選挙の振り子現象

 
 日曜日 (16日) 。
 お昼頃、カミさんと 2人で、衆議院選挙の投票に出かけた。
 「小春日和」 というのかもしれない。
 ポカポカとした暖かい陽気で、投票場まで自転車を漕ぐ間、身体が汗ばむくらいだった。

 驚いたのは、行列ができていたこと。
 これまで、選挙の投票場で行列を見たことなんか一度もなかった。
 それも、門から会場に入るまでの間にパイロンが置かれ、その周りをグルッと 1周させられるような行列になっているのだ。
 今回の選挙は意外と盛り上がっているのかな … と一瞬思った。

 しかし、実際にフタを開けてみると、投票率は59.32%。
 これは 「戦後最低の記録更新」 なんだそうだ。

 なるほどな。
 ドタバタと急に決まった選挙だったし、一夜のうちに有象無象の党が乱立したし、その急増党派の言うことも、共通するところと異なるところがまだら模様のように入り組んでいて、何が争点となるのかよく分からない選挙だった。
 そのため有権者の関心がいまひとつ高まらず、それが投票率の伸びにつながらなかったのかもしれない。

 また、争点となった議論のテーマも、庶民にはどう判断していいのか、即答できないようなものが多かった。
 「脱・原発」 と 「原発促進」
 「TPPの賛成」 と 「反対」
 選挙前のテレビ番組などでは、こういう諸党派の主張をチャートなどにして整理していたけれど、こういう問題は、単純に 「○」 と 「×」 のように割り切れない問題である。

 原発だって、「国民の安全性を第一に考えれば、あんな危険なものは即刻止めるべし」 という意見もあれば、「原発をやめれば電気代が高くなって、日本の経済成長に大きな水を差す」 という意見もある。
 そうかと思うと、逆に 「原発の方が、それ以外の発電システムと比べて高コストだ」 と語る人もいる。

 たぶん、どっちも当たっている。
 現在の原発が火力や水力と比べて安いとされているのは、安全コストが計算に含まれていないからである。
 「事故が起きてもかまわない」 、「廃棄物は野積でいい」 などというのであれば、確かに安い。

 ところが、安全に運転するために、複雑な技術や防護設備の建設をするコストを計上すると、こんなに高コストな発電システムはないという人もいる。

 しかし、そうはいっても、現状では、その原発の安いコストですべての企業が収益構造を組み立てているので、「脱・原発」 は短期的にみれば、確かに “経済活動の停滞” を招く。
 つまり、考え方によって、いくつもの回答が生まれてしまうのだ。

 TPPの問題もそう。
 現在は、日本の農業を守るかどうか、という議論の立て方に終始しているが、この問題は、医薬品や保険制度などの分野にも影響を及ぼす。また遺伝子組み換え食品などの輸入にも関わってきたりするので、国民の健康問題にも波及する。
 
 このTPP問題にどう向き合うかは、その人の立場やその人の基礎的知識の厚みによっていかようにも変わる。
 何を守るのか、何を得たいのかという目的の置き方によって、様々な判断が生まれるのだ。

 テレビなどの政見放送をチラッと見る限りにおいては、そこのところで奥行きのある判断材料を提示した政治家はほとんどいなかった。 (ま、テレビじゃ時間が限られているから無理だろうと思うけれど)
 
 今回投票率が下がったとしたら、たぶん、こういう複雑な問題を、「反対だ」 「賛成だ」 と叫んで急ぎ足でマニフェストに盛り込もうとした政治家たちの “軽さ” が、有権者たちには空々しく聞こえたのだろうと思う。

 しかし、それにしても、今回の自民党の圧勝。
 またしても、振り子の “大振れ” だ。
 2005年の “小泉郵政選挙” は、当時の小泉首相の劇的なパフォーマンスが功を奏して、自民党が296議席を獲得。圧倒的な勝利を飾った。

 その次の2009年の衆議院選挙。
 今度は 「政権交代」 を旗印に掲げた民主党が308議席をとって、一挙に政権与党に踊り出た。

 で、その民主党への “失望” が反映して、今回の衆議院選では自民党が294議席を獲得。前回の選挙で第一党に立った民主党は、公示前の230議席から一気に57議席まで落ち込んだ。

 こういう極端から極端へと、選挙のたびに政権党が振り子のように変わるのは、小選挙区特有の現象だという人は多い。
 特に無党派層が多い都市部では、この振り子のブレが大きくなり、党首がマスコミなどで発言した一言などで、微風が追い風になることもあり、極端な暴風雨になることもある。

 ま、そういう選挙区の区割りの問題も大きいとは思うけれど、この振幅の大きさは、やはり国民の判断がどんどん情緒的になってきていることの証ではないかと思う。
 うまくはいえないが、2005年の小泉・郵政選挙以来、国民が選挙に 「勧善懲悪の時代劇」 のようなものを求め始めているように思えるのだ。

