映画 『山本五十六』

 
 映画 『山本五十六』 を観てきた。
 カミさんの好みでいえば 『ミッション・インポッシブル/ゴースト・プロトコル』 みたいな、見終わってスカッとする映画の方が良かったんだろうけれど、そっちの方は若者で混んでいるだろうという気もした。
 それに比べると、 『山本五十六』 の観客は比較的年齢層が高そうで、夜の部まで詰めかけている中高年はそう多くないだろうと判断して、こっちを選んだ。

 案の定、夕方からの回は、六分ほどの入り。
 思った通り、観客は圧倒的に中高年が多い。
 若いカップルの姿も見えたが、年齢でいえば、せいぜい30代ぐらいまでという感じだ。

 山本五十六という軍人が、どういう人なのか。やっぱり今の人たちにはピンと来ないのかもしれない。
 みんな 「ヤマモト・ゴジューロク」 とか発音しているらしいし。

 太平洋戦争時代の連合艦隊の話は、KOEIの 『提督の決断』 シリーズに凝っていた時期があったので、自分はだいたい頭の中に入っている。
 『提督の決断』 は、いかにもKOEIらしいマニアックな面白さが満載されていたゲームだったが、情報量が多すぎて、ゲームを自在にコントロールするまでにそうとう時間がかかる。
 あれも、睡眠時間を削り取られてしまうゲームだった。

 えと …… 。脱線はやめて、映画 『山本五十六』 について。

 山本五十六は、対米戦にものすごく反対していた軍人として知られる。
 そして、大艦巨砲主義からいちはやく脱して、艦載機による攻撃力を重視した新しい戦略家としても名高い。

 しかし、本当の山本五十六が、それほど開明的な戦略家であったのかどうかは、実は諸説ある。
 軍略家としての見通しの不徹底さを指摘する声もかなりある。
 実際、前線視察のために、わずかな護衛機だけで飛び立ち、ブーゲンビル島上空でアメリカ軍に撃墜されてしまうという失態を犯すなどは、暗号が敵方に読まれていたにせよ、やはり脇の甘いところがあったというべきだろう。 

 しかし、実際の山本五十六がどのような軍人であったにせよ、映画の方は 「日独伊 3国同盟や対米戦に反対しながら、自分の志とは異なる命令を全うし、しかも早期講和にこだわっていた」 という五十六の開明性に絞り込んだ解りやすい人物造形を試みていた。 

 そして、それは映画を観る限りは伝わってくる。
 同情的にいえば、「開戦直後から撤退戦を意識していた軍人」 ということになるだろう。
  
 戦争でいちばん難しいのは、撤退戦である。
 勝つ見込みのない戦いに臨みながら、いかに損害を少なくし、決定的な敗北をまぬがれるような講和にまで持ち込めるか。
 撤退戦を指揮する司令官には、戦闘指揮以上に、そのような高度な政治的判断も要求される。

 それを開戦前から自分のテーマとして引き受けた人間の悲劇というのが、この映画の主題といえそうだ。
 真珠湾攻撃よりも、日本軍の戦略的誤謬が明確に表れてしまったミッドウェー海戦の方を丹念に描いているというところも、山本五十六の立場的な悲劇性を強調する。

 ちょうどNHKのドラマの 『坂の上の雲』 では日本海海戦を描いていたが、同じ連合艦隊の司令官として、東郷平八郎と山本五十六では、どちらが優秀であったかなどということは比較できない。

 時代も状況も違う。
 日露戦のときは航空機がなかった。
 艦船も石炭をエネルギーとしていた。

 太平洋戦争は、石油の時代の戦争である。
 石炭は国内でまかなえても、石油は産油国から調達するしかない。
 供給網を確保するには、防衛ラインを日本からはるか離れた南洋まで拡大する必要がある。
 日本の当時の国力からすれば、どだい無理な戦争であった。

 映画は、その “無理な戦争” を当時のメディア (新聞) が煽り、それに乗った国民たちの熱狂によって、開戦を支持する世論が生まれたことも伝える。
 そして、戦意高揚を煽ったメディアが、手のひらを返すように、戦後いちはやく 「自由と民主主義」 を謳うようになっていく無節操さにも触れていく。

 ただ、いかにもその描き方が教科書的だな … とも思った。
 山本五十六の先見性と悲劇性を強調せんがために、誇張の度合いが目立つ。
 ま、彼が主人公の映画なのだから仕方がないのだけど。

 映画としての出来栄えを評価するならば、パールハーバーの奇襲をアメリカ側と日本側の両方から描いたアメリカ映画の 『トラ・トラ・トラ!』 (1970年) の方がやはり上。
 『トラ・トラ・トラ!』 はDVDも買って何度も見たけれど、たぶんこの映画は、映画館で見たのが最後になりそうだ。
 それでも、2001年に公開されたアメリカの “メロドラマ戦記映画” 『パールハーバー』 などよりは、はるかにいい。
 
 

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