夢十夜 (3)

 
第7夜 外国の町に住む両親
 
 夏目漱石の 『夢十夜』 に刺激されて、厚かましくも自分も書いてみた “夢十夜” を続ける。

 私は、ヨーロッパ市街地の高層アパートに住む年老いた両親を訪ねている。
 どこの国なのか判然としないが、窓の外に広がる景色から判断して東ヨーロッパの雰囲気が強い。
 地方都市の中心部といった感じだが、日本では名も知られていない街だ。
 現にそこに訪ねていった私自身が 「なんでオヤジたちはこんな無名の町に住む気になったのだろう … 」 と困惑している。

 それでもオフクロは 「ここからの景色が良いのよ」 と、窓の外を覗き込むことを勧める。

 確かに見晴らしはいい。

 しかし、夕暮れの気配が漂い出した街並みは、どこか淋しげだ。
 陽が傾き、建物の影が長くなり、空気が赤みを帯びている。
 それは年老いた両親の境遇を暗示しているようにも見える。

 ふと、この国でオヤジたちが死んだら、こっちには言葉すら分からないし、葬式の手配などが大変だろうな … 」 などと考えている。

 窓の外から視線を移し、部屋の方に振り向くと、二人とも私がいることを忘れたかのように黙りこくっている。

 オヤジは椅子に腰掛けたまま、床の一点を見つめている。
 オフクロも、雑誌に視線を落としている。

 二人の間に会話はない。

 二人とも、残り少ない人生をこんな異国の田舎町で費やしていいのだろうか … と思い、なんだか切なくなる。
 
 
 
第8夜 馬の走る野球場

 どこかのローカル球場にいる。
 私は内野スタンドの高い位置に陣取り、グランドを見おろしている。

 暖かい日差しに満たされたグランド上で、のんびりしたゲームが進行している。戦っているチームがプロなのかアマなのか、そのへんはよく分からない。

 フライが上がったかと思うと、それが野手の頭上を越え、走者がいっせいに塁を回り始める。
 驚いたことに、走者はみな馬に乗っている。

 なんか変だなぁ … とは思いつつ、「そうか走者が馬に乗ってはいけないというルールはなかったもんな」 などと納得する。「しかしホームベース上のクロスプレーなどは危ないだろうにな … 」 などとも考える。

 それにしても変な野球だな … と思って見ているうちに、どうやら野球とは関係なく、競馬が始まったことが分かってくる。
 この球場は競馬場も兼ねていて、競馬がスタートする時間になると、野球のプレイとは関係なく馬の疾走が始まるらしい。
 グランドの周りに競馬用のトラックがあり、馬たちは次々とトラックを回り始めている。

 野球はいつのまにか中断され、観客は野球など忘れたかのように、走る馬たちに歓声を浴びせている。

 
 
第9夜 蘇る死体

 マンションの購入を見当しているとき、古くからの友人 (実在する人物に該当者なし) が、「自分の敷地内にある個建て住宅を借りないか」 と提案してくる。
 その男は、広大な敷地内にいくつかの住宅を所有しており、それを他人に貸しているのだが、そのうちの一つが空き家状態になっているらしい。賃貸料は月500円でいいという。

 賃料の安さに魅力を感じ、彼の案内でその空き家を見に行く。
 林の中に、朽ちはてたような家がポツンと立っている。

 鍵を開けて中に入ると、前の住居人が残したゴミやガラクタがそのままになっている。
 壁にはシミがいっぱい広がり、部屋の中に干されている衣類にはカビが生えている。

 私は友人に 「いくら何でもこれはひどい。月500円でも借りる気はしない。どうして前の住居人のゴミを処理しないのか ? 」 と尋ねる。

 友人は、申し訳なそうな顔をして、
 「実は、処理していないのはゴミだけじゃないんだ」
 と、ベッドを指さす。

 ベッドの上の腐った掛け布団が、かすかに盛り上がっている。
 いやな予感がする。

 友人がベッドの布団を剥ぐと、下から白骨化した死体が出てくる。
 ここに住んでいた人間だという。

 「いくら何でも、これはひどい !! 」
 と逃げ腰になって部屋を出ようとすると、ベッドがきしむ音がする。

 振り向くと、白骨化したはずの死体に肉がついている。
 頭からは毛が伸びてきて、肌には赤みがさしている。
 中年の女性のようだ。

 私はあまりにも異様な事態に直面して、足がすくんでいる。
 やがて女が目を開け、むくりと起き上がる。
 すでに、その姿は少女になっている。

 私は直感的に、この死体は家の中に入ってきた人間のエネルギーを吸い取って蘇り、どんどん若返っていくことを悟る。
 少女が立ち上がらない前に、友人を誘ってあわてて家の外に逃げ出す。

   
 
第10夜 会社の社長になる

 どこかの近代的なビルの一室にいる。
 新しい会社を興したらしく、自分がその会社の社長らしい。

 自分の隣りのデスクには、マネッジメントを統括するナンバー2の女性がいる。
 誰だがよく分からないのだが、学生時代に同じクラスにいた頭の良かった女性の一人であるように思える。
 その女性は、マネージャーであると同時に、私の秘書であるらしい。

 私たちの前には、若い社員が2~3人デスクに座って何かの事務を行っている。

 さて、社長に収まったはいいが、何をする会社で、自分の仕事は何なのかよく分からない。

 とりあえず何もすることも浮かばないので、マネージャーの女性に、
 「顔合わせもかねて、みんなでパァーっと飲みに行くか ? 」
 と提案する。

 しかし、マネージャーは、
 「社長はそんなしょっちゅう社員と顔を合わせるものではありません」
 というので、その案は取りやめとなる。

 現に社員の前に座っているのだから、「顔を合わせる」 も何もないのだが、そんなもんか … と思って、黙って部屋の様子を眺めている。

 社員たちはまだみな若く優秀そうで、何も知らない自分がバカにされそうに思えて、少し憂鬱になる。
 
   
夢の話 「夢十夜 (2) 」 
 

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