70年代スイートソウル

 
 就職する前、黒人音楽の解説などを書きながら、ソウル・ミュージックの流れる喫茶店をやりたい … という漠然とした夢を持っていたくらいだから、けっこうソウル系の新譜を集めていた時期がある。


 
 1970年代が始まった頃だ。
 卒業はしたが、すぐには就職もせず、夜はレストランとスナックでアルバイトをして、昼は、ラジオを聞きながら、音楽雑誌の読者投稿欄などに、せっせと手紙を書いていた。
 
 音楽情報を入手するのは、まず FEN 。
 次が、福生ベース近くの黒人バー。
 
 当時、音源といえばレコードだけだったので、音楽情報を集めても、入手困難なものもあった。
 輸入盤も、日本マーケットで売れるもの以外は、そんなに出まわっていなかった。
 
 特に FEN などでは、聞いたこともないようなアーチストの曲がかかると、その固有名を聞き取るだけでもけっこう苦労した。
 とりあえず、ラジオからテープに落とし、それを繰り返し聞くことで、曲名やアーチスト名を覚えた。
 
 だから、この時期に聞いた音楽には思い入れがある。
 その後、いろいろな音楽を聞いても、結局この頃に聞いた「音」との比較対照で聞くクセがついていた。
 
 その後 J ポップを聞いても、洋楽を聞いても、基本的に、昔聞いた「音」に近いものには評価が甘くなる。
 そうでないと、あまり関心がわかない。
 
 それが良いことなのかどうか、よく分からない。
 ある意味、イマドキの音楽に対する「許容量」が狭まったといえるのかもしれない。
 
 でも、今はいい時代だ。
 YOU TUBE のおかげで、当時は入手困難に思えたようなアルバムでも、今は丹念に探せば、音源や映像に接する可能性が増えた。
 
 最近、昔追いかけていた “幻の曲” をYOU TUBE で拾うことが多くなった。
 中には、アーチスト名と曲名が、今になって、ようやく分かったものもある。
 
 今回は、そのような、ようやくアーチスト名が分かったような曲と、当時の自分のお気に入りだった曲も混ぜて、ごくごく私的なページを作ってみた。


 
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 最初に紹介したいのは、ジ・イントルーダースの『トゥギャザー』。

▼ The Intruders「Togethir」

 
 甘くて華麗なストリングスと、まろやかなハーモニーを主体とするフィラデルフィア系ソウルコーラスグループの特徴を持った曲だが、同じフィリー系のコーラスグループであるスタイリスティックスなどに比べると、ちょっとだけ、サウンド的に野暮なところがある (歌い手の力量はすごい !) 。
 
 1967年という時代のせいもあるかもしれないが、70年代に精緻を極めた “フィリーサウンド” が生まれる「一歩手前の音」という感じ。
 しかし、その野暮さが、逆にエキゾチシズムを醸し出しているから、音楽というものは面白い。
 むしろ、洗練されすぎたスタイリスティックスやオージェイズ、ハロルド・メルヴィン&ブルーノーツなどにはない “チープなゴージャズ感 (?)” …この感じ、分かるかなぁ …… があって、初恋を経験した時のような、甘酸っぱい官能が体を走る。
 この曲は、私自身が最も “ソウル・バラード” を感じる「音」のひとつ。
 野卑な部分と、洗練された部分のバランスがサイコー!


 
 これをもっと洗練させたのが、1981年にLAのラテンソウル・バンドであるティーラ(Tierra)がカバーした同曲。
 イントルーダースのオリジナルより、むしろこっちの方がヒットしたかもしれない。
 ティーラ版には、スパニッシュバージョンなどもあって、よりエキゾチックなラテンバラードになっている。(参考までに → http://youtu.be/OolMoCV7r7E)
 
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 最近になって、ようやく、昔探していた「幻の曲」にめぐり会えたと思ったのが、このウィンストンズの『カラー・ヒム・ファーザー』(1969年)。
 

▼ The Winstons「Color Him Father」

 実は、マーヴィン・ゲイの『ホワッツ・ゴーイング・オン』やオージェイズの『裏切り者のテーマ』などよりも先にこの曲を知ったのだが、ラジオを途中から聞いたもので、曲名も歌手名も、当時はまったく分からなかった。
 
 しかし、この曲が、私が「ソウルってカッコいい!」と思った最初の曲。
 
 軽快なベースに、洒落たストリングスが絡み、要所要所を小粋なホーンがアクセントを付けるという、この時代のソウル・ミュージックの王道を行くパターン。
 これが、当時行き詰まりを見せていたロックよりも、はるかに刺激的に聞こえたものだった。
 

 このレコードは、当時100万枚以上の売上を記録し、ゴールドレコード対象を受賞したとか。
 しかし、その後は FEN でもあまりかからなかった。
 私が FEN を聞くようになったときと、ヒットしたときのタイムラグがあったのかもしれない。
 日本ではほとんどヒットしなかったので、私も含め、この曲とアーチストに対する情報を持っている人は少ないと思う。
   
