困ったおじさんたち

 
 日本全国に、なんとなく “困ったおじさん” が増えつつある気がする。
 自己の存在を誇示したがるおじさん、… といおうか、人にかまってほしいおじさんといおうか。
 要するに、人迷惑なおじさんだ。
 
 実は、今日電車に乗って帰宅するときのことだった。
 席に座って、本を読んでいたら、隣りの席に座っていた酒臭いおじさんが、いきなり前に立っている女の子をナンパしたのである。
 
 ナンパっていっちゃうと語弊があるのかな。
 ま、ちょっと割り引いていえば、要するに話しかけたのである。
 
 「それ、なかなかきれいだね」
 
 おじさんが声をかけたのは、「洋物雑貨の店員なんかやってます」 風の二十歳ぐらいの女の子。
 その女の子が手に持っていた携帯電話のストラップにインディアンの羽根飾りみたいなものが付いていて、どうやら、その羽根飾りに対する感想を述べたらしいのだ。
 
 いきなり声かけられた女性は、まったく無視するのも悪いと思ったのか、
 「あ、はい …… 」
 と、ほとんど消え入りそうな声で反応した。
 
 それで 「脈あり」 と踏んだのか、おじさん、
 
 「きれいだってことは良いことだね。そういうの自分のセンスで選ぶの?」
 「まぁ …… 」
 「ふぅ~ん。良いセンスだね」
 「 …… 」
 
 本を読み続けるふりをして、こっそりその成り行きを見守ることに。
 
 「僕はさぁ、美的センスがないから、自分じゃとっても、そんな飾りは選べないな」
  
 美的センスがない !
 そんなの、あんたを見りゃ分かるよ。
 
 「君は、手も可愛いね。いい手の形している。僕の手の半分くらいの大きさだね」
  
 ヤバイね、このおやじ。
 今にも手を前に伸ばして、女の子の手なんか握りそうだ。
 
 「きっと、お母さんがきれいな手をしているんだろうね。君はお母さん似なの?」
  
 おじさん、そりゃよけいなお世話じゃねぇか? 
 こっちはもう本の内容が頭に入らない。
 
 女の子が黙りこくって反応を示さなくなっても、おじさんは相変わらず話しかけるのをやめない。
 
 「手はね、心を表すの。君の心もきれいなんだね」
 
 ひぇぇ! どこからそういう言葉が生まれてくるの?
 とんでもねぇ、おじさんだな。
 
 そのあと、どうなるのか?
 さらにしつこくなりそうだったら、
 「少し静かにしたらどうでしょう」
 などと、たしなめた方がいいのかな … とも思ったが、さすがに女性の方が困り果てたらしく、次の駅で降りてしまった。
 
 おじさん、その後姿を食いつくような視線で追う。
 「逃したか … 」
 という、悔しさいっぱいの目つき。 
 
 彼はいったい何を試みたのだろう?
 
 人の心が乾ききった “東京砂漠” で、ほんの短い時間でも相手にうるおいを与えようという親切心を発揮したのか。  
 それとも、イタリアの男たちのように、「目の前にいる女性に声をかけないと失礼に当たる」 というような礼儀を見せたのか。
 
 謎だ!
 
 でも、これくらいだったら、まだカワイイ。
 もっとひどいのがある。
 
 もう昨年のことだけど、カミさんといっしょにケーキを買いにいったときのことだった。
 
 「店長を呼びなさい!」
 と、店のなかで怒鳴っているおじさんがいた。
 
 定年退職したばかりという感じの、品のいいおじさんなのだ。
 いかにも、普段は温厚そう … という顔つきの人で、まったくケンカ好きっていう様子は見えない。
 そういう人が、まなじりを吊り上げて、ガラスケース越しに、店の女の子を叱っている。
 
 「あんたのやったことは、世間では犯罪というのだよ。謝りなさい!」
 
 いったい何が起こったのか分からないのだけれど、とにかくおじさんの怒ること、怒ること。
 
 どうせ、お釣りを間違えたか、注文されたケーキを間違えたか、女の子がやったことなどタカが知れていると思うのだけれど、
 
 「あんたの態度が改まらないと、僕はこれから店の名前を実名で公表して、新聞に投書するから。それを避けたかったら、店長を出しなさい」
  
 ってな感じで、もう半べそになって、涙を流し始めた女の子をしつこく脅している。
 
 他の店員もおろおろしてしまって、皆で必死に頭を下げて謝っているのだけれど、どうやら、そういう光景を見るのがおじさんの趣味らしいのだ。
 
 「店長がいないのなら、店長に言っておきなさい。この子はクビだ。○○○ (←僕の住んでいる町の名) の恥さらしだ。こういう子を採用した経営者にも責任がある。今すぐ経営者に電話しなさい」
 
