忘れられたもうひとつのイーグルス

 
 トラッドロック夜話 8
 
 忘れられたもう一つのイーグルス 
 
 イーグルスというバンドに、それほど思い入れはない。
 もちろん話題になっていたロックバンドのLPは、だいたい買いそろえていた時期があったから、1976年の 『ホテル・カリフォルニア』 も、1979年の 『ロングラン』 も一通り持っている。
 
 しかし、世評の高い 『ホテル・カリフォルニア』 には、さほど感激はしなかった。
 (同アルバムと比較され、それより評判の落ちる 『ロングラン』 の方がまだ好きかもしれない)
 
 1976年当時、 『ホテル・カリフォルニア』 の評価には、ちょっと尋常ならないものがあった。
 「ロックの王道を走ってきた者たちによる、ロックの自己批判」 みたいな、“哲学的” なアルバムであるという印象を訴えた言辞が多かったのだ。
 
 たぶん、ドン・ヘンリーの皮肉っぽい内省的な歌詞の内容が、建国200年で沸いていた当時のアメリカ社会の浮かれ気味の空気に、ちょっと水を差す効果があったからだろう。
 
 このアルバムに過剰に反応したロックメディアの批評家たちは、 「ロックの終焉」 というような誇大な修辞で、彼らの栄光と悲劇を書き綴った。
 そういう気分は、たぶんに、あの夕暮れの光景を描いたアルバムジャケットの印象から来たものという気もする。


 
 私の愛したイーグルスは、やはり1972年の 『イーグルスファースト』 であり、73年の 『ならず者』 であり、74年の 『オン・ザ・ボーダー』 である。
 
 曲でいえば、 『テイク・イット・イージー』 であり、 『テキーラ・サンライズ』 だ。
 つまり、彼らがそこから脱皮しようとした 「お気楽なカントリーロック」 の方が、私にはとても貴重な音のように思える。
 
 75年の 『呪われた夜』 以降、彼らはカントリー路線を修正して、ハードな本物のロックを目指したといわれるが、そういう路線なら、すでに “ごまん” とあった。


 
 タイトでキャッチーなビートなら、彼らは南部のレーナード・スキナードにも及ばなかったし、ジャズのセンスすら感じさせるオールマン・ブラザース・バンドのスリリングなスピード感もイーグルスには欠けていた。
 
 彼らには、ザ・バンドの哀愁もなかったし、サンタナのエキゾチシズムもなかった。
 彼らの良さは、むしろカントリーフレイバーの利いた “のほほん” とした路線にこそあったというべきだろう。
 
 だから、 『呪われた夜』 で、カントリー色を演出できるバーニー・リードン (レドンとも) を追い出したとき ( … つぅか、リードンが勝手に離れたんだけど) 私もイーグルスのファンをやめている。
 
 そんなとき、1977年にバーニー・リードンが、親友のマイケル・ジョージアデスとともに録音した 『ナチュラル・プログレッション』 というアルバムを知った。
 
 私にとっては、 「こっちこそイーグルスの発展形」 だと思えるようなアルバムだった。


 
 これは、当時仕事で訪れた名古屋のロック喫茶ではじめて聞いた。
 1曲目の 『コーリン・フォー・ユア・ラブ』 が店内に流れたとき、鳥肌が立った。
 腹にずしりと迫るようなスネアとバスドラの響き。
 かすかな暗さと、美しい緊張感をはらんだアコースティックなギターの音色。
 鷹揚なズレを持ちながら、それでも見事に決まるリードンとジョージアデスのハーモニー。
 
 けっこうタイトな演奏を、リラックスした歌声がほぐしていくときの解放感が心地良かった。
 
▼ Callin’ For Your Love 

 
 アルバムに収録された全ての曲が素晴らしい。
 草原に寝転んで、みずみずしさを保つ草を口に加え、頭上いっぱいに広がる空を見上げるときの気分が漂っている。
 
 木漏れ日があり、平原を抜ける風があり、働く男たちの汗の匂いがあり、彼らが乙女に抱く恋心がある。
 
 そのどれもが、レイドバックしたけだるさと、卓越したメロディーを持っている。
 よくもまぁ、これほどレベルの高い楽曲をそろえられたものだと感心する。
 オリジナル原盤は、現在は廃盤になっているらしい。
 こんな名盤が、その頃からあまり話題にならなかったというのも、不思議な気がする。
 
 いくらバーニー・リードンが、初期のイーグルスメンバーだと宣伝しても、イーグルスファンにとっては、彼は “落ちこぼれ” でしかないのかもしれない。 「現役イーグルス」 というビッグネームの方にみんなの関心が行ってしまうようだ。
 
 だけど、これは別の進化の系を歩んだ “イーグルス” なのだ。
 少なくとも、私にとっては、こっちが “正統派イーグルス” である。
 
 
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忘れられたもうひとつのイーグルス への2件のコメント

  1. より:

    はじめて好きになった洋楽がHotel Californiaだったこともあり、イーグルスにはすごく思い入れあります!
    その後Take it easyなど初期のものから後期のものまで五月雨に聴いたわけですが、初期カントリーロックのよさもあるし、後期ウェストコーストテイストな良さもあるかなぁ、と思っています。今でも通勤時のローテーションにはイーグルスが鎮座し、Wasted timeのセンチメンタルなバラードも改めていいなぁなどと感じ入ったりしています。

    で、本件バーニー・リードンのその後については初耳でした。確かにさわやかなテイストを継承している感じはありますね!amazonにダウンロード版が復刻してます http://j.mp/qCSWQU 便利な世の中ですね

    • 町田 より:

      >雷さん、ようこそ。
      おっしゃるとおり、確かにイーグルスは、日本の洋楽ファンに対して、アメリカンロックの楽しみ方を教えてくれた偉大なグループであったように思います。実は、私もレコード、CDなどではけっこうイーグルスのアルバムを持っています。ただ、繰り返して聞くアルバムとなると、やっぱり好みなのかなぁ…、どうしても初期のものになってしまうんですね。
      バーニー・リードン、アマゾンでしっかり聴けるんですね。確かに便利な時代になりましたね。やっぱりこのアルバム、爽やかさがあって、好きです。特に、キャンプに行った朝なんか流していると最高です。
       

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