渡瀬恒彦が走る商店街

 
 昼飯を食い終わって会社に戻ろうとしたら、いつもは地元の人だけがのんびり歩いているような商店街に、今日はにぎにぎしい人だかり。

 なんだろなぁ … ?

 と思って近づいてみたら、いきなり人混みをかき分けるように、俳優の渡瀬恒彦がこっちに向かって走って来るのでびっくりしたぁ。

 「はい、オーケーです」
 という声とともに、渡瀬恒彦の足が止まったので、テレビドラマかなんかのロケであることが分かった。

 それにしても、渡瀬さんって、もう70歳ぐらいだろ ?
 よく走れるね。

 もっとも全速力じゃない。
 見ていると、けっこう力を抜いて、テキトーに走っている。
 だけど、表情には見事に緊迫感がみなぎっているので、顔だけに神経を集中させている視聴者には、たぶん全速力に見えてしまうはずだ。きっと。
 役者さんというのは、うまいもんだな … と改めて思った。

 で、走り終わると、呼吸すら乱さず、白いコートをさっと羽織ると、さりげなく撮影隊の後ろに隠れてしまう。
 走った瞬間 (わずか3秒ほど) を見た人でなければ、そこに大俳優がいるなんて、気づかずじまい。
 このへん、役者とスタッフたちの呼吸も慣れたもんだ。

 この渡瀬恒彦が走っていた商店街というのは、実はテレビドラマのロケに使われたりすることが多い。

 この前は、キャメル色のダッフルコートを着た俳優の大泉洋が、撮影隊に囲まれながらここを歩いていた。
 あと、名前は分からないけれど、昼メロなんかによく出る女優さんが買い物をするシーンにも使われていた。

 庶民的で、どこにでもありそうな商店街ながら、さほど人やクルマの交通量もなく、さらに一方通行のため、侵入してくるクルマをチェックしやすいなどの好条件に恵まれた場所でもあるからだろう。

 撮影現場に出くわした通行人も年配の人が多いから、テレビに出る俳優がナマで歩いていたって、おおぁ ! とか、きゃぁー !! などと、とよめいたりしない。
 10秒か20秒程度見物してから、みなおとなしくその場を立ち去る。

 礼儀正しく、出しゃばらない人たちが住むなんとも 「大人の町」 なのである。
 ただ、 “大人の町” すぎて、商店街に住む住民の高齢化が進んできたのか、昔からある商店が次々と店をたたみ始めている。
 
 つい2ヵ月ほど前、まぐろの丼物をランチで安く食べさせてくれた老舗の寿司屋が店を閉じた。
 ここの 「とろ丼」 というのは、東京都心では2、000円程度の値を付けそうな鉄火丼を、トロの中落ちと赤みをうまく配分して700円で食べさせてくれる良心的な店で、刺身系が食べたいときはよく通った。

 が、昨年末ぐらいに店を閉じた。
 会社の忘年会などを当て込んで、2階、3階などに大広間を造ってみたけれど、忘年会がなくなる時代になると、維持費がひねり出せなくなったのだという。

 ラーメンよりカレーライスがうまいので、ときどきカレーを食べに通っていた中華屋も、この 1月ぐらいに店を閉じた。
 こちらは、店主が病気して、店を維持するほどの気力と体力がなくなったかららしい。

 けっこうおいしくて、しかもボリュームのあるオムライスが600円で食べられた肉料理屋もあったが、それも今年に入って店を閉じた。
 … つぅか、閉店の張り紙すらなく、まるで夜逃げのような感じで、ある日突然店の中に人の姿が見えなくなった。
 ガラスドアから中を覗くと、セルフサービスの水を提供する浄水器もそのままで、床にはおしぼり屋が届けたおしぼりをいっぱい詰めたビニール袋がそのままになっていた。

 そういえば、そこのマスターのあんちゃんは腕に刺青でもしているのか、真夏でも長袖をずっと着たままだった。
 店内には、怖い顔をカメラの方に向ける格闘技の選手たちのポスターがいっぱい貼られていて、それも異様な雰囲気。
 マスター自身は愛嬌のある人だったけれど、ケンカなど始めたら強そうだな … って感じだった。

 だから、やっぱ、ヤバいことがあって、夜逃げ ?
 とか思ったけれど、どうやら周りの店も閉め始めたから、ビル会社とのテナント契約で、立ち退きを迫られたのかもしれない。

 理由はさまざまだが、最近になって、バタバタと店をたたみ始めた事業者は多い。
 長年この地にいる者にとっては、さびしい。

 しかし、世代交代がまったくないわけではない。
 昔からあったパチンコ屋が徹底した跡地には芝居小屋ができて、若い人たちがそこを拠点に演劇活動を始めるようになった。

 その近くでは、これまた若い人が手作り感覚の食堂を開いて、駅の向こう側にあるビジネス街からやってくる若いサラリーマンたちの人気の場所となりつつある。

 「商店街の衰退と再生」 がいろいろなところで議論されるようになってきているけれど、この町は、そういうことを語るときのデータが豊富にありそうに思える。

 思えば、会社のあるこの地に通うようになって、36~7年。
 そのくらい過ごせば、もう第二の故郷のようなものだ。
 
 
 参考記事 「お昼に歩く小道」

 参考記事 「商店街はなぜ滅びるのか」

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渡瀬恒彦が走る商店街 への2件のコメント

  1. スパンキー より:

    菊亭、サンヨーはまだありますか?
    菊亭の5番とサンヨー麺はうまかったなー。
    あそこのメシは忘れられません。嫌というほど食いましたから。

    町田さんと働いたあと、表参道、赤坂と職場が移りましたが、メシ代の高さには参りました。
    やはり、北品川が最高でした。
    スタバとかではなく、ひなびた喫茶店のナポリタン食いながらの編集会議も、いま思えば
    懐かしい。あの町ならではの庶民性が、気取らない誌面をつくっていたともいえますね?

    芝居小屋っていうのが気になります。そこんとこ、知りたいですね?

    • 町田 より:

      >スパンキーさん、ようこそ
      「菊亭」 も 「サンヨー」 ももうかなり前に姿を消しましたね。
      両方ともよく通った店でしたが …。
      確かに、菊亭の “5番定食” (回鍋肉) はうまかったですねぇ。ピリッと辛くて、ニンニクが効いていて。
      サンヨーでは冷やし中華をよく頼みました。うまかったなぁ …。

      ナポリタンを食べながら編集会議をやった店は 「ポチ」 ですね。
      これだけは、いまだに現役で頑張っています。

      確かに庶民的な町ですね。
      気取らないところがいい。
      だから、昼飯は駅方向に行くよりも、いつもこっちの商店街の方に流れるようになってしまいます。
       

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