「亀田音楽専門学校」 は面白い

 
 NHKという放送局は、やはりすごい番組を作っていると言わざるを得ない。
 さすが、企業からスポンサードを受けなければ番組を作れない民放とは違う。
 視聴者から金を取っている局の強みだな。
 
 別に巨額の制作料を必要とする “大河ドラマ” が作れるという意味じゃないないんだ。
 Eテレで、『亀田音楽専門学校』 みたいな番組をさらりと作ってしまうことが 「すごい ! 」 と言いたい。

 この番組は、一言でいうと、今の J-POPなどの音作りの秘密をメロディー、コード、リズムなどの音楽要素に分けて解析する “音楽教養番組” 。

 ボサボサ頭の少し垢抜けないNHKアナウンサー (?) が、なんだかやたら音楽に対して熱っぽく語っている “変な番組” として、最初はボケッと観てただけなんだ。
 
 
 
 だけど、そのボサボサ頭の人が (局アナではなく) 、この番組の講師である亀田誠治センセイであると知った。
 この亀センセイの話がきわめて面白いのだ。

 まず、問題提起の視点がいい。
 たとえば、「音階」 というテーマがあったとしようか。
 日本の伝統的音楽として古来より伝わる “ヨナ抜き” 音階。
 それをさっそくピアノなどを使って、明治以降に導入された西洋音階とどう違うか、まず視聴者に聞かせる。 

 そこから、どんな “情緒” の違いが表れるのか。
 それを 「言葉」 として取り出すときのボキャブラリーが豊富。

 さらに、その日本独特の音階が、現在の J-POPヒット曲のなかで、どのように消化されているのか。
 それをゲスト講師といっしょに探り当てていくときの、選曲の意外性が新鮮。

 楽曲理論に詳しい人なら、 “当たり前の話” かもしれないけれど、音楽の勉強などしたことのない私のようなド素人には、どの話もみな刺激的で、たちまち耳はダンボ、目はケロロ軍曹になっちゃう。

 で、最初に観たときは、ゲストにアンジェラ・アキを迎えて 「転調」 を語っていたのだけれど、ポップスにおける転調が、洋楽と J-POPではどう違うのかという話が面白かった。

 正統的な転調においては、洋楽も J-POPも変わらない。
 Aメロからサビに移って、さらにそこから転調してキーを上げる。
 そのとき、曲としての “盛り上がり感” が生まれ、フィナーレに向かって劇的な効果を高めていくことになるのだが、もちろん歌手にとっては苦しい展開となる。

 ま、だからこそ、プロの歌手の本領発揮ということになるわけで、その例として、MISIAの 「Everything」 が出てきたけれど、これは歌のうまいMISIAだからこそ安心して聞いていられる例。
 私が思うに ( … 亀センセイが言ったわけではないけど) 、AKBじゃ無理だろう。
 
 以上が、正統的な転調の話。
 しかし、J-POPには、 “シークレット転調” というものがある、というのだ。
 これは、転調することによって、むしろメロディーの連続感を保つというもの。

 正統的な転調だと、メロディーの音域も変わって … 普通は高くなっていくわけだから、歌手にとっても、またその曲をカラオケなどで歌うファンたちにとっても歌いづらくなる。

 それを、転調によって、こっそりと同じ音域を保っていく。
 だから聞いている方は、そこで転調が行われているということが分からない。

 亀センセイが言うには、その 「シークレット転調」 こそ、 “おいしいメロディー” を曲の最初から最後まで味わい尽くす J-POPならではの高等戦略なのだとか。そのおかげで、AKBの歌も最先端 J-POPとして君臨していられるわけ。

 「へぇ ……、そうなんだ」
 またしても、私の目と耳は、下の絵のようになる。
  
  
  
 この前聞いた話は、(先にも述べた) 「ヨナ抜き音階」 についてだった。
 
 ヨナ抜き音階とは、ドレミファソラシドの西洋7音階から、「ファ」 と 「シ」 を抜いた5音階のこと。
 西洋音階が導入されるまで、日本の庶民的な歌謡を貫いてきたのが、この5音階で、日本人にとってはこれこそが日本歌謡の “ふるさと” であり、つまりは子守唄であり、恋の歌であり、葬送の歌だったわけだ。

