創作ラーメンって好き?

 
 “創作ラーメン” というのが、あまり好きじゃない。
 要は、その店のオーナーが、創意工夫を凝らした 「オリジナルラーメン」 。
 『ラーメンと愛国』 を書かれた速水健朗さんよるところの “作務衣系” ラーメンというのに、そういうものが多い気がする。

 作務衣系ラーメンとは、アゴヒゲ生やしたような若いスタッフが、作務衣 (もしくは店の名を染め抜いた黒Tシャツ) を着て、頭にはバンダナかタオルを巻き、丼の色は黒か紺で、店内には “説教くさい手書きの人生訓” のようなものが掲げられている店で出されるラーメンのこと。
 
 これがあんまり好きではない。
 だって、「おいしい!」 と思ったものに出くわしたためしがないのだ。
 
 まず、魚介とんこつだのなんだの … という、濃くてドロっと脂が浮いていて、しょっぱいスープが好きじゃない。
 
 これは年のせいもあるだろうけれど、
 「ラーメンのスープってのは、もっとうっすらと澄んでいて、丼の底に沈んだ麺の切れ端まで見通せるような、あっさりした醤油味のことをいうだろう?」
 という古い先入観から抜け出せないでいるから、まずそのスープそのものからして、 “作務衣系” ラーメンは、自分にとってはラーメンとは別の食い物に見える。
 
 次に麺が嫌い。
 こういう店で出されるラーメンは、たいていがうどんかスパゲティのような、白くて真っ直ぐな太麺。
 「ラーメンというのは、だいたい黄色くて縮れたもんじゃねぇの?」
 という古い先入観から抜けられない自分からすると、まずその麺だけで、「こりゃラーメンとは別の食い物だ」 と思わざるをえない。
 そういうのは、「魚介とんこつチャーシューパスタ」 とかいってくれた方が納得がいく。
 
 ま、時代の流れについていけない自分がいるだけなんだけど、最近は、町の表通りのラーメン屋も路地裏にあるラーメン屋もこぞって作務衣系を目指しているように見えてさびしい。

 自分の好きなラーメンは、すでにここまで書いてきているとおり、昔ながらの素朴な 「東京ラーメン」 だ。
 うっすら醤油味で、麺は黄色く縮れていて、具材は、焼き豚 1枚に海苔 1枚。メンマ少々、あとはホーレン草かわかめ。最後にナルト。
 そして、何よりもコショーと合う味でなければならない。
 
 そもそも、ラーメンはコショーなのだ。
 それも粗挽きコショーではなくて、風が吹けば舞い上がって、鼻に入るとくしゃみが出そうな、目の細かい粉末コショー。
 七味とか豆板醤など入れるってのは、邪道だ。
 
 そんな正統派ラーメンは、今や絶滅の危機に瀕していて、町のラーメン屋からはどんどん追い払われ、地方の高速道路のパーキングエリアの食堂で、ラーメンにこだわらないパートのおばさんたちに守られながら、ほそぼそと残っているだけだ。
 で、そういう 「こだわりのない」 ラーメンを食べると、本当にホッとする。
 無類に美味しく感じられる。

▼ よく食べている駅前の屋台ラーメン 「鳳」。正統的な東京ラーメンで、めちゃうまいで

▼ 東京ラーメンはこうじゃなくちゃ … という見本みたいな 「鳳」
ラーメン。今日はちょっとゴージャズに 「チャーシューメン」 だ

 『ラーメンと愛国』 を読むと、このラーメン業界に変化が起こったのは、脱サラおやじが食べていくために始めた “ラーメン屋” の時代から、若者たちが自分の腕を試す “ラーメン道” の時代になり、オリジナリティというものが、ものすごく尊重されるようになったからだという。
 
 オリジナリティというのは、「物語」 を要求する。
 ラーメン道を極めるための厳しい修行という 「物語」 が、まず必要になる。
 独創的な味を生み出すための、苦難と努力。
 厳選された素材へのこだわり。
 
 キーワードは、「こだわり」 だ。
 スープは、南海に棲息する火喰い鳥の鶏ガラでいくか、それとも、朝の 3時から 5時の間にしか採れない北海の昆布でいくか … というようなこだわり。 
 ラーメンとは、店主のこだわりを 「物語」 に仕立てて客に提示する料理になったのだ。
 
