飾りじゃないのよ涙は

 
J ポップ・クリティーク 13  飾りじゃないのよ涙は
 
 こんばんわ。
 ディスクジョッキー町田がお送りする J ポップ・クリティークの時間がやってまいりました。
 さて、今日は、1984年に中森明菜さんがヒットさせた 『飾りじゃないのよ涙は』 を取り上げてみようと思います。
 
 1984年。
 もう27年ぐらい前ということになるんでしょうか。
 だから、この歌を青春時代に聞いていた人たちってのは、もう40歳から50歳ぐらいということになるんでしょうかね。
 月日の経つのは、実に早いものであります。
 
▼ 中森明菜
 
 
 しかしながら、この曲はですねぇ、J ポップ史の中でも、ひとつのエポックメーキング的な作品して、永遠に残る曲になっているかと思います。
 この歌がヒットした頃、私もまだ30代でしたけど、最初に聞いたときの衝撃は、今でも生々しく身体の中に刻まれているという感じがしますです。はい。
 
 ええ、何が衝撃的だったか。
 まず、タイトルが凄いですね。
 「飾りじゃないのよ涙は」
 
 ね! すてばち…っていうか、開き直りっていうのか。
 つまり、男に対しても、社会に対しても、 「負けちゃいけない」 と壮絶に生きている女の子の “魂のツッパリ” って気配が伝わってきますよね。
 
 『少女A』 という、これまた非行少女をイメージさせるような挑戦的なタイトルの曲でブレイクした中森明菜のイメージを決定づけたのが、この 『飾りじゃないのよ涙は』 であったように思います。
 
▼ 「少女A」
 
 
 ま、とにかく聞いてみましょう。
 お話は、その後で。
 
▼ 『飾りじゃないのよ涙は』 from youtube

 いかがでしたか?

 歌の背景となっている情景がぷつぷつと泡立ってくるような、まぁイメージ喚起力の強い歌であったように思います。
 
 歌い出しは、 「私は泣いたことがない」 であります。
 そして、この歌の主人公は、
 灯の消えた街角で 速い車にのっけられたり、
 冷たい夜のまんなかで いろいろな人とすれ違ったり、
 友達が変わるたび 思い出ばかりが増えたり … するわけですけど、それは 「泣いた」 のとは違うと思うわけですね。
 
 そして、自分は 「ほんとの恋をしていない」 と悟るわけです。
 
 では、本当の恋とは何でしょう?
 
 もちろん、それが何であるかは、この歌詞には描かれておりません。
 しかしながら、本当の恋をする 「自分」 と、今の空漠とした思いに沈んでいる 「自分」 との距離感だけはビンビンと伝わってきます。
 
 ここには、地方都市のコンビニを唯一のたまり場として、長く退屈な夜をもてあましながら、身の凍るような寂しさに耐えている少女の姿が浮かんできます。
 さらに、ゆきづりの男たちとの火遊びをいっぱい経験しながら、それには決して癒されることのないヒロインの虚無的な孤独感も伝わってきます。
 
 作詞・作曲は井上陽水さん。
 いやぁ、さすがにすごい表現力ですねぇ!
 たぶんですねぇ、中森明菜の持っている、少女なのに 「大人の暗さ」 を知ってしまったような表情と雰囲気が、曲を作る井上さんにインスピレーションを与えたんでしょうね。
 
 で、この曲を語るときに欠かせないのが、松田聖子さんという、明菜さんのライバルの存在ですね。
 
 実は、この曲、松田聖子的な世界に対する “全面戦争” だったんですね。
 
 どういうことか。
 
 この当時、松田聖子は、80年代 J ポップシーンの代表的アイドルでした。
 彼女の歌は、80年代ポップスの甘くてファンシーで、夢のように華やかな世界を全面開花させたものだったんですねぇ。
 
▼松田聖子
 
 
 なんといっても、松田聖子のバックについたスタッフたちがすごい。
 曲はユーミンこと松任谷由実さん。詞は松本隆さん。日本のJ ポップシーンを代表する “三松” が結集したんですね。
 
 ユーミンという人は、なにしろ、自分の音楽を “中産階級サウンド”、“有閑階級サウンド” と命名したくらいの人ですから、もう徹底してセレブ志向です。
 つまり、それまでの “四畳半フォーク” といわれた土俗的な歌を完全否定することによって、自分の世界を築いてきた人なんですね。
 
 一方の歌詞を担当した松本隆も、はっぴいえんど時代から洋楽のセンスを取り入れた日本語ロックを目指してきた人ですから、まぁ、これもあか抜けた歌詞をつくります。
 
 従って、この二人が松田聖子に歌わせる歌というのは、どこか架空のリゾート地を舞台にしたような、お金に困らない中産階級の若者たちの恋を描いた歌だったんですね。
 それが、ちょうどバブル期の日本をぴったり表現した曲になっていたことは否定することができません。
 
 で、そのシャボン玉のようにふわっと浮かぶ、甘く切ない夢の世界を、またなんと松田聖子がうまく歌ったことか。
 引っ込み思案で、オクテで、ただ夢見るだけの少女。
 だけど、内実は、男の子を意のままに手玉に取るしたたかな少女。
 それが、松田聖子の歌のヒロインだったわけですね。
 
 それに真っ向から挑んだのが、心の血を流しながらも、ひたすらにピュアな愛を求めて傷つく 『飾りじゃないのよ涙は』 の少女だったんですね。
 
 歌詞にも仕掛けがあります。
 松田聖子の代表的なヒット曲に 『瞳はダイヤモンド』 があるんですが、その最後の歌詞は、 「涙はダイヤモンド」 という言葉で終わっています。
 
 それに対して、中森明菜は、
 「ダイヤと違うの、涙は。ハッハァー」 と歌います。
 
 ね! どこかのお坊ちゃんの腕に抱かれて、将来の社長夫人を夢見るセレブの女の子に対して、コンビニの前にしゃがみ込んで夜をつぶすしかない女の子が、つぶやくわけですね。 『飾りじゃないのよ涙は』 って、唇を噛み締めながら。
 
 80年代の光と影。
 
 聖子と明菜は、まさにそのように棲む場所を分けながら、それぞれのファンにメッセージをおくっていたわけですね
 
 … というところで、時間となりました。
 それでは皆さん、また来週。
 
 
J ポップ・クリティーク 12 「TOKIO」
   
J ポップ・クリティーク 1 「そんなヒロシに騙されて」
 
 

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飾りじゃないのよ涙は への2件のコメント

  1. 旅人 より:

    町田さんの音楽ネタいいですね~
    いつも楽しみにしています。渋谷陽一や湯原玲子さんの
    解説を一生懸命読んだ昔を思い出します。
    年代なのか感性なのかいつもぴったり合うんです。
    これからもよろしく。(イーグルスのその後は意外でした)

    • 町田 より:

      >旅人さん、ようこそ。
      ありがとうございます。渋谷陽一さんとか、湯川れい子さんみたいな一流の人たちの名前と並んでしまうと、なんだか、とても恥ずかしい気持ちになります。
      基本的に、音楽などあまり解っていないのに書いているので、どこかで、とんでもない見当違いをしているのではないかと、正直に言うと、ちょっと怯えている部分もあるんです。でもまぁ、「個人の感想文なんだからいいか…」 と開き直りつつUPしてます。
      だから、「ぴったり合う」 などと言ってくださると少し安心します。
      こちらこそ、これからもよろしく。
       

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