キャンピングカーで震災を乗り切る

ライフラインを持つクルマの頼もしさを実感 
武石泰幸さん/武石優子さん
 
 日本RV協会 (JRVA)さんが発行する広報誌 『くるま旅』 の取材のため、昨年の暮、仙台にあるキャンピングカーショップを訪ねた。
 そこで、2011年 3・11の津波によって家を流され、仮設住宅ができるまで、自分の持っていたキャンピングカーの中で寝泊まりをしていたというご夫婦から話をうかがった。
 仙台市・宮城野区で、現在も仮設住宅で暮らしていらっしゃる武石泰幸 (28歳) さんと、その奥様の優子さんである。
 
 以下は、ご夫婦がキャンピングカーの中で約 1ヶ月間暮らされたときの体験談だ。
 災害時におけるキャンピングカーの役割を示すひとつの例になるだろうと思い、RV協会さんと武石ご夫妻の許可をいただき、そのときうかがった話の一部を紹介する。
 
……………………………………………………………………
 

 
 武石さんのご主人が津波に襲われたのは、会社の近くの海沿いの道を、営業車で走っていたとき。
 「ふと、海側を見ると、盛り上がった波の上で、たくさんのクルマが踊るように迫ってくるのが見えた」 という。
 逃れようとしても、すでに渋滞でクルマが動かない。
 武石さんは、急いでクルマを乗り捨て、波の反対側に向かって走った。
 
 「幸い、知らない整備工場の前を走っていたとき、そこの方が親切にも “こっちへ来い” と手招きしてくださったんです」
 
 それで、整備工場の 2階まで緊急避難。
 1階は水で被われたが、2階まで及ぶことはなく、なんとか一命をとりとめた。
 
 奥様の優子さんも、やはり海辺の会社に勤務していた。
 津波が襲ってくるのを見て、みな建物の屋上まで駆け上がった。
 まもなく、濁流が道路を埋め尽くし、激しい奔流が会社の 1階まで流れ込んできた。
 
 幸いなことに、水は屋上までは及ばなかったが、代わりに、まったくの陸の孤島になってしまった。
 翌朝になって、自衛隊に救助されるまでは、寒さと不安で寝られなかったという。
 
 しばらく、携帯電話も通じなかったので、ご夫婦とも、お互いの安否を確認することができない。
 水が引いて歩けるようになるまで、かなり不安な日々を過ごした。
 
 4日目に、ようやく電話がつながった。
 サーフィンが趣味の武石さんは、知り合いのサーフショップに身を寄せていた。
 親族の家に避難していた優子さんは、サーフショップまで歩き、ようやくお互いの無事を確認することができた。
 
 しかし、家は失われていた。
 武石さんは住んでいたアパートを流され、優子さんは両親の住んでいる実家を失った。
 
 「どこで暮らそうか」
 そう相談し合ったが、答えは簡単に出た。
 お二人は、キャンピングカーを持っていたのである。
 
 ガス設備を持ち、水タンク、トイレ、ベッドが完備した小型キャブコン。
 サーフィンを楽しむために海岸で宿泊したり、キャンプにもよく出かけていたので、使い勝手は分かっている。
 避難所に入るよりも、プライバシーが確保できるというメリットも享受できる。


 
 運もよかった。
 もし、いつものように、住んでいるアパートのそばにキャンピングカーを停めていたら、あっけなく水に流されていただろう、という。
 ところが、たまたま車検を受けるために、いつも世話になっているキャンピングカーショップにクルマを出していたところだったのだ。
  
 二人のキャンピングカー暮らしが始まる。
 いちばん助かったのは、飲料水や生活用水をプールできる清水タンクを備えていたこと。
 オリジナルのタンク容量は、50リットルだったが、前オーナーが94リッターまで増設していたので、ボイラーを焚いて温水シャワーを浴びるのも楽だった。
 
 サーフィンを楽しむには、シャワーは必需品。
 そう考えていた武石さんは、とにかく水タンクの容量が大きいことが、購入するときの必須条件だった。
 そのことにこだわったことが、震災を乗り切るために役立つことになった。
 
 ただし、近辺の水道が止まっているので、水の補充が大変。
 ガソリンの供給が途絶えていたので、むやみにクルマを動かすわけにもいかない。
 仕方なく、自転車にポリタンクを積み、水道が機能していた公園まで出向いて、水を補給したという。
 