 だから、まずコンセプトそのものが変わっているラーメンが増えた。
 この前食べた 「厳選野菜ラーメン」 というのには、びっくりした。
 タンメンのようなラーメンを想像していたら、 “うどん” の入ったミネストローネスープが出てきたのだ。
 
 いちおう、食器だけはスープ皿ではなく丼だったけれど、人参とか玉葱といっしょに、その太麺 (=うどん) を口に運んだとき、
 「オレは長生きし過ぎたかな?」
 と、ふと思った。
 コンセプトは買ってもいいが、肝心の味が、ラーメンにもミネストローネスープにもなってなかった。
 
 テレビでは、「パイの包み焼きラーメン」 というのを見たことがある。
 フランス料理で 「パイの包み焼き」 っていうのがあって、パイの中身はクリームシチューだったり、海老やカニが入ったシーフードポタージュだったりするわけだけど、そこに入っているのが、とんこつラーメン。
 
 ここまで来ると、マヨネーズやマスタードをまぶしたラーメンとか、ケチャップ味のラーメンが出てくるのも時間の問題という気がする。

 で、ラーメン屋の店主が、みな創意工夫に走るのはいいけれど、誰もが成功するってわけじゃない、ってことは言いたい。
  
 「味」 を作るっていうのは、大変な作業なのだ。
 特に、その人ならではのオリジナルの味を作るってのは、「努力」 と 「こだわり」 も大事だけど、なんか 「天分」 というものを授かった人にしかできない芸という気もする。
 
 そういう 「天分」 に恵まれた人が、それぞれの領域で、ひっそりと頑張ってきているのだ。
 だから、ラーメンの修行はいいけれど、ラーメン以外の料理との折衷を図るなら、やっぱそっちの方には、そっちの専門家がいるってこと。
 
 フランス料理味のラーメンなんていったって、本場のフレンチやっているシェフにはやはり勝てないよ。
 単価の違う食材を扱い慣れている料理屋のメニューと肩を張ったって、勝負は最初から見えている。
 テレビのショーの出し物なら、(味は視聴者に分からないので) いいのかもしれないけれど、それを商品化するとなると、また別の問題となる。
 
 「創意工夫」 を否定するわけじゃないけれど、中途半端な創意工夫ならやらない方がいい。
 それよりも、オーソドックスなラーメンらしいラーメンで、ほんとうに美味しい味を作ってほしいな。
 
 
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創作ラーメンって好き? への8件のコメント

  1. 旅人 より:

    私も先日、創作ラーメンっていうんですか、それを食して参りました。
    私がトマトラーメンと奥さんがカルボナーラのラーメン。オプションでチーズ
    ライスを頼んで、トマトスープに入れて食うんです。旨いです。が、
    食っているうちに、この味どこかで食ったなと思ったら、その数日前に
    イタメシ屋で食ったリゾットでした。で、またその数日前に、家で
    トマト鍋を食ったことに気がつきました。
    うーん、こうなるとですね、いまの時代、なんでもありなんですね。やったもん勝ち。
    町田さんの言われるように、今度はとんでもないメニューががでてきそうです。
    思うに、オーソドックスなラーメンって割と難しいんじゃないですかね?
    フツーって、絶妙なバランス感覚が要求されますからね。
    で、割とつくっている奴が前に出てきて、個性を売って目立つ。
    それも簡単にいうと威張っているのがイライラしますね。
    味も、だいたいすぐ飽きる。ま、アイドルがすぐ売れなくなるのと似ていまして、
    演歌歌謡のような昔ながらのラーメンは、やはり寿命も長いですね。
    いま、椎名誠さんに再びラーメンを語らせても、やはり普通のラーメンを支持すると思います。
    そう思いませんか?

