C.W.ストーンキングって何者 ?

 
 時に、とんでもない時代の、とんでもない空間から流れてきたような音楽を拾うことがある。
 そんなとき、
 「わ、何だこれ !? こういう曲が流れている状況を、いったいどう想像すればいいの ? 」
 という気分に襲われる。

 CWストーンキングの音楽に最初に触れた印象が、そういう感じだった。

 もちろん、こういう演奏スタイルが 1920~1930年代のアメリカの大衆音楽としてもてはやされていたことは知っている。その時代を描いたアメリカ映画などにはさんざん出てくるからだ。

 だから、このストーンキングの音楽に触れたとき、すぐに浮かんできたのは映画のシーンだった。
 たとえば、アメリカの禁酒法時代を描いたギャング映画。
 アル・カポネなどのマフィアのボスが暗黒街を闊歩 (かっぽ) し、FBI のエリオット・ネスらとマシンガンを撃ちあうみたいな … 。
 そういう 『アンチタッチャブル』 とか、『ゴッドファーザー』 ( ← 時代背景は禁酒法時代の後だけど) のようなギャング映画では、ナイトクラブなどのシーンでこういう音楽が流れる。
 
 田舎町とは違う大都会のゴージャスな喧騒。
 そういう雰囲気を出すときには、ぴったりの音楽でもある。 
 
 しかし、基本的には、自分が生まれる30年くらい前の音楽だから、アメリカの一般庶民が、どういうシチュエーションでこういう音楽を楽しんでいたのかという、その “空気” のようなものがつかめない。

 映画に流れてくる音楽は、映像効果を高めるための装飾として使われるものだから、当時の一般市民の生活感覚をそのまま伝えるものではない。
 まさか庶民が、毎晩高級レストランで、こういう音楽の流れるディナーショーを楽しめたはずもないしね。
 (※ この少し後の時代、1940年代以降のモダンジャズの時代になってくると、自分でも皮膚感覚的につかめるようになるのだけど)

 だから、この20年代当時の音を伝えるCWストーンキングの音楽は、私にとってはある種の異次元体験であり、 “歴史資料“ でもあったし、 “SF的世界” でもあった。

 と、書くと、このストーンキング。
 そうとう古い時代のミュージシャンであるかのように思われるかもしれない。 
 しかし、生まれたのは1985年。現在、まだ20代後半という計算になる。

 いったい、どういう人か ?
 なぜこの人は、こういう音楽に魅せられたのか ?
 WEBで検索してみたが、ピーター・バラカン氏が多少言及していた程度で、それ以外にはまだ満足な情報を伝えてくれる日本語のサイトがない。

 英語のWEBサイトに飛んで日本語訳を試みると、
 「オーストラリア生まれ。シンガーソングライター。得意楽器はギター&バンジョー。手がける音楽領域は、アメリカのアコースティックブルース、カントリーブルース、ボードビルブルース」 ということになっている。

 2005年あたりから活動を開始し、2006年には、チューバ、コルネット、トロンボーンなどの管楽器を交えたバンドを結成。ディキシーランドジャズっぽい音色のブルースを奏でるバンドとして、オーストラリアで広く認められるようになり、オーストラリア音楽賞など、数々の章を受賞している人のようだ。

 彼を教えてくれたのは、このblogでも何度かご登場いただいている米国在住の日本人シンガーのサミーさん

 「いま自分がものすごくハマっているミュージシャンですけど、日本ではまだあまり知られていないかも。たまには、こんな音楽もいかが ? 」
 という、画像を張ったメールを送ってくださったのだ。

 で、曲を聞いてみて、前述したとおり、「わ、何だこれ ? 」 となってしまったわけである。
 しかし、上の 『The Love Me Or Die』 、そして下の 『Jungle Blues』 などを聞いていると、なんとなく、ストーンキングの狙い所が伝わってくる。
 

 『Jungle Blues』 の動画はストーリーになっている。
 しゃべっている内容がよく分からないのだけれど、推測するに、たぶん船乗りたちが出港後に遭難し、漂流しているうちにどこかの南の島にたどり着くという設定のようだ。

 「いったい、ここはどこだ ? 」
 クルーたちは、ジャングルをさまよいながら、探索に出る。
 舞台設定に、わざと、田舎芝居っぽいチープな書き割りを使っているところが、かえって凝っている。

 ジャングルのなかでは、ワニが出るか、毒ヘビが出るか ?
 恐る恐る周囲に気を配るクルーたち (ストーンキングのバンドマンたち) の演技も秀逸。
 なによりも、いたずらっ子っぽい目つきで辺りを見回すストーンキングの表情が面白い。
 そして、さまよっているうちに、ついに白骨になってしまう、という話。

 たぶんこの動画は、1933年に作られたアメリカ映画 『キングコング』 などを意識して作られているのだろうけれど、さらには 『十五少年漂流記』 、『宝島』 、『ロビンソン・クルーソー』 のような海洋冒険小説が下敷きになっていると思われる。

