絶望の国の幸福な若者たち

 
 最近注目されている本の一つに、26歳の社会学者が書いた 『絶望の国の幸福な若者たち』 という本があるらしい。


 
 で、実際、今朝、通勤駅構内の書店を通りすがりに見たら、新刊書コーナーの一番上の棚を右から左まで、ずらりと同書の表紙が一列に並べられていた。
 
 それだけ、書店では売れる本だと判断したのだろうし、実際お客の反応もいいのだろう。
 確かに、いろいろなところで書評を目にする機会が多い本である。
 
 なにしろ、非正規雇用や就職氷河期、世代間格差などという不況がもたらす被害をもっとも被っているのが今の若い世代である、という先入観が上の世代の頭から離れない。
 そういう認識から、今の若者たちを 「絶望世代」 などと呼ぶメディアも出てくる。
 
 その悲惨のきわみに立たされているはずの “若者” が、「自分たちは幸せだ」 というのだから、上の世代にとっては何が起こっているのか当然知りたくなるはずだ。
 特に、各メディアの書評欄を担当している人間たちは、みな “若者” をとっくに卒業した世代だろうから、よけい今の若者たちに対する興味や好奇心が募るのだろう。
 
 で、この本を書いた著者の古市憲寿さんは、ある雑誌のインタビューにこう答えている。
 「いまの若者の 『幸せ』 は、高度成長期のように、郊外に一軒家を建てて家庭をつくることでもなければ、バブル時代のようにブランド品をたくさん買い集めることでもない。将来が不透明で読めないからこそ、いまここにいる自分たちの周りを大事にする。そういう意味での 『幸せ』 なのです」
 
 実際に、若者の 「幸福度」 は近年上昇しているらしい。
 たとえば内閣府の 「国民生活に関する世論調査」 によれば、2010年の時点で、20代の70・5%の若者が 「現在の生活に満足している」 と答えているらしく、若者としての生活満足度や幸福感は、ここ40年間の中で一番高いというのだ。
 
 もちろんこのことは、若者たちが 「時代の痛み」 を感じない鈍感な神経の持ち主であることを意味しているわけではない。
 逆である。
 冷え切った時代の風を浴び、絶望に満ちた視線で風景を眺め、それでも、そこから浮かび上がってくる 「幸せ」 を探そうというのが、彼らの決意なのだ。
 
 それが、仲間や家族との「絆」であり、あるいは、見知らぬ人の間に生まれる「縁」である。
 
 内閣府経済総合研究所では、今回の大震災によって、若者の意識が変化したかどうかも調べたらしい。
 それによると、約 6割の若者が、「人生観や価値感変わった」 と答えたという。
 想像を絶する災害の被害を受けたことによって、今まで以上に、他者とつながることの大切さを実感した人たちが多かったとも。

 たぶん、「幸せ」 とは、自己完結しないものなのだ。
 誰かと共有することによって、はじめて実感できるもの。
 そのことに今の若者たちは感づいているらしい。
 
 巷 (ちまた) では、相変わらず 「他人を出し抜いてサクセスを手に入れる」 ことを “勝者の条件” とみなす風潮がはびこっているけれど、そういう発想は、とっくに今の若者たちに追い抜かれてしまっているのかもしれない。
 
 
 関連記事 「『絶望世代』 って何?」
 
 関連記事 「童貞文化が時代を動かす」
 
 関連記事 「団塊~バブル世代の反省期」
 
 

カテゴリー: 映画&本   パーマリンク

絶望の国の幸福な若者たち への2件のコメント

  1. 林 孝信 より:

    成功して勝ち組になるということは、反面誰かを蹴落とすことであると気づいているのだと思います。
    勝ち組、負け組なんて言葉を作って尻を叩こうとした老人達の心情なんてとっくに見通していたのでしょう。

    かといって向上心が無いなんてことは決して無く、ただ経済的に豊かであることがイコール幸せではないと気づいたのであれば、それは良いことだと思います。
    いくらお金を持っていても、精神的に満たされなければそれは幸せではありません。

    だれかが、2011以降は精神の時代になると言っていましたが(もしくはそれに近いこと)、正しくその通りになっていると思います。

    • 町田 より:

      >林 孝信 さん、ようこそ
      そうですね。
      「勝ち組」 「負け組」 という言葉も、やがて耳にしなくなるような気もします。やっぱり、 “冗談” として使っても、ギスギスした感じで、そこにはユーモアもないし、貧しい響きがありますよね。
       
      いろんな分野で格差というものが、これから広がっていくのは確かでしょうけれど、経済的・身分的格差ばかりが強調されすぎてきたのが、現在の状況じゃないでしょうか。
      心の豊かさとか、貧しさとか、そういう分野の格差というのもあるような気もします。
      今の若い人たちの中には、そのことに気づいて、心の豊かさを求める人たちが増えているように思います。
       

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong> <img localsrc="" alt="">