「飽きる」 という知恵

 最近のニュース報道を見ていると、何が真実なのか、何が正解なのか分からないほど事実経過が錯綜し、かつ評論家たちの意見や見立てがバラバラだ。
 特に、政治問題や国際問題となると、人によって意見が正反対だったりする。
  

  
 テレビのワイドショーなどを見ていると、たとえば、民主党の小沢一郎氏に対する検察審査会の 「起訴相当決議」 に対して、それを 「妥当だ」 とするコメンテーターがいるかと思えば、逆に 「ガンバレ小沢」 とエールを送るコメンテーターもいる。
 
 尖閣諸島で起こった中国漁船の船長釈放だって、いまだに 「日本政府は弱腰だった」 と非難する人がいるかと思えば、 「あれはクールで理性的な判断だった」 と評価する人もいる。
 
 中国の反日デモをどう見るかにおいても、 「中国政府の意図的なガス抜き」 と論じる人もいれば、 「中国政府はデモに危機感を抱いているだろう」 と推論する人もいる。
 
 何をどう判断して、どう考えればいいのか。
 マスコミから流されてくる報道があまりにも錯綜し、かつそれを分析する人たちの意見がバラバラなので、視聴者は、立ちくらみやめまいを起こしそうになる。
 
 情報が多すぎるのだ。
 21世紀に入ってから、各メディアを通じて流れ込んでくる 「情報」 が、人々の処理能力を超えたのだ。
 
 それはそうだろう。
 ネットを取り込んだ21世紀のメディアは、その情報流通量を幾何級数的に増大させた。
 それもパソコンだった時代から、今や携帯電話やi Phon などで、移動中にも情報にアクセスできる時代になった。
 
 一方ではテレビ、新聞、雑誌という旧メディアも平行して、健在。
 BS時代を迎えたテレビは、チャンネル数を増大させ、世界各国のスポーツ中継やニュースをリアルタイムで流すことを可能にした。
 
 このような情報の奔流に、まず “知識人” といわれている人たちが追いつけなくなった。
 評論家とか、ジャーナリストといわれている人たちは、ある領域においては、確かに “正しそうな”  意見をいい、聞いている人間の頭の中を整理してくれる。
 しかし、その評論家が、今度は別の領域ではまったくトンチンカンなコメントを吐いて失笑させてくれる … なんて光景は、今や日常茶飯事となった。
 
 「思想」 ですら、 「情報」 の組み合わせから生まれる時代。
 人類普遍の 「哲学」 といわれるようなものだって、その解釈は1日単位で変化する。
 
 コックの壊れたシャワーのように、途切れることなく流れ続ける情報を、一人の “知識人” が包括的に整理し、それを 「うまい言葉」 で解説できる時代はとっくに過ぎている。
 
 逆にいえば、こういうときに、あらゆる情報を満遍なく処理し、人々に行動の指針を与えるような人がもし現れれば、あっという間に民心は統一され、その人は “独裁者” になれるかもしれない。
 
 しかし、そのような 「独裁者の政権」 が仮に生まれたとしても、ごく短命に終わるだろう。
 人々は、情報の洪水を生き抜くための 「知恵」 を身につけ始めたからだ。
 
 それは 「飽きる」 という知恵。
 
 これまで人類は 「記憶」 が、その個人の処理能力を超えてオーバーフローした場合、 「忘却」 という脳内システムを使って解消することを身につけてきた。
 しかし、人間の処理能力を上回った現代社会の情報量は、もう 「忘却」 という自然システムでは処理しきれなくなっている。
 
 「飽きる」 とは、記憶が脳に残っていようがいまいが、それを強引に 「無」 に還元してしまう処理システムのことをいう。
 その 「飽きる」 ことが、これまでの人々が保持していた嗜好のスパンよりも、そうとう短いサイクルで起こるようになったのが、この情報過多社会の特徴なのだ。
 
 だから、移り気な国民ばかりいる豊かな先進国では、独裁政権など生まれることもないし、生まれたとしても長く続かない (日本では総理すら続かない) 。
 
 末永く人気を保つ芸人もタレントも、たぶん次の時代からはもう出ない。
 音楽分野でヒット曲が生まれるという感覚も今や昔の話。新しいサウンドは、ヒットになる前に飽きられる。
 
 書籍のロングセラーというのも、これからはもう出ない。
 政治問題も社会問題も、人々の間で、もうそれほど長く論じられることはない。
 年末にまとめられる 「今年の10大ニュース」 も、夏前のニュースには人々の興味が薄れているから、年末のニュースだけに話題が集中するようになる。
 
