に目覚めたころ、イギリスでは白人のブルース・ロックが花盛りだった。
 1960年代の話だ。
 もちろん、彼もそれに触発されて当時のブルース・ロックを聞き漁るようになっていくわけだが、次第に、白人のものより本場ものの黒人ブルースにのめり込んでいくようになる。

 結局、「ロックの原点」はブルースにある、とバラカン氏はいう。
 「ロックというのは、メロディーよりもハーモニーよりも、まずはじめに “リズムありき” の音楽だけれど、そのロックのリズムの原型はブルースであり、ブルースの波動をロックから抜いてしまうと、ロックそのものが成り立たない」
 とも。
 だから、ビートルズもストーンズも、まずブルースから学んだし、クリームもツェッペリンも最初はブルースを踏襲した。 
 
 後に、ロックにもさまざまなジャンルが生まれることになるが、新しいロックは、今度はそのブルースからいかに遠ざかるかということを意識しなければならなかった。
 それが、パンクからニューウェーブに至る路線や、ヘビーメタルなどになっていくわけだけど、陶酔するにせよ、反発するにせよ、すべてのロックはブルースの影響下にあったといえよう。

 ブルース独特の、あの沈み込んでからフワッと浮くようなリズム感は、人間のもっとも原始的な生理のリズムをなぞっているように私には思えてくる。
 それこそ、狩猟民たちがエモノをしとめて、食料を待っている女や子供たちのもとに帰るときの軽やかな足取りとか、たらふく食べた後に、火の周りで踊り始めたときの腰の動き。
 ブルースというのは、万年単位で人類が作り上げたリズムだという気がしてしょうがない。

 というわけで、ここでは自分のお気に入りのブルースを、ちょいとご紹介。

▼ まずは大御所マディー・ウォーターズの「ムスタング・サリー」。1965年にマック・ライスが作ったR&Bの名曲。ウィルソン・ピケットのカバーで大ヒット。マディーの演奏もだいぶR&Bっぽいアレンジになっている。だけど、ブルースの巨人の手になるだけあって、貫禄が違う。
 

▼ 「アイ・プット・スペル・オン・ユー」は、1956年にスクリーミン・ジェイ・ホーキンスが作った曲。映画『ストレンジャー・ザン・パラダイス』で、ハンガリーからアメリカに渡ってきた女の子がテープ・レコーダーでいつも聞いていたのが印象に残っている。オリジナル以外となると、白人ロックバンドのクリーデンス・クリアウォーター・リバイバルのカバーが有名。ここでは、バディ・ガイの演奏で。
 

▼ 昔から好きだったブルースマンの一人にマジック・サムがいる。若いころから本当によく聞いていた。ギターワークの派手さはないけれど、モダンブルースの雰囲気をよく捉えている人だと思う。何が素敵かというと、シルキーな歌声。ヴィブラートしながらハイトーンで突き抜けていくこの人の声には、「セクシー」という言葉を与えたくなる。名曲がいっぱいあるけれど、ここでは、たゆたうような雰囲気をたっぷり味わうことのできる 「ストップ・ユア・ハーティング・ミー」をチョイス。
 

▼ ブルースを知らなくても、名前だけは知っている人の多いB・Bキング。1925年生まれというから、現在88歳。2000年には、75歳でエリック・クラプトンとの共演アルバムを残しているというくらいだから、老いてもなお盛んなブルース界の巨人だ。代表作に「スリル・イズ・ゴーン」があり、YOU TUBEにもたくさんのライブがUPされている。この「スリル・イズ・ゴーン」は最初聞いたとき、ずいぶん線が細くて “やわ” なブルースだと思った。しかし、1992年のロック・ギタリストのゲイリー・ムーアとの共演バージョンを聞いて、なんてカッコいい曲なんだ ! と思い直した。線が細いと思った、あのタンタンタンと淡々と繰り返されるリズムが、今はなんとも心地よい。
 

 
▼ オーティス・スパンは、実は名前しか知らなかった人だが、YOU TUBEで拾って、一発で気に入った。リラックスした感じでピアノを弾く姿が、なんとも「ブルースしている !! 」という感じでカッコいい。この「テイエント・ノーボディズ・ビジネス・イフ・アイ・ドゥー」という曲は、1920年代ぐらいから歌われていた曲らしく、ビリー・ホリディやエラ・フィッツジェラルドなどのジャズ畑の人に好まれていたようだ。日本では京都のウエストロード・ブルースバンドがレパートリーとして取り入れていた。ギターギンギンのブルースに少し疲れると、こういうのが心地よくなる。映像も音も古めかしいが、最近のラウンジ・ミュージックなどの表面的でのっぺりした都会性に比べると、こっちの方が都会の<闇>と<光>をしっかり捉えている気がする。つまり洒落ている。今日はこれを子守唄代わりに。ブルースに抱かれて眠ろう。
 
 
  

参考記事 「ピーター・バラカン 『わが青春のサウンドトラック』 」

参考記事 「Born Under A Bad Sign」

参考記事 「ヘビーメタルとオペラ」

参考記事 「ブルースの正体 (映画 キャデラック・レコード) 」
 
参考記事 「歌謡ブルースの謎」
 
 

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ブルースに抱かれて眠る への2件のコメント

  1. guchi3 より:

    町田さん、マディー・ウォーターズ、バディ・ガイ、いいですね!マディー・ウォーターズではベタベタですが、「フーチークーチマン」がノリが良くて大好きです。バディ・ガイでは「74Years Young」も大好きです。高校時代に「フーチークーチー」や「mojo」の意味が分からず、今だったらインターネットで簡単に調べられるんですが、その当時はその意味を知るのに苦労しました。他にハウリング・ウルフ、ロバート・ジョンソン、ジョン・リー・フッカー、憂歌団、ロリー・ギャラガー・・・・書ききれません!一つおすすめは、元キャロルのギタリスト内海利勝の「LOVE&PEACE」はお勧めです。一度機会があれば聞いてみてください。

    • 町田 より:

      >guchi 3 さん、ようこそ
      やぁ、びっくりです。
      guchi 3 さんのロックに対する造詣の深さには並々ならぬものがある、とは感じていたのですが、ブルースについてもかなりの関心を抱いていらっしゃったことが分かり、敬服いたします。
      ハウリング・ウルフ、ロバート・ジョンソンの名前などが出てくるところをみると、guchi 3 さんが、ただの “教養” としてブルースを知っているのではなく、かなり敬愛されている様子が伝わってきます。

      「フーチー・クーチー・マン」 は、最初ステッペンウルフのアルバムで知りました。
      当時は、まだブルースのことをよく知らなくて、ただ、「カッコいいロックだな ! 」 と思っていただけですけど、ああいう形式がブルースのコード展開から来るものだと後に知って、それがきっかけでブルースに興味を持つようになりました。

      内海利勝さんの 「LOVE&PEACE」 というのは、YOU TUBEで拾ってみましたけれど、FM番組なんですね。
      キャロルの “うっちゃん” が、こんなに渋い知的なオジサマになっているとは。
      彼が歌っているテーマソングも素敵でした。
      いつも有益な情報、ありがとうございます。
       

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