何かが変わった

 一夜にして、何かが変わった。
 東北と関東を襲った巨大地震のあと、世の中のムードが一気に変わったように感じる。
 災害の映像が連日CM抜きでTVから流れ、人々の日常生活も混乱に陥っているという特殊な環境が続いているせいだとは思うが、メディアやネットの論調から、浮薄な “批評” が影を潜めた。
 庶民の味方の振りをして無責任な放談に終始する政治評論家たちの漫談や、タレントたちの人の揚げ足を取るような文明批評が消えた。

 もちろん、それは今だけのことかもしれない。
 しばらく経って、ある日、テレビをつけたら、相変わらず無責任な政治放談とおちゃらけバラエティが復活していて、雑誌のたぐいは、政局とタレントのスキャンダルを追っているのだろう。
 しかし、ここ数日のメディアの報道やネット言論を見ている限り、明らかに 「何かが変わった」 兆しが見える。

 それは、死者が1万人を超えるかもしれないという大惨事が起こっているのに、
 「おちゃらけは不謹慎だ!」
 ……という感じのものでもない。

 たぶん、この災害を機に、小才の利いた評論家の “耳障りのいい” 言い回しとか、アドリブ上手なタレントの反射神経的なギャグが、一気に色あせたのだと思う。

 今、人々が求めているのは、足が地に着いた言葉だ。
 言い回しの妙で人を面白がらせる言葉ではなく、現実問題として、いまだ電気のつかない暗闇の中で、身内を探し求めている人々の声の重さに拮抗できる言葉だ。
 実は、すでにそういう言葉を、人々はもうかなり前から希求していたのではなかったか?
 いたずらに人をおちょくったり、けなしたり、過度に持ち上げてみたり、痛いところを突っ込んだり……。
 そういう小手先の会話の “芸” ではなく、 「聞くに足る言葉」 。
 テレビのひな壇を仰々しく飾るコメンテーターたちの、 「思いつき批評」 ではなく、その人たちですら沈黙を守らざるを得ないような、身の引き締まる言葉。
 
 そういうものを無意識のうちに求めていた人々の、心の奥底に溜まっていた感情が、たまたま今回の巨大地震を機に、マグマのように噴き出したという気がする。

 これが、…たとえば福島県の原子力発電所の事件だけだったら、状況はそんなに変わらなかったかもしれない。
 自然災害が発端になったにせよ、原発の問題は 「人間の危機管理能力の問題」 であり、 「政府の対応の問題」 であり、すなわち “人為的なミス” として、今までのような浮薄な批評・批判にさらされただけだったろう。

 しかし、今回の東北、関東、北海道までをも巻き込んだ大惨事は、まさに人間の人為的なミスなどに還元されない 「人間を超えたものの力」 によってもたらされた。つまり、人間が同じ人間を批判したり、嘲笑したりする行為を空しくさせるような “力” が現れた。

津波絵画

 大自然の圧倒的なパワーは、いわば 「善悪の彼岸」 にある。
 それは、誰のせいでもないし、誰に責任があるわけでもない。
 要するに、批評や批判の “外” にある世界が現れたのだ。
 私たちは、これまで、そのような世界を語る言葉を持っていなかった。
 悪いことも良いことも、みんな 「人のせい」 にしていれば、事足りていたわけだから。
 
 人間の管理能力を超えた大自然の猛威に対しては、人間はただ泣くしかない。
 そして、この世から消えてしまったものたちに向かって、心を傾けて追悼するしかない。
 聞くに足りる言葉は、そのような 「言葉を失った場」 から生まれる。

 
 

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何かが変わった への2件のコメント

  1. ブタイチ より:

    お久しぶりです。町田さんのマスコミの描写にその通り!と思ったのですが…大変なことが起こってから10日経って…報道のあり方が大きく変ると思っていたのですが…「ほうれん草は安心か?」なんて…疑問文のタイトルつけて、CM挟んで…なんとなく不安を煽ってTVを見つづけけさせようとする…そして、必要以上に不安がらないでください…じゃね~。ヤダな~って思っちゃいましまた。

  2. 町田 より:

    >ブタイチさん、ようこそ。
    いやぁ、ほんとマスコミの体質って、やっぱりそんな簡単には変わらないんですね。
    不安がらせたり、なだめたりで、結局相変わらず “視聴率至上主義” なんでしょうね。
    でも、やっぱり、受け手である視聴者の方は、微妙に変わっているようにも感じます。今回、この大震災の報道を見ている人の中には、報道されている内容と現地の “真実” との乖離を見抜いている人が多いような気がします。
    被災を免れた人の中でも、多くの人が、「自分にも何かできることはあるのだろうか?」 とおのれに問うているのをよく見かけるのですが、そういう問には、単に義援金を送る、節電する、ボランティアとして働くということ以外に、何か今までと違った世の中の見方を求めているのではないかと思うことがあるのです。
    つまり、世界を自己中心的に見るのではなく、他者とのつながりの中で見る視点…といえばいいのでしょうか。
    何かがやっぱり変わっていくように感じます。
     

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