刺青という劇的表現

 
 先週の金曜日から日曜日にかけて、名古屋で開かれた 「名古屋キャンピングカーフェア2012」 の取材をしてきたけれど、取材期間中によく使うのが、会場からクルマで30分ほど走ったところにあるドライブイン。
 なんたって、そこには、24時間営業の食堂とコンビニがあるし、朝の7時まで入れる温泉があるというのがうれしい。

 温泉は、1400メートルほど地下を掘って汲み出した天然温泉で、三つの内湯と露天風呂、釜風呂、サウナも完備。
 
 ま、文句のつけようもない便利な休憩施設なんだけど、この温泉に浸かっていると、ときどき異形のナリをした人々も入ってくる。
 脱衣所でシャツを脱ぎだすと、空に昇る龍とか、観音菩薩とか、滝を昇る鯉なんかが飛び跳ねている背中を持った人たち。
 あるいは両腕にびっしりとムカデみたいな模様を入れた人もいる。

 「タトゥー」 という外来語よりも、「刺青」 という和の響きを持った言葉が似合う模様で肌を染めぬいた人が、ときどきお風呂に来るのだ。
 「ドライブイン」 とはいいつつ、トラックドライバーの比率が非常に高い場所なので、自然とそうなるのかもしれない。

 もちろん、一目見ただけで、 “あっち系” の人ではないことはすぐ分かるし、そういう人たちが、怖い目つきで周りを威嚇したりすることはまずないんだけど、やっぱ、隣のコインロッカーにシャツを投げ込む人の背中で、いきなり不動明王がカッと目を見開いたりすると、ギョッとする。 

 それも、けっこう見事な彫り物で、うっとり見とれてしまうようなものがあったりすると、「見て見ぬふり」 するのに気をつかう。


 
 そういう人だって、風呂に入るときは、たいてい穏やかな顔つきになっているもんだが、やっぱこちらがジロジロ見過ぎると、いつなんどき 「おめぇ、オレの背中にハエでも止まっているというんかい?」 なんて凄まれそうで、怖いなぁ … とか思ってしまうのだ。

 「いえいえハエどころか、毛虫やらムカデやら、ゴキブリでも止まっていそうで … 」
 なんて、もし言ってしまったら、
 「てめぇ、そいつはゴキブリではなくサソリよ。おまぇ、オレのサソリをよくもゴキブリ扱いにしてくれやがったな」
 とか凄まれたらどうしよう … などとついつい思ってしまうため、片目にゴミでも入ったように装って、もう一つの目を薄く開けて、こっそり盗み見る。

 背中に龍や鯉を “飼っている” ような人たちというのは、柔和な顔つきをしていても、(気のせいかもしらんが) どこかでアウトローの凄みが漂う。

 どういう経緯で、彫り物人生を歩むようになったかは知らないけれど、やっぱり 「お断り」 を謳う温泉やプールは多いだろうし、まず公務員とか大手企業みたいな世間体を大事にする固い仕事には就けない。
 当然、それを知った上での覚悟があっただろうから、
 「オレの人生はてめぇで落とし前を付けるから、お前ら外野の人間につべこべ言わせないぜ」  
 という無言のメッセージが、そういう人の背中に漂っている。

 目立ちたいのに、人の視線を拒否する精神。
 そういう相反する心がぶつかり合うときの緊張感が、そこに表れている。

 だから、やっぱそれは 「劇的」 なのだ。
 こっちの心にも、「怖いけど、見たい」 という相反する力が生まれる。

 だから、実は、そういう彫り物おじさんがお風呂に入ってくるのを、密かに楽しみにしている。
 若者が、遊び半分で腕に入れたタトゥーなどには興味がないけれど、背中全面を牡丹が覆うような見事な彫り物というのは、めったに見る機会がない。
 「怖いもの見たさ」 である。
 だから、そういう人が来ない日は、ちょっとガッカリしてしまう。

 今回はありがたいことに、見事な 「滝を昇る鯉」 で背中を埋めたおじさんがいた。
 
 湯煙の中で、さりげなく半目を開き、こっそりそれを見物する。
 ちょっと、禁断の風景を眺める気分。
 
 それをこわごわと眺めた後、自分のキャンピングカーに戻ってドアの鍵をばっちり閉め、酒を飲みながら 『網走番外地』 などの演歌を聴く。
 この気分もなかなか悪くない。
 
 

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刺青という劇的表現 への4件のコメント

  1. タイムジャンクション より:

    『ドアの鍵をばっちり閉め』と言うのがなんとも良いです!! ちなみに昨日のイベントでは久しぶりにトラック野郎の一番星の展示がありました。

    • 町田 より:

      >タイムジャンクションさん、ようこそ
      トラック野郎の一番星。一世を風靡した人気映画でしたね。
      実は、私も今回休んだドライブインで、久しぶりに華やかなデコトラを見ました。
      改めてじっくり見ると、見事なものですね。
      お祭りのお神輿 (おみこし) が、そのままトラックになったような感じでした。
       

  2. matsumoto より:

    温泉施設に入ろうとするとき、スリガラス越しに映画「アバター」に似た緑色の人物の影がみえた瞬間に、町田さんと同じようにみたいようなみてはいけないような感覚がわいてきて、緊張の時間を過ごします。それはそれで興味深い。

    ある温泉の営業時間終了間際に、ドタドタとそういう人が数十人一度にはいってこられて、その方たちが取り囲むようにして親分様がはいってこられたときはさながら映画をみるような迫力がありました。タダでみせてもらえて趣きがありました。

    • 町田 より:

      >matsumoto さん、ようこそ
      私も、そういう情景に一度遭遇しています。
      昔、正月に、家族で熱海の温泉ホテルに泊まったときでした。
      昼間、子供とゆっくりとお湯に浸かっていると、途中から、見事な彫り物を腕や背中に染めぬいた一団がどっと繰り出してきた、ちょっと緊張してしまいました。
      しかし、そういう男たちが、みな小さな子供の手を引いて、楽しそうにお風呂に浸かっているんですね。
      組の人たちが家族を連れて楽しむ 「新年会」 だったようです。

      夜は、その方々が親分の席をぐるりと囲んで、カラオケ大会をやっていました。
      家族同伴のときは、どんな人間も、和気あいあいと過ごすんだなぁ … と妙なことに感心した記憶があります。
       

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