ザ・ローリング・ストーンズ結成50年

 
 今年 (2012年) は、ザ・ローリング・ストーンズの結成50年に当たる年だという。
 “お化けバンド” だ。

 彼らがデビューしたのが、1962年。
 そのとき、リード・ヴォーカリストのミック・ジャガーは19歳。現在は69歳になる。
 ギターリストのキース・リチャーズも同年。
 バンドの平均年令は、70歳だ。

 ロックというのは、ジミ・ヘンドリックスやジャニス・ジョップリン、ジム・モリソンのように、夭逝した若者たちが作り出した音楽だというイメージから自分はどうしても抜けられないこともあって、70歳のロックバンドが奏でる音を、はたして 「ロック」 と呼んでいいのか、正直とまどいもある。

 もともと、 “ビートルズ派” の自分は、若い頃から、同時期に活躍したザ・ローリング・ストーンズというバンドにそれほど肩入れしたことはなかった。
 しかし、この二つのバンドは、まるで競い合うように、それぞれ対照的な個性を磨きあげていったので、片方を語るときは、必然的にもう片方にも言及せざるを得ないような雰囲気があった。

 両バンドがデビューした頃、「不良グループのストーンズ」 に、「優等生のビートルズ」 といったキャラクター付けが行われた時期があった。
 主に、ビジュアル的な印象から来るものである。

▼ ユニフォームのようなスーツを着た 「行儀のいい青年たち」 として売り出されたビートルズ

 おそろいのマッシュルームカットにスーツ姿のビートルズに対し、ストーンズは髪型も衣装もテンデンバラバラ。
 しかも、ブライアン・ジョーンズやビル・ワイマンなどは人相も強面 (こわもて) で、ミック・ジャガーは女ったらしのホスト顔に見えたし、いつもだらんと唇を開いているキース・リチャーズはちょっと白痴的ですらあった。
 メルヘンに登場する王子様のようなポール・マッカートニーやはにかみ顔のイケメンであったジョージ・ハリスンなどに比べ、ストーンズのメンバーは明らかに不良顔であったのだ。

▼ 不統一なファッションで 「無法者グループ」 として売りだされたストーンズ
 

 しかし、自分は早いうちから、「本物の不良はビートルズで、ストーンズは作られた不良」 というイメージを持っていたし、それを、さも見抜いたように、得意そうに語っていた時期がある。
 ハンブルク時代のビートルズの写真を見れば分かるとおり、初期の彼らは革ジャンパーにリーゼントヘアという当時の暴走族のようなファッションがお気に入りだったのだから。
 マネージャーのブライアン・エプスタインに命令され、おそろいのマッシュルームカットでスーツを着てデビューすることを、ジョン・レノンは本当に嫌がっていたという。

▼ ハンブルクで荒稼ぎしていたデビュー前のビートルズ

 それに対し、ストーンズの “不良性” というのは、たぶんに演出されたものであった。
 ストーンズのデビューに尽力したマネージャーはアンドリュー・ルーグ・オールダムという人物だが、なんとこの人は、ビートルズのマネージャーであったブライアン・エプスタインの下で 「宣伝係り」 をやっていた人である。
 
 彼は、ビートルズの売り出し方が成功した過程を見ていた男だから、ストーンズの売り方も研究した。
 そして彼は、あえて、ビートルズとは逆の方向を打ち出した。
 それが、初期のジャケット・デザインなどに表れる 「ワル」 のイメージだった。

 それぞれのファンは無邪気に、その戦略に騙されて、しばらくは 「不良のストーンズ vs 優等生のビートルズ」 という図式で、たわいもない論争を繰り広げた。
 
▼ 初期の頃のストーンズの写真はみな 「強面 (こわもて) 」 を強調していた

 
 実際、初期のストーンズは、音作りそのものも 「ワル」 のイメージ全開というものが多かった。
 彼らの名声を一躍高めることになった 『サティスファクション』 (1965年) などは、緊張感をはらんだギターリフが始まると同時に、タイトなバスドラが連打され、そこにミック・ジャガーの低く、くぐもったヴォーカルが絡むという、もうバイオレンス映画のタイトルバックに使ってもおかしくないような、不穏な空気が流れる。
 
▼ The Rolling Stones 「Satisfaction」 (1965)
 

 その 「不穏な空気」 の秘密は、不協和音を重ねていくような音作りそのものにあった。

 これを 「バッドチューニング」 という人がいる。
 彼らは、レコーディングやステージの前では、楽屋でまず完璧なギターチューニングを決める。
 で、きれいに決まったことを確認してから、わざと、少しだけそれを狂わせる。
 そして、ステージやレコーディングに臨む。
 本当の話かどうか、自分のような素人には分からないが、そういう神話がまことしやかに語り継がれるほど、彼らのワイルドな音作りが人を魅了したということなのだろう。
 
