内燃機関の鼓動

トラッドロック夜話 2
 
 生まれてはじめて手に入れたクルマは、同時に、はじめて手に入れた音楽空間でもあった。
 今から思うと、その音楽システムは、想像もできないほどプアなものだった。
 純正カセットテープデッキと、AM・FMラジオ。
 それと、ダッシュボードの下に埋め込まれた小口径のスピーカー。

 それでも、クルマを運転しながら聴く音楽は、部屋にこもって聴く音楽とは、まったく別次元の興奮をもたらせてくれた。

 それまで、黒人音楽一辺倒の自分だったが、クルマに乗るようになって、にわかに好みが変わった。
 …というより、新しい音楽の存在を知った。

 クルマの疾走感にシンクロするリズム。

 そういう音楽があるということが、そのときになって、ようやく分かったのだ。
 それまで大嫌いだったディープパープルなんかもようやく聞けるようになった。
 『ハイウェイスター』とか『スピードキング』などという曲は、文字通り、クルマやバイクの疾走感を増幅させるための音だったのかもしれないと思うようになったのだ。

 お気に入りは、サザンロックだった。
 特に、オールマン・ブラザーズ・バンド。
 中でも、『ジェシカ』の入った『ブラザース&シスターズ』は、ドライブには必ず持参するベストアイテムだった。

 『ジェシカ』は、あの果てしないアリゾナやユタ州の原野を貫く一本道の景観とよく似合う。

 3年前、レンタルモーターホームでアメリカの中南部を走ったとき、一番聞きたかったのがこの曲であった。借りたモーターホームにはCDプレイヤーがついていたので、『ジェシカ』の入ったアルバムを持ってこなかったことが悔やまれた。

 しかし、アメリカの原野を走ったおかげで、今はこの曲を聞いただけで、たとえ第三京浜を走っていても、大陸的な広がりをイメージすることができる。

 沈む夕陽に向かって、単調な一本道が地平線まで続いていくあの感覚。
 それが、この曲には横溢している。
 おおらかな伸びがあって、ゆったりした気怠さもあって。
 それでいて、緊張感もずっと持続している。

 特に、個々のソロパートが披露され、チャック・リーヴェルのピアノソロが終わって、ディッキー・ベッツのギターソロに移る瞬間は、何度聞いても鳥肌が立つ。

 オールマン・ブラザーズ・バンドというと、いまだにデュアン・オールマンのギターに支えられたバンドだというイメージが強いが、自分は、ディッキー・ベッツの、ちょっとカントリーがかった能天気なギタープレイの方に惹かれる。


 
 そのディッキー・ベッツのギターソロを支えるリズム隊のサポートがカッコいい。
 あのツインドラムスの “ゆらぎ” を持ったリズムには、古典的なレシプロエンジンのピストンの上下動が表現されている。
 それも、昔のアメ車のような、シンプルな “メカの音” 。

 「大丈夫か? 壊れるなよ」
 というドライバーの不安感をよそに、「任せてよ!」とシャカシャカ張り切っている “けなげな機械音” といえばいいのか。

 それは、ドイツのテクノポップグループ 「クラフトワーク」 の対極にある “音” だった。
 
 クラフトワークは、無機質的な電子音が、いつ果てるともなく続く、冷め切ったリズムを特徴とする音楽集団で、そのリズム一色に染められた『アウトバーン』(1974年)というアルバムは、文字通り、アウトバーンの疾走感を表現した音だった。
 
 今から思うと、あれはEVとか、ハイブリッド車のクールな走行感覚を先取りした音だったのかもしれない。


▲ クラフトワーク『アウトバーン』

 そういった意味で、クラフトワークのテクノビートは、化石燃料時代の自動車が終わる時代を予見していたように思う。


▲ クラフトワーク
 
 それに対して、オールマンの『ジェシカ』は、“熱い” 。
 古典的な内燃機関の熱さが伝わってくる。

 それは、化石燃料を惜しみなく消費できた “幸せ(?)” な時代の音だ。
 石油エネルギーさえ確保できれば、世界の果てまで旅できるという無邪気なロマンが信じられた時代のリズム。

 もうそういう時代は訪れないという意味で、今ではノスタルジックな響きであるともいえる。 
 今から思うと、それは滅び行くものへの挽歌だったかもしれない。
  
▼ ジェシカ
 

 
  
トラッドロック夜話 3 「ツェッペリン体験」 
  
トラッドロック夜話 1 「ストレンジ・ブルー」
 
 

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内燃機関の鼓動 への2件のコメント

  1. 木挽町 より:

    読んでるだけでエンジンブレーキの吸入音を思い出しそう。EFI以前のクルマでは楽しめましたね。ディーゼルエンジンのタペット音もなかなかいいかも。

    • 町田 より:

      >木挽町さん、ようこそ
      今から思うと、オールマン・ブラザース・バンドというのは、まさにエンジン音の鼓動をそのままリズムに乗せて疾走感を出していたバンドだったように思います。
      実際に彼らは乗り物が好きだったんでしょうね。リーダーであったデュアン・オールマンはモーターサイクルが大好きだったようで、確か20歳半ばくらいで、ハーレーを運転中に事故に遭って亡くなっています。
      彼らの音は、大排気量のアメ車で大陸を走るときに、ほんとうにグッドバイブレーションですね。
       

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