「第四の消費」 とキャンピングカー

 
 三浦展氏の 『第四の消費』 (朝日新書) を読んでいると、これからのキャンピングカーマーケットの展開や、日本RV協会が進めようとしている 「RVパーク構想」 の企画とリンクしそうな記述に何度もぶち当たった。

 この本は、マーケティング雑誌 『アクロス』 の編集長を勤め、その後三菱総研などで研究に励み、消費社会の構造分析やその将来に向けての提案を打ち出してきた三浦氏が、その30年の研究をもとに、21世紀の消費社会の展望をまとめた本である。
 「第四の消費」 というタイトルは、20世紀初頭から始まった日本の消費社会の変遷を四つのパートに分け、「現在がその四番目に当たっている」 という著者の認識から付けられている。

 消費社会の四つの変遷史は、すでにネットなどのいろいろなレビューで紹介されているから、ここでは書かない。
 ただ、著者のいう 「第四の消費」 という意味にだけは簡単に触れておく。

 要は、第四の消費社会とは、
 「個人の物質的な豊かさを幸せの尺度と考える消費社会ではなく、人と人のつながりを幸せの尺度と考えるような消費社会」
 … というような意味となる。

 著者によると、この 「第四の消費」 の時代は2005年頃から始まって現在に至り、さらに2030年代ぐらいまで続くという。
 それはまた、日本においてはリーマン・ショックの煽りを受けた金融不安、不況の長期化、雇用の不安定化などによる所得減少などといった問題が浮上してきた時代であり、市場的には、人口減少によるマーケットの縮小などというテーマを抱え込んだ時代ということになる。
 つまり、『第四の消費』 とは、今までの成長戦略に行き止まりが見えてきた時代の消費社会の構造を読み解こうとする書物なのだ。

ポスト “ブランド至上主義” の消費社会

 では、いったい 「第四の消費」 とは、どのような消費のことを指すのだろうか。

 これは、その前の消費社会がどうであったかということと照らし合わせてみると、解りやすい。
 「その前の消費社会」 とは、時代的にいうと1975年から2004年ぐらいまで。
 著者は、その時代を 「第三の消費」 の時代と呼ぶ。

 その時代においては、戦後の高度成長が完了したため、ほとんどの耐久消費財が飽和状態になっていた。
 人々は、すでに買いたい物を見つけることができない。
 そのため、同じ商品でも、「ワンランク上のもの」 、「他者との差別化を図れるもの」 、「家族で共有するのではなく個人で所有できるもの」 というふうに、商品の個性化、多様化、差別化が進んだ。
 別の言葉でいえば、「ブランド化」 が進んだ。
 そしてそれは、バブル景気の後押しによって、さまざまな高級ブランドの売り上げを伸ばした。

 しかし、消費者はやがて、そのような商品の 「ブランド化」 にも飽きてくる。… というか、疲れてくる。
 そのようなブランド商品で身を飾っても、本当の自分というものは、別にそれで主張できるものでもない、ということに気づいてくる。
 
 「自分らしさ」 というものは、すでに自分の中にあるのだから、身の回りに置いておくものは、ただのまっさらな素材で十分。素の自分をさらすためには邪魔な装飾性・過剰な記号性など必要ない。
 それよりも、使っていて心地よいもの、自然な感触が伝わるものであれば十分。

 そういう消費者ニーズに応えるように出てきたのが、「無印良品」 であったり、アパレルでは 「ユニクロ」 であったりする、と著者はいう。
 そういう 「脱ブランド化」 が進んできた時代が、「第四の消費」 の時代だというのが、この書の言わんとしているところである。

 しかし、このような消費社会が出現してくると、実は企業は困る。
 すでに、あらゆるマーケットが飽和状態になってきた時代に、かろうじて 「買い替え」 の需要だけに頼ってきた各企業は、消費者の持っている古い商品を 「もうそれは時代に乗り遅れていますよ」 と “陳腐化” させることによって、新しい製品を買ってもらうことで延命してきたからだ。
 消費者が、物に対するこだわりを失ってしまえば、その “陳腐化の魔術“ が通用しなくなってしまう。

 そうなれば、人々の消費意欲はどんどん減退し、日本の産業は次々と立ち枯れていく時代を迎えるだろう。
 ましてや、これからこの国は未曾有の 「人口減少」 を迎える。
 ただでさえ、マーケットは縮小していく。
 消費市場の減少は、もう構造的な問題として避けようがない。
 では、どうするか?

