テッド・テイラー 「オンリー・ザ・ロンリー・ノウ」

  

 今回紹介するのは、アメリカのソウルシンガー、テッド・テイラー (Ted Taylor)が1971年に発表した『テイラー・メイド (Taylor Made)』というアルバムに収録された「オンリー・ザ・ロンリー・ノウ Only The Lonely Knows」。

 くるくると円を描いて回るようなギターのイントロから、いきなり女性の音域を思わせるハイテナーの「ウィーヒーヒー」というヴォーカルがかぶり、主旋律が展開していく。
 
 Aメロからサビへ移っていくときのホーンアレンジが、まさにサザン・ソウル。
 ディープサウスの、ちょっと土臭いふくよかな香りが耳を通じて脳内に染みわたり、まぶたの裏に、垢抜けないけどエキゾチックなアメリカ南部の都市風景が広がっていく。

 『テイラー・メイド』のアルバムを手に入れたのは、1972~73年頃だったと思う。有楽町の洋盤専門店だった。
 その時代、桜井ユタカさんが主宰する『SOUL ON』の愛読者だったから、テッド・テイラーのことは、記事では知っていた。 

 桜井さん自身が、サザン・ソウルが好きだったこともあり、ハイ・レコードやスタックス・レコードのことを知ったのも、その雑誌からである。

 その時代、自分は福生・牛浜の基地周辺のSOUL BARによく通っていたけれど、そこではモータウンやフィリー系はかかるが、サザン・ソウルはめったにかからない。
 南部系でかかるのはアル・グリーンぐらいで、オーティス・クレイやシル・ジョンソン、O・Vライトなどの存在を知ったのは、『SOUL ON』経由である。
 
 その雑誌で、『テイラー・メイド』のアルバム・レビューを読んだ。
 むろん、歌手のテッド・テイラーに対する予備知識はない。
 ただ、ゴスペル風味を帯びた、ブルージーでファンキーな曲目を得意とする歌手と紹介されていたような記憶がある。

 ジャケット写真を見た。
 申し訳ないが、ちょっと噴いてしまった。
 
 
 
 毛糸の帽子を被ったような髪型。ネクタイだかバンダナか分からないような布を首から垂らした珍妙なファッション。
 古臭いマイクを握った姿が、「電気カミソリでこれからヒゲを剃るときに写真に撮られちゃいました」という風情を伝えてくる。

 桜井さんお薦めのアルバムだから買ったようなものの、正直、レコードに針を落とすまで期待もしなかった。

 でも、このアルバムは素晴らしかった。
 「Houston Town」、「It’s A Funky Situation」に代表されるような、都市の摩天楼のきらめきと、田舎の土ぼこりが交じり合った独特の匂いを伝える曲が多いのだ。
 泥臭さを特徴とする典型的なサザン・ソウルでもなく、かといって洗練の極地を行くフィラデルフィア・ソウルとも異なる 「アーシー&アーバン感覚」。
 当時、自分が求めていた音が、ここにあったと思った。

 この時代、すでにディスコ・ミュージックも台頭していたが、それはもう自分の心を満たす音楽ではなかった。
 自分の中での「黒人音楽」は、だいたいこの『テイラー・メイド』あたりで止まっている。

 「Only The Lonely Knows」はその中でも比較的メローなバラードである。
 ただ、これを “メロー” と表現しても、現代の耳の超えたリスナーに、はたしてそう感じてもらえるかどうか。
 たぶん、古びた田舎臭いバラードのひとつと思われるのだろうな、と予想する。
 実際に、自分がいま聴いてもそう思うし、実は、聞いた当時もそう思ったくらいだ。

 でも、かえってそれが、マービン・ゲイや、スタイリスティックスや、ビリー・ポールや、ハロルド・メルヴィン&ブルーノーツを聞いていた時代には、ものすごく新鮮に聞こえたのだ。

 このテッド・テイラーを聞いていた時代のレコード・プレイヤーは今はない。
 引越し先が手狭になることが分かっていたので、泣く泣く処分した。
 レコードだけは手元に残った。
 でも、それを再生する装置がもうない。
 YOU TUBE でこれを拾ったときは、無性にうれしかった。
 
 テッド・テイラーは1987年に53歳で亡くなっている。
 自動車事故だったそうだ。

 彼を紹介してくれた『SOUL ON』の桜井ユタカ氏も、もういない。
 今年(2013年)の6月11日、肺炎のため死去されたそうである。
 享年71歳だという。

 お二人の冥福を祈りたい。

▼ Ted Taylor 「Houston Town」

参考記事 「アフロヘアの少女」
 
参考記事 「70年代スイートソウル」
 
参考記事 「70年台スイートポップス」 
  
 

カテゴリー: 音楽   パーマリンク

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong> <img localsrc="" alt="">