困ったおじさんは、なぜ生まれたのか

 
 前回のブログで、「困ったおじさんたち」 っていう記事をエントリーしたけれど、いろいろコメントを頂いたりして考えたことは、NHKのEテレでやっていた 『ニッポンのジレンマ』 の討議内容とも関わってくる問題なんだな、という気が、ふとした。

 ひとつは、コミュニケーション不全ということ。

 一部のおじさんたちが、若い女の子が戸惑うようなナンパをしかけちゃったり、あるいは相手を泣かしても容赦しないくらい怒りまくってしまうのは、一言でいうと 「コミュニケーション不全」 ということなんだろうと思う。

 『ニッポンのジレンマ』 で、誰かが、「日本の中高年というのは、ソーシャルスキルを持っていない」 という指摘をしていた。
 要するに、一般社会のなかで、普通の人と普通に話したりする技術 (あるいは能力) 。
 それが、多くの中高年男性に欠けているという指摘が、ちょっとだけなされていた。

 つまり、仕事場では、生産性を高めるための建設的な意見をいろいろ語れるような男性が、仕事を離れてしまうと、誰に何をしゃべっていいのか途端に分からなくなってしまうという現実があるようなのだ。

 そのソーシャルスキルにおいては、女性の方がはるかに高い。
 それは、女性が生きていくときに背負う問題の方が、男性よりはるかに重いというところから来ている。
 
 長期の不況が続くなかで、ダブルインカムを考えないと家計を維持できない家庭が増えてきたため、主婦の就労者がとても増えている。
 もちろん旦那さんも働いているのだけれど、彼女たちは、外で働くと同時に、家事・育児という家庭内労働に携わる率が、男性よりはるかに高い。

 そのために、同じ悩みを相談しあったり、助けったりするための女性同士の横のネットワークを構築しなければならない。
 それが、女性のソーシャルスキルを高めることにつながる。
 
 『ニッポンのジレンマ』 の中では、3・11の大震災で、家を失って仮設住宅住まいを余儀なくされた人たちの話が出ていた。
 
 仮設住宅においては、それまで住んでいたエリアを離れて、今までとは異なる地域で暮らしていた人とコミュニティを形成しなければならない場合が出てくる。

 そんなとき、女性同士は、知らない相手に対してもフランクに会話を交わし合い、共同生活のルールをスムースに語り合うことができる。
 しかし、男性同士は、なかなかそういう場に入っていけないのだという。

 討論のなかで、こんなことを言う人がいた。

 「団塊世代の女性たちと話していて驚いたことは、旦那さんが定年退職をして、家にずっといるようになって、 “こんなに気が合わないのか!” ということにはじめて気づいた、という女性の多さだった」
 
 こういう話は、われわれ世代においてはよく聞く話で、さほど珍しいことではないのだけれど、若い人たちからすると意外に思えるものらしい。

 それはともかく、いま定年退職を迎えるぐらいの日本の男性たちは、家の中でも、すでにコミュニケーション不全に陥っていたということなのだ。

 それは、やはり日本の産業構造の問題でもあるのだろう。
 今の定年退職を迎える頃のおじさん世代は、高度成長期に長時間労働を強いられて、家庭を顧みる機会に恵まれなかった。

 さらに、その時代の日本の各会社は、それ自体が、地域共同体が崩壊した後の、それに代わる中間共同体的な役目を担っていた。
 そのため、彼らのコミュニケーションスキルというのは、すべて所属する仕事場だけに通用するような形に固定化されてしまった。

 だから、定年退職によって会社から離れたりすると、もう未知の他人とどう交わればいいのか分からない。
 すると、電車の中で、酔った勢いで若い子をナンパしたり、ケーキ屋の店員を必要以上に叱責したりする人が出てきてしまう。

 もうひとつ、この世代の特徴としていえることは、インターネットリテラシーが低いということ。
 パソコンが会社のデスクに置かれる時代が来ても、団塊世代以上の人たちは、それを十分に使いこなす時間を持たぬうちに退職を余儀なくされただろう。

 だから、彼らにはネットを通じて、誰かの意見に触れたり、自分の意見を公開したりするという機会がなかった。
 そのため、ネットの世界では、ちょっと不用意な意見を述べたりするだけで、とんでもない誹謗中傷にさらされるという実感も乏しい。
 「自分を正す」 という契機が、そこからも失われる。