 おじさんの小言はとどまるところを知らない。


 
 あんまりしつこいので、
 「もういいじゃないですか。店の人も謝っているんだし」
 と、ついついそのおじさんに声をかけてしまった。
 
 「あんたは関係ないだろ。うるさい」
 
 おじさん、すっかり座った目つきのまま、こちらを振り向く。
 
 「関係あるね。客として、そういう怒鳴り声を聞いていると不愉快だね」
 こちらも語調が荒くなる。
 
 「あなたやめて。もうやめましょ」
 カミさんが必死に腕を引いて止めようとする。
 
 その様子を見て勢いを得たのか、おじさん、
 「私はこの店の子と話しているんだ。あんたの話を聞く必要はない」
 と、いよいよ挑発的になってくる。
 
 …… このヤロー。首根っこつかんで店の外に連れ出してやろうか。
 と思ったとき、ガラスケースの向こうから、少し年増の女の店員が出てきて、平謝りに謝りながら、大きな袋を渡したのだ。
 
 たぶん、その中にはお菓子でもいっぱい入っているんだろう。
 それで、怒りをしずめてください、という気持ちらしい。
 
 そこで、おじさん、どう出たのか。
 
 さも当然という顔で、袋をしっかり受け取りながら、
 「経営者に電話しなさい! こういう恥知らずの子を採用する責任っていうのは、経営者にあるはずだ。その人に出てきてもらって、ここで謝らせなさい」
 
 こりゃダメだ、と思った。
 常軌を逸している。
 引け際というものを知らない。
 
 店の人がかわいそうだったが、こちらはケーキを買って、さっさと店を出た。
 
 なんだか、こんな感じのおじさんが増えた。
 もちろん、こういうおじさんたちの数十倍ぐらい、常識をわきまえた気持ちのいいおじさんがいることは分かっている。
 しかし、「高齢化社会」 というのは、良いおじさんが増えると同時に、困ったおじさんも増えることだ。
 
 困ったおじさんは、人を “困らせる” だけあって、人が寄り付かない。
  
 きっと、さびしいんだろうな。
 
 定年退職して、かまってもらえる人間が周りから消えた。
 会社を辞めしまうと、自分の地位も業績も認めてもらう機会がない。
 家に帰ると、女房は機嫌が悪い。
 自分の立場を支えてくれるものが何もない。
 
 たぶん、そんなところか。
 唯一、人とつながるときが、人に文句を言うときだけだったりして。
 
 でも、相手が嫌がるところでしか自己を確認できないなんて、悲しいな。
 そんなおじさんには成りたくないけど、でも、俺だって、将来は分からねぇよな。 
   
 
関連記事 「困ったおじさんはなぜ生まれたのか」
 
 

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困ったおじさんたち への10件のコメント

  1. yukke-chan より:

    はじめまして。
    こんにちは。
    こういうおじさんよくいますよね(前者も後者も)
    私は以前デパートで紳士服の販売員をしていましたので、「お金だけある困ったおじさん」によく困らせられました。
    すごくさみしいから必要以上に話をしてくる、更に相手にしてほしいから?怒り出す、みたいな・・・
    私も「困ったオバサン」にならないように気をつけようと思いました。

    • 町田 より:

      >yukke-chan さん、ようこそ
      こちらこそ、はじめまして。
      同じホビダスの仲間からコメントをいただき、うれしいです。

      “困ったおじさん” の話ですけど、おっしゃるように基本には 「さびしさ」 があるんでしょうね。
      よく聞く話ですけど、大きな会社や役所で、お茶くみでもコピー取りでも、部下になんでもやってもらうことに慣れてしまった人ほど、周りに世話をしてくれる人がなくなると、さびしさを感じることが多いとか。

      知り合いでも、大企業で出世してしまった人の中には、会社を辞めると、 「最近の若い女の子は困ったものだ」 風の愚痴をよくこぼしている人がいます。
      そこには、「自分はもう誰にも認めてもらえない」 というさびしさがあるようです。

      もっとも人によってさまざまで、定年退職してすることがなくなっても、町内会の集まりなんかに顔を出して楽しそうにやっている人もいるし、居酒屋の常連みたいになって、仲間とワイワイやっている人もいます。
      そういう人は、けっこう腰が低いですね。
       

      • yukke-chan より:

        町田さん返信ありがとうございます。
        オバサンが車内で若い人にしつこく話しかけたり、お店で大きな声でクレームつけたりしてるのはよく見かける風景なのに、周りはそんなオバサンは当たり前と思ってる、というか困ったオジサンのほうが目立ってしまうというか・・・
        次の記事で書かれてたように、男女の差は大きいのかもしれませんね。
        女性は、結婚によって新しい土地や環境に馴染まなければいけない経験をする、男性は生まれ育ってきた地で一生を過ごす、といった環境も関係するのでしょうかね。(田舎の場合ですが)
        とにかく定年後も夫婦仲良くしていたいなぁ、と思います。
        また遊びにきますね。

        • 町田 より:

