もらっても読みたくない本

 
 比較的、本は好きな方だと思う (読書量はたいしたことないけど) 。
 だけど、本なら何でも良い … というわけではない。
 なかには、もらっても読みたくない本というのがある。
 
 たとえば、
 『後悔しない40代を迎えるために、30代で知っておきたい100のキーワード』
 とか、
 『人生を棒に振らないために、覚えておくといいリーダーたちの名言集』
 とか、
 『一生仕事に困らないために出逢っておきたい珠玉の言葉集』
 とかいったたぐいの本 (本当にそんなタイトルの本があったらご免ね) 。
 
 こういう感じの本はイヤだなぁ … と思う。
 だって自分の場合、そういう本を読んだとしても、 「もう間にあわねぇじゃねぇのよ!」 という哀しい気持ちになるのが目に見えているからだ。
 
 だから書店でも、まずそのたぐいの本は手に取ろうという気持ちが起こらない。
 
 でもときどき、 「どんなことが書いてあんのかな?」 と、雑誌やネットのレビューを読むことはある。 「やっぱり買わなくてよかった」 と自分を納得させるためにだ。
 
 ある雑誌を読んでいたら、たまたまその手のタイトルを付けた本のレビューが載せられていた。
 人生を成功に導くための “珠玉の名言集” とかいうやつ。
 著者が、いろいろなエグゼクティブとかビジネスパーソンにインタビューして直接拾ってきたネタらしい。
 
 それを紹介する評者の書き出しの文章は、こんな感じで始まる。
 
 「人間が生きるうえに、いろいろ役立つ珠玉の言葉集は、多くの人に好まれる本のジャンルである。とくに大勢の人が難局にぶつかっている時などには、隠れたヒット作になる。本書でも 『人生は出逢った言葉の質と量で決まる!』 と書いている」
 
 で、どんな言葉が、珠玉の言葉なのか?
 
 「友だちの幸せに拍手をできる人が、次の成功者」
 「遅い決断は、どんなに正しくてもすべて不正解」
 「本気でモテたいなら、群れない」
 
 えへっ?
 そんなもんでいいんかい?
 … っていう気持ちになった。
 
 書評欄の文字数は限られているから、評者もいちばん自分がインパクトを受けた言葉を厳選してピックアップしたのだろうけれど、このレベルの言葉が100並んでいたとしても、これじゃきっと 2~3時間経ったら忘れるだろうな、という気がした。
 

 
 昔から、
 「今も使える古典文学に出てくる名言集」
 とか、
 「転機を迎えた人を勇気づけた100の言葉」
 みたいな本は山ほどあった。
 
 読めばさぞや、いいことが書いてあるんだろう。
 でも、そんなものは、結婚式のスピーチに使うつもりでメモする人以外、ほとんどの読者の記憶には残らないようになっている。
 
 なぜか?
 
 自分で努力して拾った言葉ではないからである。
 
 本を読んで、 「自分の心に響く言葉」 にぶち当たる確率なんてのは、実はおそろしく低い。
 300ページほどの本を読んだところで、せいぜい 2~3行だろう。
 だけど、自分で探し出したその 2~3行は、まぎれもなく、その本を読みこなした自分だけに与えられた特別な 「言葉」 なのである。本のなかの山や谷を越えてきたその読者だけが獲得したものなのだ。
 
 それを 「体験」 という。
 体験とは、人の言葉を、自分のオリジナルの言葉に変える “きっかけ” のことをいう。
 
 体験に根ざしていない言葉は、人はすぐ忘れるようにできている。
 いくら立派な言葉を他人から教えてもらっても、自分が苦労して手に入れた言葉でない限り、風化するのは早い。
 
 しかし、本を出す方としては、読者が接した情報が早く風化してくれないと困る事情がある。読者が忘れてくれなければ、いつまで経っても同じ企画の出版物を発行できないからだ。
 
 ところが、そうやって同じネタが繰り返されていくうちに、 「心に響く言葉」 は、いつの間にか 「誰にも反論できない正論」 の体裁を取っていく。
 
 「失敗とは転ぶことではなく、起きあがらないことだ」
 とか、
 「大切なことは、過去を悔やむ反省よりも、未来を変えようとする決意だ」
 みたいに、日めくりカレンダーの横に小さく印刷される 「今日の言葉」 のようなものになっていく。
 
 そういう名言集は、もう、宴会の後の “お開き” の挨拶みたいなものだ。
 「友だちの幸せに拍手できる人が、次の成功者になれる」 なんて諭されたら、誰だって、 「はい、そのとおり!」 と、後はパチパチ拍手するしかないではないか。
 
 しかし、それは 「心に残る名言」 でも何でもなく、ただの思考停止である。
 人は、そんなところから真の活力などを得ることなどできない。
 
 人を変えるほどの 「真実」 など、1冊の本のなかに100個もつまっていたりすることなんてあり得ない。
 100の名言をコンパクトに収めた本を読むよりも、ひとつの本から自分の心に響いた 「一言」 を探すことの方が、はるかに得るものが大きい。
 
 

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