▼ ジャケットデザインも、初期はモノクロ主体でカッコいい

 
 1960年代の中頃までは、ストーンズは、 “物騒なバンド” を貫き通す。
 
 『ゲット・オフ・マイ・クラウド (一人ぼっちの世界) 』 (1965年)
 『19回目の神経衰弱』 (1966年)
 『ペイント・イット・ブラック (黒くぬれ) 』 (1966年)
 
 この時期の彼らは、「陽のビートルズ」 に対して 「陰のストーンズ」 といえるほど、はっきりと、「暴力」 と 「血」 と 「反抗」 の匂いのする音をつくり続けた。
 それは、また、世界のポピュラーミュージックをものすごい勢いで塗り替えていくビートルズに対抗する彼らなりの 「差別化」 であったように思う。
 
 はっきりと 「ストーンズファン」 というものが形成されたのも、この時期からである。
 ストーンズのメンバーは、実際はビートルズと非常に仲がいいことは知られていたが、ストーンズのファンたちは、その 「血に飢えたような暗さ」 に、自分たちの 「反抗精神」 や 「不良性」 を重ね合わせていた。
 ストーンズファンにとっては、まばゆいばかりのビートルズの業績は、むしろ大衆迎合的な “退屈なもの” でしかなかったかもしれない。
 
 ザ・ローリング・ストーンズ自身が、ビートルズを意識することなく、ようやく自分たちのスタイルを獲得したのは、『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』 (1968年) からではなかろうか。
 
▼ The Rolling Stones 「Jumpin’ Jack Flash」 (1969)

 相変わらず、ラフでワイルドな味わいを持ちながらも、この曲からは 「暗さ」 が薄れている。明るく飛び跳ねるキャッチーなギターリフからは、自分たちの 「音」 に自信を持ったビッグスターの風格さえ漂ってくる。
 たぶん、この曲あたりから、ストーンズは、 “不良” を自認する一部のファンのもとから離れ、幅広いロックファンに愛されるバンドに転身していったように思う。

 その後のストーンズは、ビートルズが解散した後も、世界のロックシーンの頂点に君臨し続ける。
 それと同時に、いま誰もが聞く “ストーンズ・サウンズ” のようなものも確立される。
 
 彼らのライバルは、もうビートルズではなくなっていた。
 ブリティッシュロック・シーンではレッド・ツェッペリンが絶大な人気を誇り、その後は、パンクロックが新しい流れをつくっていく。
 アメリカでは、イーグルスのようなバンドが人気を博し、さらに、キャロル・キングやジェームズ・テーラーのようなシンガーソングライターの曲が一世を風靡するようになる。
 
 しかし、ザ・ローリング・ストーンズは、一貫して、自分たちのスタイルを守り続けながら、ロック界の第一線を戦い抜いていった。
 
 2008年、彼らは、自分たちのステージを映画にして、世に送り出す。
 『シャイン・ア・ライト』 である。
 
▼ 「シャイン・ア・ライト」

 
 監督は、あの 『タクシー・ドライバー』 を撮ったマーティン・スコセッシ。
 このとき、ミック・ジャガーは、63歳。
 
 しかし、まるで、体操の選手みたいに宙に飛び上がり、ステージの端から端まで走りまわり、しかも、息も切らさず、最後まで声量豊かに、キャッチーなロックビートの波に乗って歌いまくる。
 
 そのそばで、ひたすらミックのステージパフォーマンスを支えるように、相変わらず、ラフでダークなギタープレイを披露するキース・リチャーズ。
 そして、その後ろで、40年も同じ表情で、黙々とドラムスを叩き続けるチャーリー・ワッツ。
 二十歳ぐらいのガキの頃から同じメンバーが、ずっと同じことを繰り返していたということの凄さが、そこから伝わってくる。
 
▼ 年をとって、ますます表情に渋みが加わるキース・リチャーズ

 
 正直にいうと、この 『シャイン・ア・ライト』 のステージをうまく批評する言葉が、そのとき自分には出てこなかった。
 もちろん 「若い!」 とか、「凄い!」 などという、彼らのパワフルなステージパフォーマンスに敬意を表するような感想はすぐに浮かんでくるのだが、根本のところで、とまどいを隠すことができなかった。
 
 それは、彼らが 「懐かしさ」 を拒否していたからだ。
 
 「俺たちは、お前たちの青春を回顧するような曲をやってんじゃないよ。そりゃ確かに、昔のヒット曲もやるよ。だけど、それは今の音なんだ。今の俺たちが出す、最新の音なんだ」
 そういう気迫みたいなものが伝わってきたのだ。