 しかし、それは、「時代の問題」 でもあり、「社会構造の問題」 でもある。
 けっして、個人のキャラクターや能力や誠意の問題だけには還元できない。
 
 『ニッポンのジレンマ』 に登場していた若い世代というのは、とにかくクレバーだから、そのへんの感じはよく分かっているような気がした。
 彼らは、「困ったおじさんたち」 というテーマが出てきたら、きっとこういうだろう。

 「私たちは、別にあなた方を責めない。その代わり、邪魔しないでくれ」
 
 
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困ったおじさんは、なぜ生まれたのか への4件のコメント

  1. Sora より:

    本当に困ったおじさん達ですね~。その因子を私にも見ますから、余計困ります。

    私の知っている上司に、非常に会社で気配りのできる、特に自分よりも上位の方に愛想の良い、俸給生活者として成功された方がおられました。
    しかし、一緒に食事に行く機会がありまして、よくウェイトレスさんに突然怒り出すのです。原因は彼女のささいなミスとか接客態度です。予想外で、こっちがオロオロしてしまいます。
    おじさんが、公衆の面前で声を張り上げて叱責している相手は、警察官といった上位者、権力者ではないでしょう。たいていは、自分が客で、相手からサービスを受ける、手厚く接遇してもらうべきと考えるシチュエーションではないでしょうか。

    つまり、おじさんは会社で、耐え忍んだ鬱憤をはらしているのです。オレはこんなに耐えてきたのにオマイラはオレにナンダー!!(不公平ダー)の無意識の爆発があるように思えます。

    定年になって、会社からの桎梏(しっこく)から解き放たれたあとも。この抑圧されたマグマが噴出します。その意味で「社会構造的」ですね。

    • 町田 より:

      >Sora さん、ようこそ
      戸隠のスキーを楽しまれたようですね。素敵なレポート拝読しました。

      レポートいただいた上司さんの件、私にも似たような体験があります。
      特に、尊敬もしていて、好意も抱いていた目上の人が、レストランのような公共の場で、そこの職員の些細な落ち度を大げさに叱責したりするのを見て、本当に悲しい気持ちになったことがあります。
      「何もそこまで威張らなくても …」
      という思いが募るので、そのあと、どんなにこちらに優しく振舞ってもらっても、どこか気持ちが離れてしまうような気分になります。

      確かに、目にあまるようなぞんざいな対応をする店員もいるんですよね。
      だけど、そのような店員がちょっと “ひとくせありそうな” 感じの人だと、弱そうな女の子には怒っている人でも案外おとなしくなって、その店員が去ってから、ボソボソっと不快そうな愚痴を垂らすだけ。
      それって、なんかカッコ悪い。弱い者だけに威張るみたいな。
      その人が過ごしてきた人生の軌跡が、そこに表れているようにも思いました。

      結局、男の真価は、仕事を辞めたときに問われるということでしょうか。
      日本のサラリーマンは、会社組織の中で 「男の真価を問われる」 ことはさんざん経験したのでしょうけれど、それが本物であるかどうかは、辞めたときにはっきりするということなのでしょうね。
       

  2. cbr929 より:

    この正月に娘が帰省した折にジョン・タウンゼント博士著「避けられない無視できない」副題に「身近な困った人たちへの対処法」という本をお母さんにと言って置いて行きました。

    定年退職から10ヶ月、カミさんの顔色をうかがって過ごしてきたつもりの結果がこの本かよと愕然としました。

    先月、母娘の旅行にでかけた際に母(カミさん)は父(私)の愚痴をずいぶんこぼしていたそうです。

    なんと!困ったおじさんは私自身でした。つまりこういう無自覚が困ったおじさんそのものなのですね。とほほ

    • 町田 より:

      >cbr 929さん、ようこそ
      それは、それは …。心中お察し申し上げます。
       
      実は、私も日々 「カミさんの顔色をうかがいながら過ごしている」 つもりなんですけど、やっぱり長年蓄積された不満 … というのか、鬱憤 (うっぷん) というのは、何かのきっかけで、突然、噴火した火山のように猛威をふるうことがありますね。
      そういうときは、まったく私自身が “困ったおじさん” であったことを悟ります。

      ジョン・タウンゼント博士の 『避けられない無視できない』 という著作は、はじめてここで教えて頂きましたけれど、(ちょっとネットで調べてみると) 家族間における意思のすれ違いとか反目をテーマの中心に据えているみたいですね。

      やはり、家族内のコミュニケーション不全というのは、世界的に共通したテーマなのでしょうね。
      そういう書籍が話題になり、“おじさん方” も読んでみたりして、少しずつ問題の所在をはっきりさせていけば、けっこう風通しのよい家庭が生まれるような気もします。
       

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