 で、明治になって、ドレミファソラシドが入ってきたとき、その音階に慣れない日本人は、そういう西洋的な歌を、技術的にも感覚的に歌いこなせなかった。
 そこで明治政府は、伝統的なヨナ抜き音階を使って、チョコっと洋楽風に仕立てる新しい国民歌謡を作ることを奨励。
 それが 「唱歌」 、「童謡」 という形になって、明治、大正、昭和の音楽教育の基礎となったとか。
 
 だから、日本の歌謡曲のベースには、このヨナ抜きがある。
 それが、「もーもたろさん、ももたろさん … 」 という童謡に始まって、北島三郎の 「は~るばる来たぜ、ハ~コダ~テ~」 (函館の女) という演歌に至るまで、日本的な音楽情緒をかもし出すときの基盤となった … ということなんだな。
 ふう~ん。

 で、面白いのは、このヨナ抜きが、J-POPの黎明期においても力強いメインストリームを形成していて、ユーミンの 「春よ、来い」 なんかにも明瞭に表れているというのだ。
 
 「春」 という、明るい日差しが降り注ぐ季節を歌いながらも、この曲に漂う一抹のさびしさとはかなさ。
 それこそ、満開の桜が、チラリと花を散らすときの “諸行無常の響きあり” (平家物語) 的な無常観。
 そういう日本人の美意識は、このヨナ抜き音階から生まれている、… という、まぁ、すっごい話になっていくわけよ。

 で、そんな話を聞いている私は、またこんな (↓) になっちゃうわけ。

 ヨナ抜きが、最先端 J-POPにも生きている例として、Perfumeの 「レーザービーム」 とか、きゃりーぱみゅぱみゅの 「つけまつける」 なども出てきた。
 確かにこれらのサウンドは “ハイテクジャパン” を象徴するテクノ系なんだけど、使われるメロディーは見事にヨナ抜き。
 つまり、まったく気づくことなく、僕らはいまだに 「諸行無常の響きあり」 の世界を生きているということなんだね。

 このようなヨナ抜き音階の曲は、外国人からどう思われているのか。
 それが 「クールジャパン」 というわけなのよ。
 つまり、エキゾチックで新鮮なワンダーメロディ。

 日本の歌で、世界的なヒットとなった坂本九の 「上を向いて歩こう」 。
 あれなんか、外国人にとっては “ジャパンテイスト全開” のミラクル歌謡だったんだね。
 そこには、単にメロディーがきれいだった、ということを超えたものがあった。
 彼らは、自分たちの持ち得なかった異文化をそこに感じたわけよ。

 YMOが世界的に評価されたのも、同じ理由によるらしい。
 日本人の私としては、YMOは外国のテクノポップの真似事。つまりは、クラフトワークなんかの亜流にしか思えなかったけど、彼らの 「ライディーン」 などという曲は、ヨナ抜きメロディーの見本として、外国人に感じられたとか。

 で、この 「ヨナ抜き話」 の次のテーマは、「オトナのコード学」 だという。
 どうやら、メジャー7th に焦点を当てるらしい。
 メジャー7th ってのは、自分も大好きなコードだから、こりゃ観なくちゃね。
 もう予約を取った。
    
 
関連記事 「オトナのコード学だって !! 亀田音楽専門学校」 
  
参考記事 「きゃりーぱみゅぱみゅとAKB48」
 
参考記事 「70年代スイートポップス (メジャー7th について) 」
  
 

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「亀田音楽専門学校」 は面白い への8件のコメント

  1. わたなべたつお より:

    亀田誠治氏、毎日j-waveでお昼(13;00~)に喋ってますね。これまた同じノリで面白いですよ。
    http://www.j-wave.co.jp/blog/fmkameda/

    • 町田 より:

      >わたなべたつお さん、ようこそ
      亀田誠治さんの存在に、ずいぶん前から気づいていらっしゃるなんて、さすが、わたなべさんのアンテナ感度は鋭いですね。
      お教えいただいた亀田さんblog のアドレスは、さっそくお気に入りに追加しておきました。
      おっしゃるように、面白い !! そして勉強になる。
      良いものをご紹介いただき、ありがとうございます。
       

  2. クボトモ より:

    こんにちは。
    僕の職場ではずっとJ-WAVEがかかっておりますので亀田さんはお馴染みです。
    しかしこの番組は知りませんでした。教えていただき感謝!です。
    音楽は好きだったけれど音楽の授業が嫌いだった少年時代。
    こんな面白いお話が聞ける音楽の授業だったら
    何か別の化学反応が起きたかも知れません。

    • 町田 より:

      >クボトモさん、ようこそ
      そうですかぁ ! ラジオを聞いていらっしゃる方々にとっては、亀田さんはすでに大変な有名人だったわけですね。
      いやぁ、ちょっと疎くて恥ずかしいです。

      でも、テレビの「亀田音楽専門学校」 は面白いですよ。
      けっこう知的なスリルがあります。
      こういう音楽番組、好きですねぇ。
       

  3. こんにちは、町田さん

    私は今年のお正月の第1回、第2回の放送を見て度肝を抜かれました。
    ケロロどころじゃありませんでした。。。

    音楽って小さい頃からずっと聴いて育っていて
    誰もがそれぞれ、曲に想いを持っていたりするのに
    音符が読めない人が多いからなのか、感覚的すぎるからなのか分からないですが
    どんな考え方が詰まっているか、なんでグッとくるのか
    分からないまま聴いているだけだったりしますよね。

    ピアノが弾ける人でも、この構造を知っているわけじゃないです。

    この番組は本当に革新的です。
    音楽の構造が分かることで、今まで以上に懐かしい曲やこれから聴く曲への
    想いが深まっていくわけですから。

    音楽のデザイン、すばらしいです。

    • 町田 より:

      休日デザインさん、ようこそ
      はじめまして。
      おっしゃるとおりですね。音楽というのは、幼い頃からずっと聞いてきたし、学校の授業でも習ってきたので、けっこう親しんでいるものと思い込んでいましたが、やっぱり、こうして亀田さんに改めて教えてもらうと、もう 「びっくり !! 」 の大行列です。

      音楽を作る側の人たちはもちろんのこと、我々のような 「聞くだけが専門」 の素人においても、“音楽の理論” を知っているか知らないかによって楽しみ方の幅が大いに変わることが分かりました。

      前回の 「七変化のテンポ学」 でも話が出ていましたけれど、その場の思いつきや感覚だけを頼りに音楽をつくることも可能ですが、やはり “理屈” を知っていると、「迷ったときに、良い方向へのお導きがある」 とのこと。

      「理屈は迷ったときの羅針盤」 という言葉は、音楽だけでなく何にでもいえることかもしれませんね。
      改めて、“勉強” の大切さを知った次第です。
       

  4. MASS より:

    初めまして。
    私はこの番組を知ったのは7回目からで、それまでの回を見逃してしまい
    非常に後悔しています。とても面白い番組です。
    今ではこのような良心的な番組はNHKしかつくれないというのは同意です。
    昔はフジテレビでも「音楽の正体」という同じようなコンセプトの番組を
    作っていたんですけどね。

    Wikipedia「音楽の正体」↓
    http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9F%B3%E6%A5%BD%E3%81%AE%E6%AD%A3%E4%BD%93

    • 町田 より:

      >MASS さん、ようこそ
      こちらこそ、はじめまして。
      フジテレビの 『音楽の正体』 は知りませんでした。
      でも、貼ってくださった Wiki の情報を見るかぎり、なかなか面白そうな番組だったようですね。

      『亀田音楽専門学校』 もそうですけど、やはり音楽文化を発展させるためには、こういう “音楽の聞き方” を教えてくれる番組が欠かせないように思います。

      亀田さんの番組では、この前やっていた “シンコペーションの話” も非常に面白く鑑賞しました。出演者たちとのトークが絶妙でした。
      ゲストの槇原敬之さんと亀田さんとのやりとり。
      特に、J ポップのシンコペーションの使い方に、民謡の 「エンヤトット♪」 と同じリズム感があると気づくところのスリリングな展開。
      まるで、生番組を見ているような刺激がありましたね。

      頭の回転がよくて、しかも音楽センスに溢れた人たちの会話は本当に面白いなぁ … と感心した次第です。

      人気のある番組なので、そのうちBSなどで、最初からまとめた再放映をするかもしれませんね。
       

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