 もしかしたら、それが 「現役」 ということなのかもしれない。

 「懐かしい」 ということは、やはり過去に属する感情である。
 それは、「評価」 が動かしようもないくらい固まった状態をいう。
 
 そう考えると、やはりビートルズは、「過去」 のものになり始めているのかもしれない。
 だから、われわれの世代は、それを 「懐かしいもの」 として、自分の青春を回顧するときのBGM として使うし、カラオケで歌って気持ちよくもなる。
 
 しかし、ストーンズは、いまだに 「懐かしい歌」 になることを拒否している。
 
 「懐かしい気分になりたいんなら、俺たちの昔のビデオでも見てくれよ。俺が、無理して、ステージの上で飛び跳ねているのは、俺たちの “今” を観てほしいからなんだ」
 ミック・ジャガーがそう叫んでいるように感じられた。
 
▼ 60過ぎて、みな円熟味が顔に出ている

 
 60歳を過ぎても、ずっと現役でいることの意味、それをザ・ローリング・ストーンズというバンドは手に入れた。
 あらゆる才能において、ストーンズの上を行くビートルズには、それが欠けていた。
 彼らは、早々と解散してしまったし、再結成しようにも、もうメンバーは2人しか残っていない。
 だから、ビートルズは、もう 「今」 をつくれない。
 
 それに対して、常にビートルズを追いかけていたローリング・ストーンズは、ようやく、そこのところで、はじめてビートルズを抜いたのだ、と思う。
 
 思えば、ビートルズというのは、類まれなる才能を持った人々が、それこそ、神様の起こした奇蹟のように、偶然4人そろったバンドだった。
 

 
 誰だって、ビートルズのようになりたい。
 でもなれない。
 それに対し、ストーンズは、ビートルズのような奇蹟には恵まれなかったが、少しずつ、時代に合わせて成長することによって、最後にビートルズにも達成できなかったものを手に入れた。
 
 それは何かというと、「今」 である。
 結成50年という重みは、そこにある。
  
▼ The Rolling Stones 「Shine a Light」

 

 参考記事 「モノクロのローリングストーンズ」
 
 参考記事 「ブライアン・ジョーンズの孤独」

 関連記事 「シャイン・ア・ライト」

 参考記事 「Dr.バルトリン」
 
 

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ザ・ローリング・ストーンズ結成50年 への2件のコメント

  1. オクラの花 より:

    こんにちは

    前回の「ルート66」で、おやおやストーンズを思い出すなあ
    なんて思っていたら、今回はそのストーンズ。

    自分が勝手に思い込んでるストーンズは彼ブライアン・ジョーンズです。
    何しろ、カッコイイじゃないですか
    田舎者の当時中学生にとっては、これぞ動いているROCKでしたね。
    モンタレーの映画にチラッと歩く姿が映し出される、カッコイイ~!
    スライド・ギターが上手いなどとは今でも思った事ありません。
    ただただいるだけで、その存在感。
    それこそ、自分にとってのストーンズでした。

    それから、ミック・テイラーに変わってからは音楽としてストーンズを
    聞くようになりました。

    ロン・ウッドに変わってからは全く聴きません。
    最近NHKで「シャイン・ア・ライト」をやっていましたが、早送りで
    流して見る程度。「アズ・ティアーズ・ゴー・バイ」は、あんな風に
    アコギを弾いているのか、なんて見ていました。

    自分のストーンズ感でした。

    • 町田 より:

      >オクラの花さん、ようこそ
      お返事遅れてごめんなさい。
      サッカー観てたら、またまた夜中の3時になってしまって …

      .>> 「ブライアン・ジョーンズの存在感」 !
      やっぱり分かる人には分かるんですねぇ。
      私も、感じておりました。

      けっしてイケメンでもないのに、なんか、彼がはにかむような笑いを浮かべてギターを弾いていると、ちょっと 「可愛いな」 なんて思ってしまうこともあるんですよね。

      音楽に対しては、純真な人だったように思います。
      だから、彼が最後にモロッコの民族音楽に傾倒していく様子も分かるような気もするし、いや、案外われわれには見せなかった彼独特の 「精神のスタイル」 があったのかな … などと思ったりもします。

      ジミヘンも、ジャニスも、ジム・モリソンもみな夭逝して神格化されたのに比べ、ブライアン・ジョーンズはそこまで祀られることはなかったですね。
      それが可哀想といえば、可哀想だけど、別の意味で、ロックスターの神秘性をずっと保ち続けているような気もします。
       

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