酒場放浪記

 BS-TBSで、 『酒場放浪記』 という番組をやっているけれど、その時間帯に家にいるときは、ついつい見てしまう。
 無精ひげを生やして、ハンチングみたいなものを被った、メガネの怪しいオジサンがナビゲーターを務めている。
 
吉田類氏
 
 吉田類さん。
 肩書きが 「酒場詩人」 というのだから、ますますもって、怪しい。
 イラストレーターであり、俳人というのだから、さらに、輪をかけて、怪しい。
 
 だけど、この番組の面白いところは、その怪しい人が立ち寄るのに、いかにも 「似合いそう!」 という雰囲気の居酒屋ばかりが出てくるのだ。
 
 つぅーことは、言葉を変えていえば、 「ワシ好み」 の店ばかりなわけで、知らない飲み屋街で、どこに入ろうかな … とぶらぶらしているとき、 「お、ここは良さそうだぞぉ!」 と自分なら必ず入りそうな店ばかりが登場する。
 要するに、 “居酒屋好き” の気持ちがよく分かっている番組なのだ。
 
酒場放浪記シーン
 
 居酒屋っていうのは、まぁ “庶民の飲み屋” なんだけど、その場合の庶民というのは、いわばクラシカルな 「庶民」 であって、 今風の 『白木屋』 とか、 『和民』 とか、 『笑笑』 とか、 『魚民』 とか、 『つぼ八』 とかとは一線を画するやつのことをいう。
 
 つまり、ノレンがちょっと擦り切れていて、カウンターが、酒やら醤油やらソースをたっぷり吸い込んで昆布色に輝いていて、時には、床が土間だったりするようなやつ。
 
 こういう店には、もう20年ぐらい通い続けているとかいう地元の偏屈オヤジが、スポーツ新聞の競馬欄などを見ながら、コップ酒をあおっていて、 (競馬に関係なく) 「民主党もだらしねぇ…」 とかつぶやきながら、串カツなんかをほおばっている。
 
 そんなオヤジの隣りに腰掛けて、焼酎の緑茶割りなんかを飲みながら、カウンターの向こう側を覗き込み、 「ママさん、そのおでんの厚揚げもらえる?」 … なんていう感じでくつろぐのが、私は大好きだ。
 
 で、吉田類さんていう人は、まさにそんな感じの、 “居酒屋のくつろぎ方” というのを実に心得ている人だと思う。
 
 たとえば、その店の名物おでんが出てくるとしようか。
 よくあるグルメ番組のレポーターのように、しばらく口をモゴモゴさせて、やおら 「ノドゴシがいいですね! この豆腐、絶品です!」 なんて叫ばない。
 「豆腐が、口の中で淡雪のようにジューシーに溶けてコクもあればキレもある」
 なんて、きいたふうな批評もしない。
 
 「あ、いいですねぇ」
 … ぐらいの、あっさりした芝居っ気のない口調で、やる気があんだかないんだか分からないような笑顔でニコニコしているだけ。
 この脱力感が、実にいい。
 
 居酒屋ってのは、ちょっと心理的にアセっているときに行くのがちょうどいい。
 「明日までの締め切りの原稿がある」
 などというとき。
 そういうとき、
 「わぁ、もういいや! 1時間だけ原稿のことなんか忘れて、飲むかぁ!」
 という、「矢でも鉄砲でも持ってこい!」 というあの開き直った解放感が味わえて、もうたまらない。
 
 でも、たいてい隣りの “スポーツ新聞のオヤジ” と意気投合したりして、1 時間が 2 時間になり、2 時間が 3 時間になっていくという、あの自堕落な自虐感も味わえて、それも、たまらないくらい良い。
 『酒場放浪記』 っていう番組は、そういう人間の弱さを讃えるような味があって、いつも感心してしまう。
 
 本も出ているようだ (↓)
 
酒場放浪記本
 

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酒場放浪記 への2件のコメント

  1. Taku. より:

    この番組私も見ています。のんびりして、ゆる~い感じがいいですね。他のグルメ番組にない風情を感じます。

  2. 町田 より:

    >Taku.さん、ようこそ。
    おっしゃる意味、非常によく分かります。
    >「のんびして、ゆる~い」……
    その押し付けのなさが、今の時代には “癒し” になっているのかもしれませんね。

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