 2005年の選挙のとき、時の小泉首相は、自分の政策に反対する人々に 「守旧派」 のレッテルを張り、あたかも利権構造のなかでヌクヌクと利をむさぼる悪代官と悪徳商人たちのように扱った。
 実際に、このとき自民党内で小泉元首相に敵対した亀井静香氏、古賀誠氏、小林興起氏らは、その風貌からして (本人の思想やキャラとは別に、単にビジュアル的に)、悪代官・悪徳商人系だったから、国民はまんまと “自民党時代劇” に乗ってしまった。
 
 「悪役」 はある日突然、どこからともなく政治家に回ってくる。
 なにせ、人々は選挙に勧善懲悪のドラマを見たいのだ。正義のヒーローを応援するには、憎たらしい 「悪」 が出てこないと困る。
 
 2009年の民主党の 「政権交代劇」 というのは、民主党がマスコミなどの力を借りて、自民党からく 「悪役」 をうまく引き出したから成功したようなもの。
 マスコミは、「お腹が痛い」 といって首相の座を放り出した 2世のぼんぼん首相 (安倍晋三) やら、 “未曾有” という漢字をミゾウユウと読んでしまう無教養な首相 (麻生太郎) などに悪役の衣装を着せて、スケープゴートとして差し出した。

 民主党政権の末期、鳩山由紀夫、菅直人などの元首相コンビに対する世間の評価は厳しかったが、2009年の選挙時における麻生太郎の評価だって、それ以上にキツイものだった。
 今から思うと、麻生太郎などはけっして無能な人ではなかった。
 少なくとも、沖縄基地問題に対して、あんなに恥ずかしい対応をして逃げてしまった民主党の某元首相より、はるかに立派である。

 しかし、マスコミは、その麻生氏に対し、「ホテルのバーでウィスキーを飲んでいる」 というだけで、「庶民の感覚が分からない首相」 というレッテルを張った。そして、その尻馬に乗って同調する人たちがどっと増えた。 (いいじゃん、ホテルのバーで飲んだって)
 
 ま、それだけ、人々が 「偶像が堕ちる」 のを待つようになったのだと思う。

 今回の民主党大物議員の落選を見ていると、また同じことが繰り返されているような気がする。
 メディアは、選挙区で落ちた菅直人元首相や、選挙区でも比例区でも落ちた仙谷由夫氏、田中真紀子氏らの敗戦の弁を、冷静な顔を装いながら、けっこういそいそと報道しているように思える。
 そういう報道を国民に訴えているキャスターの表情は、罪人を捉えて市中引き回しを行っている時代劇の小役人のように見える。

 しかし、人々が選挙に 「勧善懲悪のドラマ」 を求めるというのも無理がないような気がする。
 はっきりいうと、多くの国民には、選挙の争点となるものの判断材料がないのだ。

 脱・原発/原発推進。
 TPP賛成/反対。
 また、(もう決まったけれど) 消費税の導入に、反対/賛成。
 
 こういう議論は、専門家にだってにわかに結論をまとめられない。
 もちろん専門家はそれぞれ強い主張や確固たる意見を持っているが、誰の言っていることが正しいのか、国民にはすぐに判断できない。

 それだけ現代社会は、複雑怪奇になってきている。
 「長期の不況」 とかいうけれど、では、その不況は何によってもたらされていて、その脱出方法はあるのか ?
 経済学者たちのいうことは、みなバラバラである。

 つまり、現象として現れている問題はひとつしかないのに、その要因は複数のものから生まれているということなのだ。
 その一つの根を断ち切ったとしても、今度は別の根を肥大化させてしまうことになり、病巣がさらに膨らんでしまうことがある。

 それがグローバル経済社会というものなんだと思う。
 今までのように、経済が一国単位でまとまっていれば、問題が起こったときの因果関係もある程度見える。
 しかし、グローバル社会になると、国単位で異なる貨幣価値・商品価値、さらに文化、人々の価値観などがすべて絡んでくるので、問題が生じたときには、どうメスを入れればいいのか、病巣の形すら見えない。

 そうなってくると、いまの政治で問題になっているようなことは、ちょっとルックスがいいからといって 「○○ガールズ」 と 「○○チルドレン」 などと呼ばれる政治家たちに扱えるものではないことが分かってくる。

 有権者たちも、そんなことが空気のように読めるから、シラけもするし、投票に行く気もなくなるだろうし、「悪役」 が小気味よく倒される勧善懲悪ドラマを求めたくなるだろうと思う。

 地道にやるしかない。
 政治家も。そして私たちも。
 一言で、すべて解決するような魔法の小槌はないのだ。
 
 

カテゴリー: コラム&エッセイ   パーマリンク

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong> <img localsrc="" alt="">