高倉健主演キャンピングカー映画 『あなたへ』

 

 
 夫婦愛を描いた映画。
 そして、同時に 「夫婦とは何か?」 を問うた映画でもある。
 
 高倉健の演じる 「倉島英二」 は、その答を求めるために、「故郷の海に散骨してほしい」 という亡き妻 (田中裕子) の遺言に従って、1200kmのキャンピングカーの旅に出る。
 
 なぜキャンピングカーなのか?
 
 それが、妻と自分との絆を深めるための大切な乗り物だったからだ。
 
 妻の病床を見舞う建さんは、ベッドから身を起こした妻の隣りに座り、スケッチブックを開いて見せる。
 そこには、彼女が元気になったら、それに乗って旅に出るための自作のキャンピングカーの室内図が描かれている。
 
 「あら、キッチンもあるのね」
 「そうだ、車内で食事だって作れるんだ」
 「いいわねぇ、早く旅に出たい」
 「だから元気になってくれよ、頼むよ」
 
 二人の夢が、1台のキャンピングカーに結集していく。
 
 ベース車は古いエルグランド。
 室内は少し無骨な木工主体の家具で満たされている。
 しかし、富山の刑務所で木工製作の指導技官を勤める健さんにとっては、日曜大工はお手のもの。
 

 
 仕事の合間にコツコツ手作りしているさなか、妻は逝く。
 
 独り残された彼の手元に、他人に託された妻の手紙が届く。
 「故郷の海に散骨してください」
 そう書かれた手紙とは別に、もう一通、故郷にたどり着いたら読むことのできる郵便局留めの手紙があることを知る。
 
 彼女は、なぜそのような手の込んだことをしたのだろう?
 何でも分かり合える夫婦でいたつもりなのに、自分の知らなかった妻の一面をはじめて覗いたような気分が健さんを襲う。
 はたして、妻の真意は?
 
 こうして、富山から妻の故郷である長崎まで、1200kmのキャンピングカーの旅が始まる。
 
 キャンピングカーが国道を走り始める画面が見事だ。
 建さんの胸にこみ上げてくる 「旅たちの高揚感」 と、「最愛の妻を欠いたことの寂寥感」 が、同時に、走り去るキャンピングカーの後ろ姿から伝わってくる。
 
 トラックステーションで、大型トラックに挟まれるように、孤独な車中泊を試みる健さん。
 人参を切って、カセットコンロで温めた鍋の中に放り込む。

 妻と一緒に食事をしたシーンを思い浮かべながら、不器用な手つきで料理を作る彼の姿からは、独り者のやるせなさが立ち昇ってくる。
 
 だが、行く先々で出会いがある。
 まずは、観光地の名水をポリタンクに汲んでいるときに出会った老年の男。
 ナッツRVのキャブコン 「クレソン」 に乗るビートたけしである。
 
 同じキャンピングカーで一人旅をしている仲間ということで、健さんに親しみを持ったたけしは、「近くのキャンプ場に一緒に泊まりませんか?」 と彼を誘う。
 

 
 湖水の彼方に沈む夕陽を眺めながら、語り合う二人。
 話しているうちに、ともに妻に先立たれた寂しい男同士だということが分かる。
 そして、「元・中学教師」 を名乗るたけしの 「旅の哲学」 が披露される。
 
 「 “旅” と “放浪” の違いを知っていますか?」
 たけしが問う。
 黙って拝聴する健さん。
 「目的地が定まっているのが旅。目的地がないのが放浪。もうひとつ。帰る場所があるのが旅。帰る場所を失ったのが放浪」
 放浪俳人の種田山頭火の生き様を例にとりながら、たけしは、自分自身に言い聞かせるように、「放浪」 への憧れと、その切なさを語る。
 