 もちろん著者は、「物が売れない時代は良い時代だ」 などというつもりで、この本を書いているわけではない。
 企業は、どうすれば生き残りの方法を見つけられるのか。
 「それには発想の転換が必要となる」
 というのが、この本の主張。

他者と “場” や “モノ” を共有するライフスタイル

 大きなテーマとして、「シェア」 という概念がここで提出される。
 「シェアハウス」
 「カーシェアリング」
 いわば、物を “私有する” ことで成り立ってきた従来のビジネスモデルを、「他者との物の共有」 、「物の貸し借り」 といった、物を消費者同士が融通し合う機会をつくることで成り立つ新しいビジネスモデルに転換させていくこと。
 そこに企業の活路を見出すというのが、この本の訴えたいことである。

 すでに若者たちの間には、一軒の家を複数の人間が共有して使ったり、使わなくなった所有物を、それを必要とする仲間に融通し合ったり、融通し合う友だちがいなければフリーマケットに積極的に参加するなど、資源の無駄遣いを避け、しかも同じ気持の仲間と交流し合うことで、新しいライフスタイルをつくり出している人たちがたくさんいる、という。

 彼らは、都心を離れて地方の住みよい土地に移り、取り壊しを待っているような古民家などを借りて、自分たちで改修する。そしてそこを住居にしたり、さらにはカフェなどをオープンする。
 同じ気持を持つ若者が次第に集まってきて、オープンしたカフェの住居部分に身を寄せながら、新しい感覚の町づくりにチャレンジしていく。
 著者は、そのような若者たちの新しい動きに、未来のビジネスモデルの萌芽を見出す。

 ただ、個人的な感想をいわせてもらうと、現段階においては、まだまだ理想論の域を出ていないという気がしないでもない。
 確かに、若者を中心に 「シェア」 という概念がずいぶん浸透してきていることは分かるが、その 「シェア」 に親和性の高いビジネスもあれば、そうでないビジネスもある。
 ひとつの方向性を示すという意味においては、この本の主張は画期的なことかもしれないが、構造的な変化が生まれるまでには、まだまだたくさんの試行錯誤が繰り返されると見るべきだろう。

 ただ、時代のトレンドというものは理解できた。
 特に 「第四の消費」 が、「地方志向」 、「手作り志向」 、「他者との交流志向」 をはらんでいるという指摘は、いろいろなビジネス展開において示唆的なアイデアを提供してくれるはずだ。

 ここで、冒頭に書き留めた 「キャンピングカーマーケットの展開」 や 「RVパーク構想」 と、この本の主張の接点がテーマとして浮上してくる。
 
 著者はいう。
 「人口減少が進む第四の消費社会において、市場の縮小を余儀なくされるのが自動車である。
日本国内における自動車の保有台数は今後確実に減っていく。あくまでも台数を売りたいのなら、中国、インド、ブラジルなどの新興国で商売をするしかない。
 国内ではもはや、自動車を何台売るかは問題ではなく、バス、電車、路面電車、自転車なども含めた総合システムの一貫として考えるべきだろう。(だから自動車を) 交通、移動の手段ではなく、休息、語らいといったゆったりした時間の過ごし方まで含めた生活のための提案素材として考えていくことが大事だ」
 
 著者が指摘するまでもなく、日本の自動車産業は、いま大きな岐路に立たされている。
 人口減少の上に、若者のクルマへの無関心が加速し、かつ高齢者が免許を捨てるケースが増えてくると、日本の自動車マーケットには、もう未来がないかのようにも思えてくる。
 「日本の免許保有者数は、2015年頃から減少し、それと並行して、国内の自動車販売台数は2050年には240万台に減ると予測されているほどである」
 という著者の計算は、あながち外れているとも思えない。
 