 だから、画面構成はそれらの先行娯楽文化に対するパロディーともいえるのだが、音作りはパロディーの域を超えて、こういう音楽を本当に愛してやまないストーンキングの “本気度” をひしひしと伝えてくる。

 彼のことを教えてくれたサミーさんは、彼の音から1920~30年代のアメリカのテレビ・アニメを想像するそうだ。
 初期のミッキーマウスや、ベティ・ブープ、ポパイなどが活躍するモノクロ漫画の世界。
 サミーさんが渡米した40年ぐらい前までは、テレビでもこういう古典漫画が放映されており、現在でも、この手の漫画を流しているケーブルテレビのチャンネルが存在しているという。

 彼女の思いはさらに広がり、マレーネ・ディトリッヒなどが活躍する映画 『Grand Hotel 』 の情景。あるいは、1920年代に世界の社交場であったパリのムーランルージュの空気。そこからジブリ作品の 『紅の豚』 の世界にまで行き着くとも。

 そこまでヒントをもらうと、ようやく自分にも、映画 『ミッドナイト・イン・パリ』 (監督ウッディ・アレン) に描かれたような1920年代文化の香りが伝わってきた。

 1920年代のアメリカ音楽 (特にJAZZ) は、大西洋を超えて、フランスの社交界に集う人たちをも魅了した。
 あの時代、パリのカフェやキャバレーにはヘミングウェイ、ピカソ、ダリ、スコット・フィッツジェラルド、マン・レイ、ジョセフィン・ベーカーなど、20世紀を代表する作家、画家、音楽家たちが世界中から集まり、彼らが熱い議論を交わし合うときのBGMとして、必ずこういう曲がかかっていたのだ。

 そう思うと、CWストーンキングの音楽からは、じわじわっと20世紀初頭の文化の香りが立ち昇ってくる。
 あの時代を生きた人々。
 すなわち、縦ジマのスーツにソフト帽を被った小粋なギャングたち。
 酒場女を追い掛け回していた、無名時代の作家や絵描きたち。
 そんな人々がかもし出す、猥雑だけど、お洒落で、都会的な空気。
 
 そういうイメージが頭の中にふくらんでくると、泥臭いディープサウスのジャズやブルースの香りを運んでくるストーンキングの音楽が、にわかにシャンデリアの下で輝くカクテルグラスのような光を帯びてくる。
 
 
▼ 『ミッドナイト・イン・パリ』 主人公が1920年代のパーティ会場にタイムスリップし、『グレート・ギャッツビー』 (1925年) の原作者スコット・フィッツジェラルドに出会って、舞い上がってしまうシーン

  
 
参考記事 「ミッドナイト・イン・パリ」
 
参考記事 「小説・暗黒街の掟」
 
  
 

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C.W.ストーンキングって何者 ? への2件のコメント

  1. guchi3 より:

    町田さん
    久しぶりに眉間にしわを寄せて音楽を聴きました。不思議な感じですよね。
    のど元まで出てきてるのに、「あの・・そうそう・・・あれあれ・・・・・」っていう感じでしょうか。
    1920~30年代の都会のアメリカ音楽そのものですが、ジャンルは?「クラッシック・ブルース」「JAZZ(デキシーランド風)」「チャールストン」・・・ここらあたりの音楽には詳しくないので、何か色んなジャンルの音楽と結びついてしまします。歌い方は、ルイ・アームストロングのようであり・・・・・・・私はバンジョーの使い方が妙に気になりました。聞いた後の爽快感は・・・ですが、妙に気になるアーティストですね‼

    • 町田 より:

      guchi 3 さん、ようこそ
      やはり、不思議な感じでしたか。
      私も、そう感じました。1920年代~30年代を映像にした映画などでは、よく聞いていた音のように思いますが、あらためて、こうして1曲ずつ聞いてみると、なんともいえない味わいを感じますよね。

      おっしゃるように、ディキシーランドジャズ ? 、チャールストン ? 、デルタブルース ? 、カントリーブルース ? ……といろいろな音楽のジャンル名が頭に浮かびますが、いったいどういう分野に収めたらいいのか。

      たぶん、そういうジャンル分けよりも、CWストーキングというミュージシャンの個性を丸ごと感じ取れればいいのかもしれません。

      >> 「聞いたあとの爽快感は …… ですが」
      という一言のなかに、guchi 3 さんの微妙な立ち位置が感じられました。
      たぶん同じ心境だと思います。

      ただこの “爽快感” に、微妙な …… が付くところが、この歌手の新しさかもしれませんね。
      もしかしたら、ビートルズ以前の甘くて切ないアメリカン・ポップスを聞き慣れた世代にとっては、ビートルズでさえも 「爽快感という意味では …… ですが」 みたいな言われ方をしていたのかもしれません。

      確かに、妙に気になるアーティストですね。
       

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