 はたして、自分のキャンピングカー旅行は、「旅」 なのか、「放浪」 なのか。
 健さんは、沈む夕陽を見つめながら、たけしの言葉を心の中で反芻する。
 
 妻の散骨という目的がある限り、それは 「旅」 に違いない。
 しかし、妻がすでにいない自分にとって、「帰る場所」 はあるのだろうか?
 クルマの中で寝泊まりする経験を持つことによってはじめて生まれた疑問。
 健さんは、キャンピングカーで旅をすることの奥行きの深さに気づく。
 
 たけしと別れたあと、京都で 「イカ飯弁当」 の販売員を勤める青年と出会う。
 草なぎ剛である。
 「クルマが動かないので、仕事先の大阪に行けない」 と嘆く草なぎをキャンピングカーに乗せて大阪まで送った後、さらにはデパートの食品売場で、イカ飯づくりまでやらされる健さん。
 
 「さらに明日も手伝ってくださいよ」 と図々しく迫る草なぎの誘いを断りきれず、彼は翌日も付き合うはめに。
 大阪の街で、彼らは草なぎの “年上の部下” だという中年男 (佐藤浩市) をも交えて3人で酒を酌み交わす。
 
 調子の良さを、人柄の良さでカバーしながら気楽な人生を送っている草なぎと、ぎこちない笑顔の奥に深い “陰り” を忍ばせる佐藤浩市。
 その奇妙な取り合わせに戸惑いながら、それでも一人旅のさなかに得た “人間の発する熱” に、凍った心が溶けていくのを感じる健さん。
 
 ところが、諸事お気楽に生きているような草なぎが、ふと酔った勢いでほのめかす言い知れぬ悩み。
 そして、同席した佐藤浩市にも、なにか人に言えない過去がありそうだ。
 
 行きずりの人間たちとの淡い付き合いのなかから、そぉっと浮かび上がってくる様々な人生模様。
 キャンピングカーの旅というものが、人と人との不思議な結びつきを生み出すものであるということを、映画はそれとなく指し示す。
 
 西へ、西へ。
 いよいよ、妻が自分に残したメッセージの秘密を明かしてくれる長崎が近づく。
 
 ロードムービーといえば、旅先の情景が淡々と積み重なるような映画が多いが、この作品、巧みに計算されたストーリーが一本芯を貫いているために、最後まで心地良いテンションが崩れない。
 
 そのテンションの核となるものが、人間の 「情」 なのだ。
 基本的に、一期一会 (いちごいちえ) であるからこそ、つながる人と人の心。
 打算もなく、将来に対する計算もなく、その場限りであるからこそ、お互いに安心して見せ合うことのできる細やかな 「情」 。
 それに触れ合うことこそ、旅をすることの妙味。
 映画はそう語っているように思える。
 
 そういった意味で、まさに 「日本の映画」 。
 演じる健さんは 「日本の男」 。
 今やその存在を確認することさえ難しい、義理がたく、人情厚く、礼儀正しく、筋を通す 「日本の男」 。
 

 
 おそらく、それを演じられるのは、日本の俳優ではもう高倉健だけなのかもしれない。
 年齢80歳。
 顔にシワも寄り、手にもシミが浮いている健さんだが、やはり健さんが画面の一部にたたずむだけで、その周囲に凛とした空気が生まれる。
 そういう男が運転するキャンピングカーは、一種の神々しささえ漂わす。
 
 この映画公開のあと、キャンピングカーと種田山頭火が流行りそうだ。
 上映は8月25日から
 
 
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高倉健主演キャンピングカー映画 『あなたへ』 への6件のコメント

  1. カッチ より:

    ご無沙汰しています。
    キャンピングカーでの旅をテーマとした映画を見るの楽しみですね。
    是非、時間作って映画館で見ようと思います。
    ところで、ご報告ですが新車で購入し8年半乗ったKingを売っちゃいました。
    代わりにプリウスG’sをオーダーし、今度の土曜日に納車予定です。
    本当は、Kingを十数年は乗ろうって、思っていましたが時代の流れと言いましょうか?
    ライフスタイルが変わったって、言いましょうか?
    正直、自分でもKingを売却するのは寂しかったのですが、家族はもう付いて来ませんしプリウスでも、1人旅の車中泊は何とかできるだろうし経済性から考えると、おとなしく乗れば25km/Lも走れる。
    エンジン掛けなくてもエアコンがある程度の時間だと思いますが効く。
    今なら所得税、重量税免税で補助金10万円もらえるなどの理由からエコカーを購入に至りました。
    そうは言っても少しはキャンピングカーの買い替えも考えましたが、ハイエースにしても今の不景気からしてサラリーマンの年収は上がる時代でもなく購入価格はそれなりに高くて、無理してローン組んでもどうかと思い経済性そのものをとりました。
    将来また!いずれバンコンに戻るかも知れませんが、それまでプリウスをキャンパー仕様にして、一人旅を楽しもうと思います。
    また、どこかのイベントでお会いできた時は、変わらぬお付き合いを宜しくお願いします。

    • 町田 より:

      >カッチさん、ようこそ
      お久しぶりです! お元気そうでなによりです。

      でも、とうとうKingを手放されましたか。また一緒にキャンプの夜を楽しもうと思ったのに、ちょっと残念です。
      ランタンの灯りのそばで、またカッチさんのギターを聞きたかったな。

      でも、プリウスでの車中泊も楽しそうですね。
      納車前に、いろいろとカーアクセサリーもご用意されているようで、そんなこだわり方に楽しみを見出すのもカッチさんらしいですね。

      そのうちご一緒できるときも、きっとありますよね。
      その日を楽しみにしています。
       

  2. Take より:

    キャンピングカーと山頭火と聞けば(強いて言えば山頭火よりも尾崎放哉のほうが好きだが)興味深い内容に思います。そしてご紹介の内容から作者の哲学が見えてきますね。
    上映を楽しみにして待ちたいです。

    建さん、誰かに会わなければいけない「旅」が似合いますね。

    • 町田 より:

      >Take さん、ようこそ
      山頭火は何回かブームになって、そのたびに幅広くファンを増やしているようですけれど、それに比べて尾崎放哉は、本当に文学的センスのある人たちに深く愛されている俳人という感じですよね。
      私の周りには、山頭火を語る人は多かったけれど、放哉を語る人は少なかったように思います。
      だから、自然と山頭火の句はそれとなく頭に入っているということもあって、“なじみ” といえば山頭火の方なんですね。でも、Take さんの指摘があって、放哉にももう少し接してみようと思いました。

      おっしゃるように、健さんは >> 「誰かに会わなければいけない 『旅』 」 が本当に似合いますね。この映画、建さんのそういうキャラクターがなければ生まれてこなかった映画であるかのように思います。

      ビートたけしの語る 「旅の哲学」 でいえば、渥美清の演じる寅さんが地方を回るのが 「旅」 。健さんは 「放浪」 が似合いそうですね。
       

  3. Take より:

    >渥美清の演じる寅さんが地方を回るのが 「旅」
    寅さんは帰る家があるからこそ、自由に生きられていますもんね。
    目的地問題より帰る場所の問題のほうが大きいのかもしれませんね。

    • 町田 より:

      >Take さん、ようこそ
      『男はつらいよ』 という映画は、毎回寅さんが切ない失恋を味わうという悲劇の連続を綴った映画なんですけど、なぜそれを観客が喜劇として安心して観ていられるかというと、やはり寅さんには、最後は帰っていける柴又の家族がいるからなんでしょうね。
      柴又の家族は、寅さんの帰郷を温かく迎えるだけでなく、寅さんが心の傷を負っていそうなときは、みな腫れ物にさわるような気遣いをする。それは寅さんだけが帰れる場所ではなく、日本人全員が “帰っていきいたい” と思えるような場所なんですよね。
      だからこそ、あの映画は、一時代の日本人の心を捉えた名シリーズになったんでしょうね。
       

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