 やっぱ、こういうふうに改めて聞いてみると、黒人ヴォーカルの「声質」ってのに、自分は惹かれてきたんだな … という気もする。
 このハスキーで、しょっぱい声質が、甘いストリングスにビターな “コク” を加え、それによって、甘さと苦さが調和したサウンドが生まれる。この味わいは、白人の歌からは生まれない。
 
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 いい曲は、イントロで決まる。
 … という例を、ソウル・ミュージックの中から取り出すとしたら、この1曲。
 チャカ・カーンの『スイート・シング』

Chaka Khan「Sweet Thing」

 彼女がまだルーファスに在籍していた1975年の作品で、彼らの残した曲の中でも最大のヒット曲となった。
 だから、FEM でも日本のFMでもよくかかったし、レコードを手に入れることも簡単だった。
 
 最初に聞いたとき、イントロの素晴らしさに一発でまいった。
 夏のプールサイドに舞う風のように、渦を巻いて足元に絡みつくようなギター。
 ひんやりとした冷気を含みながら、ねっとりと粘りつくチャカの歌い出し。
 
 柔と剛。
 ねばる強さと、突っ放す爽やかさ。
 相反する二つのモーメントが、1曲のなかで両立するという奇蹟。
 「ソウル・ミュージックの力って、すごいなぁ」 と感嘆した曲であった。

 この曲の何に惹かれるかというと、それはヘビが「とぐろ巻く」ような、うねりを持ったリズムだ。
 「たゆたうような…」というか「ふわっと浮遊する」感覚。
 ヒップホップも含め、今のポピュラーミュージックに欠けているのは、それだという気がする。
 このようなグルーブ感は、この時代特有のものだ。
 (個人的な感慨ではなはだ恐縮だが、)私はいい時代に生まれた。
 
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 最後に、日本人の手になる日本語のソウルをご紹介したい。
 これは、本当に70年代ソウルの好きな人に、「ぜひ聞いてほしい」と思う曲だ。
 バブルガム・ブラザーズのブラザー・トムがソロをとる『うちひしがれても』
 
 バブルガム・ブラザーズとして、ブラザー・コーンとのデュオを組んでいるときのブラザー・トムは、かなり意識的に、日本人向けの営業路線を進めていたと思う。
 大ヒットした『ウォント・ビー・ロング』も、『ジャスト・ビガン』も、ソウルっぽい曲想を持ちながら、いうなれば “歌謡ソウル” である。
 どこかで、演歌が顔を出す。
 でも彼らは、それが日本で受けることを知っていたはずだ。
 
 私は、最初、そのことを 「どうしようにもできない日本人の血」 だと解釈していた。
 キャロルもそうであったが、あれほどオリジナルをしのぐカバーをこなしながら、オリジナルになると歌謡曲になってしまうのは、「日本人の血」であると思っていた。
 
 しかし、ブラザー・トムの場合、「歌謡ソウル」はきわめて彼らの戦略的な路線であったことを少し後で知った。
 彼は、1993年に『手のひらがまだ小さかった頃、俺たちも神様だった』というソロアルバムを出す。
 これは、思わず背筋を正すほど、彼のソウル・ミュージックへの熱いリスペクトがこもった本格的な “J ソウル” であった。


 
 その萌芽となるのが、この 『BORN TO BE FUNKY(ファンキーで行こう ! ) 』(1990年)に収録されている『うちひしがれても』。
 ここには、歌詞が日本語であるということを除けば、まぎれもない70年代ソウル・バラードのエッセンスが凝縮している。
 私の聞く限り、これ以上の和製ソウル・バラードを他に知らない。
 
ブラザー・トム (バブルガム・ブラザーズ)「うちひしがれても」(1990年)
   
 私は、この曲を、本場の70年代ソウルをやっていたアメリカ人に聞かせたい。
 これは、まぎれもなく、私がさんざん FEN で聞いた本場もんのソウル・バラードだ。
 
 唯一の難点があるとしたら、曲の中に、プッシュホーンを「ピッピッピ」と鳴らす効果音が入ること。
 邪魔!
 
 だけど、それ以外は完璧だ。
 ストリングスの盛り上げ方、ホーンのアクセントのつけ方。
 そして、ファルセット気味にハイトーンで歌いあげていくブラザー・トムの、気持ちのこもったヴォーカル。
 
 何度聞いても、胸がときめく。
 飽きることがない。
 
 この動画を UP した人に、スタンディングオベーション!
 
 
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70年代スイートソウル への2件のコメント

  1. 木挽町 より:

    このエントリーも保存モノです。貴重です。ありがとうございます。Together。いいですよね。ちょいと派手目に飾った感じのTierraのほうも好きです。

    • 町田 より:

      >木挽町さん、ようこそ
      やはり、『Together』お好き !?
      話しが合いそうですねぇ、ほんとうに。
      Tierra版の方は、確かに派手目に飾った雰囲気がありますが、その分甘さも濃くなっていて、一人酒など飲みながら、昔惚れた女なんかを思い出すときには、いいかもね。

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