 …… ってなことが、今後はしょっちゅう起こるような気がする。
 「飽きる」 という心の動きが、人間の 「病 (やまい) 」 なのか 「知恵」 なのか、それは、今のところ誰にも分からない。
 
 

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「飽きる」 という知恵 への4件のコメント

  1. kamado より:

    なるほど、飽きるですか。
    発想も論理展開も見事で、
    思わず全面的に同意しそうになりました。
    99パーセント同意します。
    本当に知恵かもしれないですね。
    > 「飽きる」 という心の動きが、人間の 「病 (やまい) 」 なのか 「知恵」 なのか、それは、今のところ誰にも分からない。
    もしかしたら、答えのヒントは
    >移り気な国民ばかりいる豊かな先進国では~
    の、「移り気」にあるかもしれませんね。

  2. 町田 より:

    >kamado さん、ようこそ。
    貴重なるコメントを重ねていただき、ありがとうございました。
    「移り気」 も 「飽きる」 も、過剰であることが前提となりますね。
    「選択肢が多すぎると、人は選択するのに疲れ果て、けっきょく何も選択しなくなる」 とよくいわれますが、情報においても、その量があまりにも膨大すぎると、人はけっきょく情報に対して無関心になっていくのではないでしょうか。
    現在のところ情報産業が、そのハードの部分…つまりアイテムとしての新商品開発でしのぎを削っていますから、消費者の関心も維持されていますが、それは情報そのものに対する関心ではなく、 「情報をもたらすツール」 への関心にすぎないように思えてなりません (現にテレビがなくなって清々したという人も最近増えているようです) 。
    あり余る情報が流通しているというのに、人々の関心は少しずつ 「情報」 から遠ざかっていく。そういう社会が、人間にとって 「ユートピア」 なのか 「終末の世」 なのか。これも、なんともいえない問題のような気もします。
     

  3. kamado より:

    町田さんコメントありがとうございます。
    選択肢の多さと情報量過多は少し意味合いが違うと思います。
    >「選択肢が多すぎると、人は選択するのに疲れ果て、けっきょく何も選択しなくなる」
    は同感ですが、
    私の考える情報過多は、取るに足らない雑多な情報であって、それぞれの個人のフィルター、つまり目の粗い一次フィルターでいかにその雑多なある意味無価値な情報を整理するかだと考えます(整理・整頓の整理とは捨てることですから)。
    テレビ離れも私の場合は、情報過多というよりあまりにもお粗末な番組を垂れ流しているからです。
    紙媒体からラジオ・テレビ・そしてネットと新しいツールが登場するたびに、人々は目を奪われ貪欲に無批判に受け入れて来た訳ですから、やがてその膨大な情報に飽きるのは当然と言えば当然で、次に来るのがその膨大な雑多な情報の取捨選択で、そこで初めて個人のフィルターの性能が問題になるのだと考えます。
    「移り気」は取捨選択、つまり整理整頓をするのではなく、丸ごと捨ててしまうと言う事になるのではと危惧します。
    人間の思想とか哲学、意思、行動などは、すべて外界からの情報をいかに取捨選択して個を形作るか、そこに懸かっているわけですから、情報を消費するだけで、貴重な情報という新たな素材を個の脳に組み込んでいかないのは不幸な事だと思います。
    >そういう社会が、人間にとって 「ユートピア」 なのか 「終末の世」 なのか。
    そういう社会が、外界に対して単に無関心になるのだとしたら結果は見えていますね。
    ただ、ある程度の年齢になったら山篭りでもして座禅でも組むのが良いのかもしてません(私には出来ませんが)。
    町田さんのこのブログという情報は、私にとって問題提起であり、固定観念の塊で霞のかかりつつある脳に刺激を与えていただける貴重な情報です。
    これからも刺激していただけたら幸いです。

  4. 町田 より:

    >kamado さん、ようこそ。
    おっしゃるように、テレビは、本当に >「取るに足らない雑多な情報」 が多すぎますね。それは 「面白さ」 を抽出するためだけに特化された情報が中心になっているからだと思います。今や一見真面目そうに報道される政治や経済の情報もみな娯楽化されすぎていて、視聴者も、反射神経的に政治や経済を見るようになっているな…と感じます。
    特に、最近の政治の報道に関しては、メディアも視聴者も一体となって、「政局」 を楽しんでいるとしか思えない感じです。
    だから、kamadoさんのおっしゃるように、>「個人のフィルターの性能」 が問題なのでしょうけれど、気づくと、自分も大事な報道を娯楽として楽しんでいるようなところがあって、自分でも頭の構造がテレビ化していると思わないでもありません。
    いつもいろいろと考えるためのヒントに満ちたコメントをいただき、ありがとうございます。
     

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