 しかし、前半で引用した文章の後段。
 「自動車を交通、移動の手段ではなく、休息、語らいといったゆったりした時間の過ごし方まで含めた生活のための提案素材として考えていくことが大事だ」
 という指摘は、まさにキャンピングカーが切り開く活路の方向を物語っているというふうにも読める。
 つまり、これからの自動車には、「走っていないときでも使える」 ようなキャラクターが要求されるということでもあるからだ。
 
 いうまでもなくキャンピングカーは、走っているときよりも、停車して家族のだんらんや仲間との交流などの “場” として活用されるときに、その本領を発揮する。
 そして、このようなキャンピングカーの特性は、同乗した家族や仲間のみならず、旅先における他者との 「情報交換」 を円滑にするものとしても生かされてくる。
 
“車中泊” という新しい車社会文化
 
 これは、何もキャンピングカーだけに限ったことではないのかもしれない。
 たとえば、昨今のブームとなっている車中泊。
 ある専門家 (大学准教授) にいわせると、現在の車中泊ブームというのは、単に 「宿泊代を節約する」 という意味合いから少しずつ脱し、むしろ 「他者との交流」 、「他者との情報交換」 を求める新しい旅のスタイルになってきたのではないか、というのだ。
 
 その専門家の話を、少し長くなるが紹介しよう。

 「車中泊というブームを、単なる表面的な現象として捉えることは、もうできないのではないか? これは、もっと大きな流れの中で見なければならないものかもしれない。
 つまり、いま車中泊という現象の中で起こっていることは、日本の経済や文化、社会制度などがドラスティックに変化していることをそのまま忠実に表現しているともいえそうだ。
 具体的には、 “失われた20年” といわれるような経済的停滞が長く続いたために、人々の意識の中に “節約はカッコよく浪費はカッコ悪い” という価値観が育ってきたことも反映されているだろう。
 さらに、情報氾濫社会の中で、メディアから垂れ流される情報に飽きたらず、情報を主体的に獲得し、さらに自分自身が情報発信元になりたいという人々が増えてきたことも要因となっているように思う。
 道の駅における車中泊利用者たちの目的を尋ねると、 “同じ嗜好を持った人たちと情報交換することが楽しい” という声がけっこう挙がっている。
 これは、メディアを経由した既成の情報に飽きたらなくなった人々が、車中泊グループを中心に “生きた旅の情報” を求め始めたということを意味するのではないか?
 車中泊利用者のインターネットリテラシーは高いといわれている。
 多くの人は自前のブログ、ツィッター、フェイスブックなどで、車中泊で泊まり歩いた場所などを質の高い情報に加工して発信している。
 そして、お互いのネットワークを密に保っているから口コミの浸透度も早い。車中泊情報はネット空間におい ても、そうとう浸透してきたといわねばならない。
 
▼ 高速道路のSAに集まる車中泊車両

 
 こう考えると、彼らの求めているものは 『道の駅』 そのものではない、という言い方も成り立つ。
彼らが欲しているものは、雑誌などには載っていない “中身の濃い情報” であり、 “新しい人間関係の構築” であり、従来の旅では実現できなかった “新しい刺激の獲得” である。
 だから、道の駅の利用規約を厳密に法定化したり、魅力ある設備づくりを怠ったりすれば、彼らは別のところに行くだけかもしれない。
 車中泊とは、そういう激しい流動性をはらんだ旅行スタイルであり、施設提供者には多大な緊張感をもたらすと同時に、フレキシブルな旅の提案を可能にするものである。だから車中泊は、新しい観光のスタイルを創造するかもしれない」
 
安心・快適なキャンピングカー泊システム 「RVパーク」

 ここで指摘されているようなことは、『第四の消費』 の著者である三浦展氏もまた自著の中で述べている。
 「第四の消費社会では、他者との差別化を求める消費ではなく、むしろ、他者とのつながりを求めるもの。人との共通性を見つけて、そこを媒介として新たなつながりをつくろうとするような消費が生まれるだろう」