 電気の供給も止まっていたので、電源の確保も課題だった。
 しかし、ルーフにソーラーパネルを積んでいたことが幸いした。
 それによって蓄えた電気で、夜は照明とFFヒーターを作動させた。
 
 ガスはプロパンボンベ。
 もちろん、使いきってしまうと、その補充はなかなかやっかいだ。
 ところが、旦那さんの勤める職場がライフラインに関係する会社だったので、プロパンガスの充填にも心配がなかった。
 
 ダイネットテーブルをベッドメイクして、サイドソファにつなげれば、そのままオールフルフラットな就寝スペースも誕生。
 ベッドの寝心地がいいため、深い睡眠を確保することもできて、それが仕事の疲れ癒すのに役立った。
 個室トイレがあるので、寒い夜でも、いちいち外に出る必要がなかった。
 
 家を失うという悲劇を味わうことになったが、キャンピングカーがあったために、生活する場所は確保できた。
 キャンピングカーを持っていたことのありがたみが、今までとは違った形で実感できたという。


 
 仲間もいた。
 武石さん夫妻が世話になったサーフショップのオーナー家族も、同じようにキャンピングカーを持っていたのだ。
 寝るときは、敷地内に停めた 2台のキャンピングカーにそれぞれ別れ、「おやすみ」 の挨拶を交わし合って休む暮らしが続いた。
 
 日々の食事はどうしていたのか。
 
 「そのサーフショップのオーナーが親切な方だったので、食事はその家族の方々と一緒にとることができました」
 と、武石さん。
 
 最初のうちは、食材も十分に出回っていなかった。
 
 「オーナーが備蓄していた米を分けていただいて、一緒に食べたり、あとは缶詰を開けたり …。お米だけ食べても、こんなにおいしいものだとはじめて知りました」
 と、武石さんは、当時を思い出して笑う。
 
 そのうち、少しずつ食糧も流通するようになり、近所の小学校などで配給も始まった。
 サーフショップとの付き合いがあるサーフボードメーカーが、いちはやくいろいろな物資を届けてくれたこともありがたかったという。
 
 現在、武石夫妻は、宮城野区に建てられた仮設住宅で暮らしている。
 被災直後に 「家」 替わりに使ったキャンピングカーは、再び、ご夫婦でサーフィンやキャンプを楽しむためのツールに戻った。

 

 「たぶん、もうキャンピングカーから離れた生活はできないでしょうね。いざというときに、これだけ役に立つ道具になることも分かったし、何よりも、震災の辛さを忘れさせてくれる楽しいアイテムであることも理解できましたから」
 
 ご夫婦ともどもそう語る。
 まさに、JRVAがキャンピングカーライフの標語として提唱する 「食、寝、遊、備 ( くうねるあそび ) 」 を完璧にまっとうした例のひとつであるかと思う。
 
 

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キャンピングカーで震災を乗り切る への7件のコメント

  1. 以前からこのブログ楽しみに拝見させて頂いてます
    ここにコメント書き込むのって少し勇気が要ります
    毎回内容が鋭くディープなので、口を挟むことにためらいを感じます
    でも、今回の内容はキャンピングカーが旅行やレジャーだけではなくライフラインとして役立ったと言うお二人の話は、自分がこのキャンピングカーという仕事に携わっていて良かったな~と改めて感じさせてくれました
    まだまだ、こんな感じのドキュメント取材記事を書いてください
    日々の仕事へのモチベーションに成ります
    それでは、また何処かで・・・・

    • 町田 より:

      >ひできカンレキさん、ようこそ
      ありがたいコメントをいただき、感謝・感激です。
      私もまた、「ひできカンレキ」 さんのブログの大ファンです。
      キャンピングカーのお仕事に携わる方には珍しいくらい多方面に渡る知識と豊富な話題を披露されていて、いつも楽しく拝読しております。
      アンテナ感度の良さは抜群ですね。
      特に、(私にはチト苦手な) 自然科学系・技術系のお話を小気味良く料理される手腕には脱帽です。
      そういう方が、このブログの読者であるということに誇りを感じます。
      また、お越しください。
      次にお会いできる日を楽しみに … 。
       

  2. 信州の五郎 より:

    突然のメールにて失礼致します。
    キャンピングプラザ東京の社長より、貴方様のブログの存在を紹介され、それ以降勝手に楽しく拝見させて頂いております。
    多方面にわたる内容と鋭さに、ひできカレント様同様、書き込む事など・・・。
    この度のキャンピングカーの活躍は遊びのツールではなく、生きる為のツールとして掛替えの無い存在感を示してくれています。

