ジョン・レノン 『イマジン』 の予言

 1971年。
 ジョン・レノンは、『イマジン』 において、
 「この世には国家などないのだ。そう想像してごらん」
 と歌った。

 「天国も地獄もなく、宗教もない。世界はひとつ」

 その歌から40年。
 地球は、今、この歌のような世界になりつつある。
 
 
 
 『イマジン』 は、国家や宗教を超えて、人類が一つにまとまるという平和の “理想郷” を歌ったものだが、それを実現したのは、この歌に託された 「人間の想像力 (イマジン) 」 ではなく、グローバリゼーションと呼ばれる金融を軸とした資本主義の運動であった。
 
 この歌が誕生した1970年代。
 「国家」 を超えようとする “何か” が地球上に広がり始めていた。
 「世界市場」 である。
 
 『イマジン』 が誕生した時代というのは、欧米先進国や日本における自動車や電気製品などの耐久消費財が自国内の市場で飽和状態を迎え、それぞれ輸出に活路を求めなければならない時代の始まりでもあった。
 
 そして、80年代の終りになると、冷戦構造が崩壊して、ソ連をはじめとする社会主義国も、市場経済への進出を図るようになった。
 経済は、ますますそれぞれの国の中だけでは完結しなくなり、市場はさらに国境を超えて拡大していく。
 さまざまな多国籍企業や国際的ファンドが生まれ、それが国家を超えて、世界の経済を牛耳るようになる。
 
 このような世界市場を背景に、金融工学が発達し、またたく間に多額の利益を得ることができる金融市場が経済の中核に踊り出る。
 
 しかし、統計データを基に高度な数学的技法を用いて解析が行われているように思われる金融市場は、一見科学的合理性に支配されているように見えながら、自然科学のような実験による検証ができない。
 理論や政策の有効性について、誰も検証ができないままに、一人歩きを開始する。
 
 リーマン・ショックも、現在のギリシャ危機に始まるヨーロッパの財政危機も、このコントロールが失われたグローバルな金融市場がもたらした構造的な問題であり、それは単一国家の経営手腕の稚拙さなどには還元できないものといわねばならない。
 
 もはや、異国の政変や国債の暴落、自然災害などと無関係に国家運営を推進できる国などどこにもない。
 ジョン・レノンの 『イマジン』 は、作者の意図とは異なる形で、この 「国家を超える世界」 の出現を予言していたというべきかもしれない。
 
 『イマジン』 では、「宗教を超えて世界が一つになる」 というヴィジョンも歌われている。
 その予言も当たった。
 けっして、ジョン・レノンが夢想したように、「宗教」 そのものが地上から姿を消したわけではなかったが、現在は 「宗教」 もまた 「国家」 を超えるものとしての力を持つようになった。
 
 グローバル経済は、地球上のあらゆる民族的・文化的差異を押しつぶすような形で浸透していく。
 しかし、それは人間から 「心の拠り所」 となるようなものを奪うことにつながる。
 
 イスラム原理主義やキリスト教原理主義は、まさにグローバリゼーションに対するカウンターパワーとして、「国家」 を超える “普遍概念” への希求から生まれてきたともいえるのだ。
 
 だから、宗教原理主義は過激になる。
 それは、世界を覆うグローバリゼーションへの対抗だから、同じようにグローバル化を目指す。
 宗教原理主義が、他宗教や他宗派に対して非寛容にならざるを得ないのは、それぞれがみな自分の宗派を “普遍宗教” だと信じ込むからである。

 かくして、イラクのスンニ派とシーア派のように、それぞれの宗派が 「国家」 の統制を離れて、一人歩きを始める。
 
 「人類はみな兄弟となって世界を分かち合う」 と歌われる 『イマジン』 は、グローバリゼーションと宗教原理主義のどちらにとっても、 “理想郷” のシンボルとなる。

 それは、ジョン・レノンが望んだものではないだろう。
 しかし、世界の未来を幻視できる預言者は、その本人の意図とは別に、図らずとも人類の未来を見通してしまうものかもしれない。
 
 われわれは、ジョンの予言どおり、「国家なきあとの世界」 を見守ることを強いられている。
 
 
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