「都会」 の匂い (Jr.Walker&The Allstars)

 
 仕事で、夜の国道16号線を、南に走った。
 左手に横田基地の滑走路が、フェンスの間から、途切れ途切れに見える。
 軍用機の姿は見えない。
  
夜のネオン0065

 薄ぼんやりとした光が漂う、とりとめもない空間が、のっぺりと続く。
 ところどころブルーの誘導灯が夜光虫のように浮いている。

 30年以上も前か。
 R&Bを大音量でとどろかせながら、よくこの道を流した。


 
 フェンスの向こうに広がる、とりとめもない空間。
 そこが「基地」だと教えてもらわなければ、何の施設かよく分からない。
 
 しかし、注意深く眺めれば、やはり異国に匂いがする。
 片道2車線の道路をまたいで、その反対側には、いかにも米兵好みというたたずまいのカフェやレストラン、ブティークが並ぶ。
 
夜のハンバーガーショップ
※ 画像はイメージ

 しかし、大都会の街並みにはほど遠く、ネオンの光量の乏しい、みすぼらしい風景だった。
 
 それが、また良かった。
 無味乾燥なただの日本の道路だったけど、頭の中は、異国を走っている気分だった。
 
 ふいに、そのときの “気分” がツゥーンと鼻腔をかすめた。
 「都会的なものがカッコいい!」
 そんな感覚を抱きながら生きていた自分がいたことを、ふと思い出した。

 何を、“都会的” だと思っていたのか。
 アメリカの黒人音楽だった。
 
夜のジャズクラブ

 そびえ立つ高層ビルでもなく、夜に開花するイルミネーションの群れでもなく、たとえ郊外の寂れた道を眺めていても、そこにR&Bやジャズ、ブルースが流れていれば、もう「都会」を感じていた。

マイルス・ディビスカインドオブブルー

 マイルス・ディビスは、まだオーソドックなクールジャズをやっていた。
 マーヴィン・ゲイは、まだその個性を確立することもなく、モータウンのヒット曲路線に従った普通のR&Bシンガーにすぎなかった。

マーヴィン・ゲイベリーベスト
 
 だけど、そこには、石原裕次郎やフランク永井の歌とは違った、異国の「都会」の香りが漂っていた。
 それを、「カッコいい」と思った。
 
 そんな “刷り込み” が、いつ、どこで行われたのか、もうそれは霧の中。
 しかし、何かのきっかけがあったのは確かだ。
 きっと、たわいのないことだと思う。
 小さい頃に見た映画かなんかで、「いかにも都会!」と感じさせる情景の背後に、R&Bとかジャズが流れていたとか。
 たぶん、そんなことだと思う。
 
夜の椰子の木

 「都会的」であるということは、同時に「大人の匂いを放っている」ということでもあった。
 ガキにはまだ触れることのできない禁断の快楽と、ガキにはまだ理解できない哀愁と退廃。
 そこをこっそり覗き込むような、スリリングなときめき。
 アメリカの黒人音楽に感じたものは、そんな世界だった。
 たぶん、それと同じようなものを、僕より上の世代は、タンゴやシャンソンに感じていたのだろう。 
 
 ビートルズ以降、イギリスに数々のビートグループが登場し、日本にもグループサウンズが流行して、僕らは、ようやく自分たちの世代の音楽を手に入れた。
 が、代わりに「都会」と「大人」を失った。
 
ジュニア・ウォーカー&オールスターズ
 ▲ ▼ ジュニア・ウォーカー&オールスターズ
 ちょっと安っぽいサックスの音をフューチャーした、素朴なR&Bバンドの奏でるイージーリスニング。
 でも、これが僕の感じる「都会的な大人の音」。
 この薄っぺらでセンチなダンスビートの奥に、漆黒の闇が広がり、罪深い大人たちが味わう芳醇な快楽が隠されているように思っていた。
 

   
  
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