          >yukke-chan さん、ようこそ
          確かに、“困ったオバサン” もいるのかもしれませんね。
          しかし、あんまり気にならないのは、おっしゃるように、オバサンの場合は 「当たり前」 だからかもしれませんね。
          それと、オバサンは、そういう振る舞いが 「自然に出ている」 ということなのでしょうか。余裕の問題かもしれません。
          それに比べると、おじさんは、なんだか 「切羽つまった」 感じがするように思います。
          だから、周りの人も、その不自然な緊張感が伝わってきて、イライラしてしまうのかもしれません。

          定年後も、仲のいい夫婦の関係を保っていれば、お互いに、外でイライラしないような気もします。同感です。
           

  2. katsuo より:

    こんにちは。「町田の独り言」ファンです。

    今日たまたま環八ですれ違った、デカールの印象深いキャンピングカーをうろ覚えでググったら、こんな方でした。失礼ながらまったく存知上げないタレントさん(作家さん?)でしたが記事を読んで「おじさんも頑張ってるなぁ・・」と思っていたところ、丁度このブログでおじさん談義発見!ということで、脈絡はないのですがご照会したく思い、投稿させていただきました。(ちなみに私も今年で年齢が半世紀経過します。歳相応とは?などいろいろ考えるようになってきました。)
    http://korinaigenki.com/campaign.html
    http://ameblo.jp/korinaigenki/page-2.html#main

    • 町田 より:

      >Katsuo さん、ようこそ
      ごめんなさい!
      このコメントは、なぜか 「未承認コメント」 の方に入っていて、見落としていました。
      たぶん、こちらのキーボード上の操作ミスではないかと思います。申し訳ありませんでした。

      で、ご紹介いただいた大倉百人 (おおくら・もんど) さんのHPに飛んでみました。
      いいですねぇ! この人の歌。
      いいものをご紹介いただきました。

      私は、 “真性団塊世代” のちょっと下の年齢で、気分的には、もろ団塊世代そのものです。
      だから、今の若い人たちからの “突き上げ ?” も真摯に受け止めて、なんとか自分の生きてきた軌跡を、一度は相対化しなければならないとアセっているところです。

      そのため、同じ団塊世代に対して、ときに辛口な物言いになってしまうこともあるのですが、この大倉さんみたいな、「懲りない」 キャラクターのオヤジも好きです。

      特に、この人の歌の感じ、なつかしい!
      この方が歌う70年代~80年代和製ポップス&フォーク (J POP じゃなくて!) のテイストって、やっぱ自分の音楽体験の原点のひとつを構成している気もします。

      この方の YOU TUBE けっこう楽しく聞きました。
      ありがとうございました。
       

  3. 北斗 より:

    インテリ系困ったおっさんですね?
    うちの方はガラの悪いのが多いので、不良系じじぃが目につきます。

    先日、2車線のバイパスを走行していたら、なんか前が詰まっていて、先の方でおっさんがチャリで蛇行走行していました。

    駅前広場では、不良系じじぃとトッテモ危なそうなばあさんが芝生に座り込んで、ワンカップで酒盛り。それを見ていた若いツッパリがどん引きしていました(笑)

    いまどきのおとなは、マジヤバイです!

    で、人生を捨てた人って、ホントにテキトーかつ怖いですねー。私も気をつけております、ハイ

    • 町田 より:

      >北斗さん、ようこそ
      >「不良系のじじぃ」 ですか。それも困ったものですね。

      確かに、ときどき傍若無人な感じの老人って、いますよね。満員電車の中で、自分の方から肩をぶつけてきても、「お前、なんでぶつかるんだ?」 という感じでにらむような老人とか。
      お互い様なんですけど、 「非があるのはあくまでも相手方だ」 と信じて疑わないような人。
      昔の老人は、そんなことはなかったように思うんですけどね。

      ま、このへんは何度もいうように、すべての人がそういうわけでもないようにも思います。あくまでも “一部の人” なんですけど。
      でも、 “困ったおじさん” が少しずつ目立ってきたという印象は、確かに持ちますね。
       

  4. より:

    どのジャンルの仕事の方もおっしゃるんですけど、接客業をしていて一番タチが悪いのは年配男性なんですよね。
    年配女性もマナーの悪い人は多いですが、こちらが理論的にお話すると多少は落ち着いて納得してくれることが多いのです。おじさま方は一度わめきだすと自分に100%非があることでも認められず、ずっと興奮状態です。

    町田様の言うとおり「もっと俺を認めろ、ひれ伏せ、ちやほやしろ」という気持ちの強いんですよね。一番プライドが高い世代です。
    でも本心は若い女の子にかまってほしいだけなんですよ。
    困ったもんですね。

    • 町田 より:

      >寅さん、ようこそ
      ああ、分かります! 
      この記事を書いて以降も、“困ったおじさん” たちをよく見かけますもの。

      この前、病院の会計窓口で、「オレは患者なんだぞ! あんた方は、病人をいたわる気持ちというものがないのか?」 と、めいっぱい元気に怒鳴り散らしているおじさんを見かけたし … 。

      >> 「本当は、若い女の子にかまってほしい」
      それって、おおいにありそうですね。
       

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