    だからオヤジは嫌われる、ですかね(笑)

    • 町田 より:

      >旅人さん、ようこそ
      いろいろなラーメンが生まれてくるということは、(好き嫌いは別にしても) やはり、それこそ、ラーメンが今や日本のベーシックな “国民食” になったということの証しかもしれませんね。
      それだけ、やっぱりラーメン業界には 「活力」 があるということですから。

      ただ、旅人さんもおっしゃるように、「飽きる」 ということはあるかもしれません。
      … というのは、創作ラーメンって、やっぱり味の濃い方にシフトしていきがちですから。
      味が濃いと、最初に食べたときは 「美味しい」 と思っても、私みたいに年とってくると、そう何度も食べたいとは思わない。

      しかし、演歌歌謡のようなベーシックなラーメンって、やっぱり飽きない。
      自分がはじめてラーメンを食べたときは、今から50年以上も前で、確かに一杯35円だったような気もします。
      でも、無類においしかったという記憶ははっきり残っているし、その後似たようなラーメンを食べても、やはり美味しいと感じます。
      だから、飽きないんですね。

      私もまた、椎名誠さんは、絶対普通のラーメンを支持すると思います。
      それだけは、確かに言えそうですね。
       

  2. s-_-s より:

    町田さん含め大人世代の方に一言申し上げとう御座います。

    若い世代がやっていることが何でも文化の主流、時代の趨勢だと思ったら
    大間違いです。

    今の時代は生きている人間全てが築き上げるものです。
    不味いものは誰が食べても不味い。

    しんしんと寒い夜に赤い暖簾をくぐって引き戸をガラガラ開けた時、
    体を包む暖かい鶏出汁の香り。
    ベタベタの赤いカウンターとその向こうで立ち昇る湯気。
    これぞラーメンへの憧れが最高潮に達する瞬間!

    作務衣系の店にはまずこれが足りない。
    あるのは只、目に飛び込む安っぽい能書きと居酒屋チェーンのマニュアルに
    ありそうな威勢至上主義の「いらっしゃいませ!!」
    まったく興醒めもいいところです。
    何店か食べたことありますが、
    能書きだけは一人前のひよっ子の様な味に何度がっかりさせられたことか・・・

    王道の醤油は仰るとおり駅ソバやスーパーのフードコートで380円くらいで
    細々と生き続けています。

    嗚呼何たる惨状でありましょう。とりあえずお腹が空いてきました。

    • 町田 より:

      >s-_-s さん、ようこそ
      いやぁー痛快です。
      >「不味いものは誰が食べても不味い」
      結局、この一言に尽きますかね。

      それにしても、s-_-s さん、は表現力が豊かですね。
      >「しんしんと寒い夜に、赤い暖簾をくぐって引き戸をガラガラ開けた時、体を包む温かい鶏出汁の香り。ベタベタの赤いカウンターとその向こうで立ち上る湯気。これぞラーメンへの憧れが最高潮に達する瞬間!」
      なんて、実に気分が伝わってきます。
      ほんとうに、そのとおりですね。

      また、>「目に飛び込む安っぽい能書きと居酒屋チェーンのマニュアルにありそうな権威至上主義の『いらっしゃいませ』 」
      なんて、観察も細かいですね!
      びっくりです。

      s-_-s さんの上手な表現に接しているうちに、こちらも本当にお腹が空いてきました。
       

  3. s-_-s より:

    文章のスペシャリストの町田さんにお褒め頂けるなんて光栄です!

    • 町田 より:

      >s-_-s さん、ようこそ
      いえいえ、私のことなど ……。
      それよりもs-_-s さんの観察力と表現力は本当に素晴らしいです。

  4. yukke-chan より:

    町田さんこんにちは、ユッケチャンです(*^_^*)
    私はラーメン大好きです♪
    無意識でしたが、確かに最近は作務衣系ラーメンばかり食べてるな、って気づきました!
    昔ながらのさっぱりした中華そばも好きですが、最近おいしいお店が少なくなったような気がします。
    小さい頃に行っていたラーメン屋に数十年ぶりに行ったら味が変わっていたとかありますね。
    先代が亡くなって昔の味が出せないとかあるのでしょうか。
    それとも私の好みが変わってきたんですかね。

    • 町田 より:

      >yukke-chan 様、ようこそ
      そうですよね、ユッケちゃんさんのブログ拝読すると、よくラーメンネタありますものね。
      やっぱり、私もラーメン好き。
      おやつのような気軽さで、しかも料理のような満足感があるところがたまりませんね。

      >「小さい頃行っていたラーメン屋の味が落ちている」 というのは、よくありますね。
      先代の味が出せなくなったのか、それとも自分の舌が変わったのか …。
      微妙なところです。
      どちらもいえるのかもしれませんね。
      たぶん、ファーストフード系の料理がどんどん味が濃くなってきているので、濃い味に慣れてくると、昔の味にはものたらなくなるということはあるかもしれません。
       

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