 では、そのような消費の “場” を、交通社会の中に見出すとなると、どんなものが考えられるだろうか。
 
 日本RV協会がいま進めている 「RVパーク」 というシステムが、それに応えるもののように思える。
 これは、「安心・快適なキャンピングカー泊」 のための施設として、キャンピングカーというクルマの特殊性を生かした車中泊スタイルを追求したもので、具体的には、道の駅の駐車場の一部にAC電源サイトを設けたり、寝泊まりしたときに発生するゴミの処理などを引き受けてもらえる専用エリアのことをいう。
 
 そして、それは同じキャンピングカー仲間同士の交流の場となることによって、共に宿泊する者同士の連帯を強めることだけにとどまらず、さらに、そういう場を開いた地方の観光資源の発掘にも寄与し、旅人と地元民の交流の場にも発展する。

 まさにここで、『第四の消費』 という本が主張している 「地方の活性化」 というテーマと交わる部分が浮上してくる。
 
 キャンピングカー泊を楽しむ人々の中には、すでに日本全国をくまなく回っている人も多い。
 そのため、キャンピングカーユーザーは地方独自の文化を尊重し、それを味わうことに、旅のだいご味を見出そうする傾向が強い。
 
 これは、当然、キャンピングカーオーナーを対象とした休憩・観光施設には、地方の個性をそのまま生かした施設づくりが求められるということを意味する。
 そしてそれは、その地元の人々の誇りや郷土愛を高揚させることにも結びつく。
 
 『第四の消費』 の著者である三浦氏は、そのような地方文化を温存することが地方の活性化につながると示唆し、それと逆行する “地方の東京化” に強い疑念を抱く。
 
 彼はいう。
 「日本中に巨大ショッピングセンターができたことによって、日本中どこでも同じような消費が楽しめるようになった。
 しかし、消費は東京並みになっても、地域固有の文化が空洞化している。将来、人口が減少し、ショッピングセンターなどの採算が合わなくなり、それらが地域から撤退すれば、残るのはシャッター通りと巨大なショッピングセンターの抜け殻、つまりは廃墟だけとなる」
 
 それを食い止めるのは、ローカリティーの尊重だという。
 「世界中を均質化させるグローバリゼーションが進んでいるからこそ、ローカルなものが評価される。ローカルな特色を持ったものだからこそ、グローバルにも売れる。
 東京のようなホテルがあるとか、東京のようなレストランがあるとか、これまでの消費社会はそういうものを求めてきたが、これ以上、地方に東京的なものをつくっても意味がない」
 
 そして、この地方固有の文化を尊重することが、今の若者の心を捉えることにもつながるという。

 三浦氏はいう。
 「若い世代に地方志向が高まっていることは、内閣府の調査 (2010年) からも分かる。調査によると、都市地域に住んでいる20代の3割が農山漁村への定住志向を持っているという。
 (その理由には) 環境教育を小学校時代から受けてきた今の若者が、本当にエコな暮らしをしようと思うと、必然的に大都市ではなく地方で暮らす方が好まれる、という事情がある。
 また、長引く不況の中で、自分の所得が将来あまり伸びないと思っている若者が、生活コストの安い地方での暮らしを望むという面もあるだろう。
 第三に、メディアにおける地方の取り上げ方がポジティブになってきていることの影響もあると思われる。『ブルータス』 のように従来は都市型の先端的なライフスタイルを提案してきた雑誌が、農業特集をしたりすることの影響である」
 
 高まる地方住民の活性化への期待。
 ローカリティーにあふれた地元文化の復活。
 そのような傾向を旅行者としてサポートしてくれるキャンピングカーユーザーの招致。
 旅するユーザーと地元との交流を図るRVパークの建設。
 
 『第四の消費』 という本は、日本の未来にはそういう選択肢もあるということを示唆してくれる。

 なお、日本RV協会HPによる「RVパーク」第1号の概要は下記の通り
 http://www.jrva.com/jrvanews/2012/120712.html 
 
参考記事 「道の駅たまがわRVパーク」
 
 

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