行列を守らない日本人

 
 日本人は行列が好きな民族だといわれる。
 ラーメン屋に入るにも、福袋などを購入するときでも、日本人は行列ができること自体が人気のバロメーターだという意識があるから、行列があれば、みな嬉々として並ぶ。
 むしろその行列が長くなって、自分の番がなかなか回ってこないことが分かると、「こんなに求めている人が多いんだから、きっとすごい価値があるに違いない」 とよけい嬉しくなってしまう。

 よく聞く話だけど、中国人などはこういうふうには思わないらしい。
 「行列ができるものは価値のあるものだから、早く手に入れないとなくなってしまう」
 … とばかりに、われ先にと殺到するから、結果的に先頭も後尾もなく、周辺全体がラッシュアワー時の満員電車のごとくなるという。

 ま、彼らの 「われ先に」 という根性が、現在の中国社会のパワーとなっているわけだから、これはもうルールとかマナーとかいった問題では語りきれるものではないのかもしれない。
 民族の “エネルギー度” の問題なのだ。

 でも、われわれ日本人は、やはりおとなしく行列を守ることが美徳であると考え、そしてそういうマナーを持っていることを民族の誇りだと思っている。

 が、最近、この行列を守らない日本人というものが、ちらほらと出没するようになった。
 しかも、それは行列を無視して、力づくで先頭を奪うというやり方ではなく、周りの人が、「あれ、こんな人が前にいたかな?」 と、首をかしげるぐらいの自然さを保った割り込みをする。

 そんな例を見た。

 首都圏のJRなんぞの始発駅では、ラッシュアワー時によく 「整列乗車」 というものをやっている。
 これは、終点までやってきた電車の乗客がすべて降りた段階で、いったんドアを閉め、新しく乗る客は、ドアが再び開くまでホームで待たなければならないというルールだ。
 その方が、人の乗り降りをスムーズにして、ホームを混乱させないからだ。

 で、私は、この整列乗車の行列の先頭から2番目ぐらいの位置に立って、ドアが開くのを待っていたのである。
 2番目だから、座っていける。
 イヒヒ … である。本もゆっくり読めるし、居眠りもできる。

 で、ドアが開くのを心待ちにしていたのであるが、私の斜め後方に、不穏な動きをする女性二人の姿が確認できた。

 若いOLの二人連れだった。

 彼女たちは、あきらかに行列に参加していなかった。
 … かといって、その次の電車を待っているという風情でもない。
 行列をつくっている人たちの意識をそらすように、非常に微妙かつ曖昧なポジショニングを維持しているのである。

 私は、怪しいとにらんだ。

 二人は、行列の人から警戒されるのを避けるように、
 「ねぇ … あのさあ、枝毛対策どうしてる?」
 「◎◎っていうトリートメントがいいよ」
 ってな感じで、ごく自然なギャルトークを重ねている。

 が、私はその会話に “作為” を感じた。
 で、ホームに立って、本を読むようなふりをして、密かに彼女たちの監視体制に入った。

 やがて、「動き」 が確認できた!
 じわりと、申し合わせたように、彼女たちの軸足が4~5センチというデリケートな歩幅を維持しながら、前に進んでいる。

 会話は、
 「ねぇ、そのネイルデザインかわいい! どこでやってもらってる?」
 「これねぇ、会社の昼休みにねぇ … 」
 … という感じで、「私たちは何もたくらんでいませんヨ~、だから、警戒しないでね」 というシグナルを出しながら、4~5センチずつ、芸術的な間合いを取りつつ前ににじり寄っている。
 私は、心のなかで、自分で定めた5段階の警戒レベルを、最大の 「5」 に引き上げた。

 さらに、じわり。
 女たちの位置が、私の真横ぐらいに達した。

 私は急いで、自分の体中に警戒警報を響かせ、厳戒態勢に入った。

 ドアが開いた。
 案の定だ。
 彼女たちは、予期したとおり私の前に滑り込み、私よりも先に車内に入ろうとするではないか。

 私は、急いでブロック態勢に入り、かろうじて一人のギャルの侵入を防ぐことができた。

 しかし、彼女たちが 「連携プレイ」 に慣れた連中だということまでは見抜けなかった。
 私のブロックをすり抜けたもう一人のギャルが、すかさず私の後方から回りこみ、一目散に車内に突入すると、私が定位置として大事にしているいちばん右端の席を、タッチの差で奪い取ったのである。

 そして、こともあろうか、呆然と立ち尽くす私を尻目に、今度は、その奪い取った席を、もう一人の女性にサッと譲り渡したのだ。

 なんのことはない。
 行列の 2番目にいた私が彼女たちの前に立っていて、私の後方にいた二人が、けっきょく私の前に座っているのである。

 敵ながら鮮やかなり!

 で、シートに仲良く腰掛けた二人は、自分たちが修羅場を演じたという素振りなど見せることなく、息も乱さず、涼しい声で、
 「ねぇ、ねぇ、吉田ちゃんってみんなイケメンだっていうけど、どう思う?」
 「わたし的にはパスかな。それよか遠藤くん可愛いよ。好みかな」

 すごいぞ! お前たちたくましい。
 ようやく、中国パワーに負けない日本人たちが現れたのかな。

 で、私は、座るために、いさぎよくその電車を降り、ふたたびホームに立って、次の電車を待つことにしたのである。
 
 
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行列を守らない日本人 への2件のコメント

  1. kazuo takahasi より:

    本当にマナーの悪い人が多いですね
    特に中国人は 呆れるほどマナーが悪いです
    その次は埼玉の人ですね 新宿や池袋で埼京線に乗ろうとすると 列に並ばないで 入ってきた電車に割り込んで乗っていきます
    赤羽に着いても降りないので埼玉の人の確率が高いと思います

    • 町田 より:

      >kazuo takahashi さん、ようこそ
      やはり、マナーって大事ですよね。
      それは、国や文明を問わず、それぞれの人間がお互いに気持ちよく生きていくための最低限のお約束事のように思います。
      「どんなふうに生きようが個人の勝手」 という考えもあるでしょうが、けっきょくそういうように自分勝手ばかりを追求していると、けっきょく最後は、その当人が息苦しい生き方を強いられるように思います。
       

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