ローリング・ストーンズは来なかった

  
 前回のザ・ローリング・ストーンズネタ ( 「モノクロのローリング・ストーンズ」 ) の記事を書く資料を探すために、ちょいとネットをさまよっていたら、不思議な曲に出合った。

 その名も 『ローリング・ストーンズは来なかった』 。
 歌っているのは、歌謡曲歌手の西郷輝彦。
 

 タイトルの意味するものは、1973年に日本武道館で行われる予定であったザ・ローリング・ストーンズのライブが、メンバーの大麻所持を理由に入国を拒否され、実現しなかったことを指す。
 この曲がリリースされたのが1973年だから、まさにそのことを “事件” として描いた歌のようにも思える。

 だが、歌詞をたどると、公演中止に触れた部分は一ヵ所もない。
 ただひたすらに、70年初頭に活躍した海外ロックミュージシャンたちの名前が連呼されるだけ。
 そして、それらの “ビッグネーム” に対抗意識を燃やした “2流のミュージシャン” である主人公が、「いつかは俺も夢のスーパースターになるぞ」 と意気込む歌なのだ。

 しかし、この曲の持つ奇妙さは、ちょっと形容しがたい。
 スーパースターを目指す若者の気持ちを歌っているはずなのに、それとは裏腹な脱力感や投げやりな感じはいったい何を意味するのか ? 
 聞いていると、体中の神経がだらんと伸びきって、脳に行くはずの血液もションベンになってしまう気がする。
 
 まず、ここに登場するジャニス・ジョプリン、キャロル・キング、ボブ・ディラン、マーク・ボランがどのように歌われているのか。
 「真珠のジャニス」、「いとしのキャロル」
 … はいいとして、
 「フォクフォク ディラン」 に、「ブギウギ ボラン」 だって。

 フォクフォク ディランって、何だよ ?
 「フォークソング歌手」 … とか言いたいのだろうか。
 場末の飲み屋のカウンターに顔を伏せ、酔いつぶれたまま明け方を待つ男の寝言のように聞こえる。

 曲調もすごい。
 イントロは、サンタナの 『ブラックマジック・ウーマン』 の確信犯的なパクリ。
 そのラテンビートを維持しつつ、コード進行はブルースで、メロディーは完璧な歌謡曲。
 
 ロックをリスペクトしているのか、それとも茶化しているのか。
 そこから漂ってくるのは、そのどちらとも取れる、ロックに対する微妙な距離感なのだ。

 だが、もしかしたら、これが1970年当時の、洋楽に関心のない若者たちの普通の感覚だったのかもしれない。

 ここには、ジャニス・ジョップリンも、マーク・ボランも、サンタナも、ジョン・レノンも、ローリング・ストーンズも、シカゴも、ボブ・ディランも登場するが、それはみな単なる 「スター」 という記号。
 流行歌を作っておカネを稼いでいる成功者の 「記号」 であって、たぶん彼 (歌の主人公) が追いかけているのは、「音」 ではなく、「サクセス」 なのだ。

 そこから漂ってくるチープ感。
 それがまた、気分がダルいときには心地いいと来るから、始末が悪い。

 困ったことに、この奇妙な曲想は、一度耳の底に沈み込むと、自然に頭の中で回り出す。
 無意識のうちに、鼻歌で口ずさんでいるのだ。
 “フォクフォク ディラン ♪” とか。

 「やられた ! 」 と、いまいましく思い、次にニヤリと笑ってしまう。
 歌の作り手 (藤本卓也) と歌手がほくそ笑みながら、人を煙に巻く 「遊び」 にふけっているようにも感じられる。

 けっきょく、この歌の秀逸なところは、そのタイトルにある。
 『ローリング・ストーンズは来なかった』

 この 「来なかった」 の一言は、いったいどういう気持ちを表したものなのか。
 「待っていたけど来なかったから、ショックだった」 
  … のか、それとも
 「来ても来なくても、どうでもいいや」
 という投げやりなニュアンスなのか。
 それが “謎” として残るから、この歌はリスナーに永遠の 「不条理」 を抱かせることになる。
  
 つまりは、「来なかったローリング・ストーンズ」 がこの歌の “幻の中心軸” となって、歌の中にはどこにも存在しないタイトルの “意味” を、歌の枠外に求めさせるのだ。
 この歌の奇妙な感覚は、まさにそこにある。

 1973年の12月。私は、ストーンズの公演チケットを手に入れるために、前売りの行列にまみれ、路上で一晩を明かした。
 必死になって手に入れたチケットが、けっきょくただの紙切れになり、2千円なにがしかの払い戻し金に変わったとき、 “つきもの” が落ちたような放心状態におちいった。
 
 そのときの虚脱感は、まさに 『ローリング・ストーンズは来なかった』 という歌に漂う 「間延びした虚無感」 に近いものだったかもしれない。

▼ 「ローリング・ストーンズは来なかった」

 
洋楽っぽい歌謡曲ネタ (↓)

「平山三紀と筒美京平の魔術」

「どうにかなるさ」

「歌謡ブルースの謎」

「グッド・ナイト・ベイビー」
 
 

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