    数年前に犬を飼い始め、旅に出る機会が減って事から、犬と一緒に旅に出るためと、キャンピングカーを一昨年の九月に縁ありましてプラザ東京さんから購入しました。
    そのキャンピングカーとの出会いは、犬との旅を超えて、翌年の東日本大震災を機に東北へのボランティアへと自分を誘ってくれました。
    おそらくキャンピングカーが無ければ、阪神大震災の時と同じく、遠くに出来事として、思いをめぐらすだけで身体は動いて居なかったと思います。
    ひできカレント様のブログ内にありました「人生を キャンピングカーで 凌駕する」言い言葉ですね。

    残りの人生、老人と言われない人生でありたいと思います。

    これからも勝手に拝読させて頂きますが、お許し下さいませ。

    • 町田 より:

      >信州の五郎さん、ようこそ
      キャンピングカープラザ東京の社長さんのお知り合いということならば、私にとっても大切なお客様です。お越しいただいてありがとうございます。

      今回ご紹介させていただいたご夫婦のように、キャンピングカーが震災の傷を癒す機能を持っていたことを伝えることは、やはり多少はキャンピングカーに縁のある仕事をしている人間にとっては感慨深いものがあります。
      信州の五郎さんも、東北でボランティア活動をされたとのこと。そのように、キャンピングカー仲間が、ひとつの目的のために集うことで、少しでもお互いの気持ちを近づけ合うことができるのは、やはり素晴らしいことのように感じます。

      「ひできカンレキ」 さんのことを、ちょっと書き間違えたことなど、カンレキさんも笑ってすませてくださることと思います。
      だから、あえて修正はしませんでした。
      これを機に、カンレキさんのブログにも足を運んでみてください。
      とても、ユニークなことを書かれていると思いますので、きっとそこでも気持ちが通じ合うように思います。
       

  3. 信州の五郎 より:

    ひできカンレキ様。

    ひできカレント様と書きまして大変失礼いたしました。
    お許し下さいませ。

    小生も最近還暦を迎えました。気持ちはいつも青年なのですが、やはり脳は還暦のようです。m(_ _)m

  4. Take より:

    Blogを見るチャンスが少しの間なく遅くなってからのメッセージ、失礼をいたします。
    大変な被災をお受けになられましたが、その後は何もかもがお二人に好都合に進んだ感じがいたします。キャンピングカーを持っていてもなかなかこんなに充実した「その後」を過ごせないものでしょうけれど、運も味方なされていましたね。
    我が家も被災の場合ように車にはすべてを積んであります。もし家が崩壊したらその中から何かを取り出すのは極めて難しいと思いますが、キャンピングカーならガラス窓を割れば中に入ることができます。横転したとしても食べ物・飲み物は取り出せますし、リアのカーゴスペースにはそれなりのキャンプ道具は積んであるので使用はできると思います。
    大きな庭を持っている方は、庭に物置小屋を作ることもできるでしょうけれど、我が家はそんな大きな庭はないので、物置小屋替わりに災害道具を積んでおくことで、武石さんほどにはならなくても安心・安全は確保できそうです。
    しかしこうしたニュースを聞くと、ある意味高い買い物も、被災時の保険としての効果もあると考えれば安く感じますね。

    • 町田 より:

      >Take さん、ようこそ
      武石さんご夫妻は、とても気持ちの良いご夫婦でした。
      震災の直接的被害者として、けっこう辛い思いをなされたと思うのですが、遠方から取材に来た私のことを気遣って、終始笑顔を絶やさず、明るく応対していただき、頭が下がる思いでした。
      1ヶ月生活されたというキャンピングカーの室内も見せていただきましたが、細かいところまで手入れが行き届き、大切に使っていらっしゃる様子が伝わってきました。

      Take さんがおっしゃるように、やはり家の近くにキャンピングカーがあるということは、何かと心強いですね。いざとなったら、自分たちが緊急避難するためのシェルターにもなりますし、周囲の家が倒壊したときなども、ご近所で弱っている方がいらっしゃれば、ベッドを提供することもできます (なにしろ就寝定員6名ですから)。

      >「被災時の保険の効果もあると考えれば安くも感じます」
      まさに、そのとおりかもしれませんね。
      もうじき 3・11がめぐってきます。
      亡くなられた方々のご冥福を祈りたいと思います。
       

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