それでは良いお年を

 

 「それでは、良いお年を」

 というのが、年の暮れの数日だけ使われる挨拶だけど、なんかこの言葉の響きが好きだ。
 軽い響きの中に、万感こもごもの気持ちが込められそうな気がするのだ。

 昔、『大脱走』 って映画があった。
 ナチの収容所に閉じ込められた連合軍の捕虜たちが、密かにトンネルを掘って脱出する話だったけれど、脱出決行の夜、人ごみに紛れ込むために民間人の衣装を手に入れた脱出者たちが、それぞれ最後のあいさつを交わす。

 イギリス人捕虜たちは、
 「それでは、ピカデリーサーカスで」

 アメリカ人たちは、
 「それでは、ブルックリン橋のたもとで」 ( … だったかな)

 フランス人たちは、
 「じゃ、凱旋門の前で」
 … みたいな挨拶を交わして、それぞれ無事の再会を祈り合いながら、トンネルの闇に姿を消していく。
 そこには、脱出にともなう危機を覚悟しながらも、明るい展望を期待する人間の気持ちが表現されていた。

 映画では、ナチの特高に捕まって銃殺されてしまうような悲惨な人々も多かったけれど、別れる前に、無事な再会を祈って交わし合う言葉は美しく響いた。

 「良いお年を」
 という言葉に、そんな切羽詰まった響きはない。
 ただの定型化された暮れの挨拶用語にすぎない。

 しかし、お互いの無事を祈りながら新しい年を迎えるという、相手に対する気づかいの感情がこもる。

 そして、「この一年、お互いになんとか無事に過ごせたね」
 というねぎらいの気持ちもこもるし、
 「今年は終わっちゃったね」 
 という一抹のさびしさも漂う。

 もちろん、「来年もよろしく」 という言外の意味があるのはいうまでもない。
 だから、けっこう奥行きの深い言葉にも思える。

 この一年、このブログのお越しいただいた多くの方に感謝申し上げます。
 ありがとうございました。
 
 「それでは、良いお年を」
 
 

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