観光地の “つくり方”

 この前、テレビを見ていたら、 「妻篭、馬篭などという宿場町の面影を残した街並みを訪れる外国人観光客がどんどん増えている」 というニュースが流れていた。
 
 彼らはそこで、エキゾチックな古い日本の街並みを見物し、和風スイーツを食べ、景色をデジカメで保存して、国に帰ってからも楽しむのだそうだ。
 
妻籠・馬籠風景
 
 日本の伝統的な景色の価値にうとい日本人は、外国人がもてはやすことによって、ようやくそれが 「観光資源」 になると気づくようなところがある。
 
 もちろん、妻篭、馬篭などは、昔から日本でも有数な観光地だったけれど、おそらく、 「外国人たちが珍しがる風景」 を求めて、今まで興味を持たなかった日本人たちもこれから訪れることになるだろう。
 
 また、別の日にテレビを見ていたら、 「廃虚に関心を寄せる人々がどんどん増えている」 という報道があった。
 たとえば、長崎にある “軍艦島” 。
 昔、炭鉱で栄えた小さな島だが、その打ち捨てられた町の景観を見るために、今や1年間に7万人が訪れ、15億円の経済効果が上がっているとか。
 
軍艦島の廃墟
 
 このような産業遺産廃虚は、維持する意味もなく、かつ維持するには莫大なコストがかかると思われていたため、今まではどんどん取り壊されてきたが、ここのところ “観賞物” としての価値が認められるようになり、それを観光施設として保存しようという傾向も出てきているらしい。
 
 この二つの話は、何かを教えているようにも思う。
 つまり、 「観光施設」 のあり方というものを。
 
 要するに、今まで主流を占めていた「テーマパーク的な観光施設」 には限界がある。
 そんな感じがするのだ。
 
 廃虚ブームの中心となっているのは若者らしいが、若い世代なら、当然 「東京ディズニーランド」 の華やかな娯楽性にもたっぷりと浸かってきたはずだ。
 あるいは 『アバター』 のようなクリエイティブな3D画像にも十分共感できる感性を持った人たちだろう。
 
 そういう時代のテクノロジーが生み出す最先端カルチャーから、さらにそれを超え、その先の次元にあるもとして見出したものが、 “軍艦島” のような 「廃虚」 だという気もするのだ。
 
 つまり、バーチャルで擬似的な “感動の王国” より、現在は朽ち果てようが、かつては人間が生活を営んでいたという本物の手触り。
 要は、 「歴史」 の古層まで下降していくスリルのある体験。
 外国人観光客や日本の若者は、その本物の “奥行き” に気づいたのかもしれない。
 
 妻篭、馬篭を訪れる外国人観光客も、やはり日本に興味を持った最初のきっかけはアニメやファッションというサブカルチャーだったと話していた。
 宮崎駿のアニメに共感し、原宿・渋谷の “かわいいファッション” に興味を持った人々が、やがて、日本文化の古層そのものに触れたくなっていく。
 そのときに見出されたのが、妻篭、馬篭だったという。
 
 ヨーロッパを旅しているとすぐ分かることだが、ヨーロッパ観光というのは、基本的に 「歴史遺産の観光」 である。
 だから、どこに行っても、まず教会、古城などの見学から始まる。 「歴史」 に興味がなければ、つまらないもので終わってしまうかもしれない。
 
 しかし、ヨーロッパでは、歴史に興味がない人でも興味を抱けるような、様々な仕掛けがある。
 近年、ヨーロッパの観光ツァーで人気が高いのは、考古学の専門知識を持った学者が遺跡めぐりのガイドを務めるツァーであったり、歴史研究家との夕食会をイベントに加えたツァーだという話を聞いたことがあった。
 また、滞在地のソムリエや芸術家、海洋生物学者といった専門家と触れ合う体験を謳ったツァーも人気が高いとか。
 
 そういう筋金入りの欧米観光客たちを迎えるにあたって、今の日本の観光産業は、そのレベルに達しているのかどうか。
 考えると、なんとも心もとない気もするのだ。
 
 ただ、ここに至って、観光客の方から歴史資源に対する興味を持つ人たちが増えてきたことは良いことだと思っている。
 若い女性を中心にした 「歴史ブーム」 は一向に衰える気配がなく、大河ドラマの舞台となるような土地は、みな観光客の出足がいいようだ。
 
 歴史ブームの背景には、 『戦国無双』 や 『戦国BASARA』 といったゲームの影響があるだろうし、 『篤姫』 『天地人』 『坂の上の雲』 『龍馬伝』 などの大河ドラマの影響もあるだろう。
 
 それを 「軽薄だ」 と危惧する声も聞こえそうだが、たとえ現在は表層的なブームに見えようとも、歴史に対する興味を持つ人が増えることは良いことであって、それが、人々の平面的な現代生活に陰影を与えていくことは間違いない。
 
 ただ、そのような歴史遺産を、どう観光資源として演出していくのか。
 これまでの愚を繰り返していては、やがて若者にも、外国人観光客にもそっぽを向かれてしまうだろう。
 
 「これまでの愚」 とは何か。
 作家の椎名誠さんが 『サンデー毎日』 (2008年6月8日号) に掲載されたエッセイ 「ナマコのからえばり」 の一部を引用して、終わりたい。
 観光施設を造るときに日本人が犯しやすい 「愚」 を、椎名さんは的確に捉えている。
(※ 以下、椎名さんの文)

…………………………………………………………………………………………………………………………… 
 地方のあちこちを旅していると町おこしとか島おこしなど、よそもの (=都会のプランナー) などがそれを組み立てることが多い。
 そこらの企画会社の適当なプランナーなどが手掛けると、例えば島おこしなどではすぐに 「愛ランド」 である。
 
 観光客の多くは感覚的に洗練された都会からやってくる。
 都会の人があちこちでひんぱんに見る 「愛ランド」 とか 「ふれ愛ランド」 などという陳腐な言葉は、もうその段階で 「廃棄期限」 が切れている。
 
 日本のあちこちに点在する似たような外国文化やその建造物のイミテーションによるナントカ村というやつも、そのチープさにおいて 「賞味期限」 はみな早かった。
 
 日本のあちこちを旅していて、観光地というのがおしなべて魅力的でないのは、つくり方が画一的で幼稚な部分が目につくからだ。 (中略)
 観光客を意識して構築された 「観光の対象物」 は、構築された瞬間から劣化と陳腐化が始まり、ずんずん 「賞味期限」 が落ちていく。
 
 それに対して、緑の山々や、昔と変わらぬ清流の川や、工事で変形改造されていない海などには 「賞味期限」 はない。
 バブル期のリゾート法施工のもと、2000億円で強引につくった九州の地の果てのシーガイアなどは、つくった段階で 「賞味期限」 が切れていた。
 きれいな海岸の十万本の松を切り、風景を切り裂く高層ホテルを造り、世界一という規模の波の来るプールを、本物の波の押し寄せる海の前に造ったという驕り。
 そこには、いかにして儲けるか、という 「経営のまなざし」 しかなかったのだろう。

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観光地の “つくり方” への4件のコメント

  1. ムーンライト より:

    この「軍艦島」。テレビで見ました。
    海からぐ~っとアップになっていく姿。とても魅力的でした。
    「アニメ」かと思いました。
    廃墟の地面がパカと割れて、戦闘機かなんか出てきそうな気がしました。
    オットは、アニメ『電脳コイル』を連想したと言っていました。
    私はアニメにはあまり関心はありませんが、想像力をかき立てるものは魅力的です。
    観光地も「完成品」ではイメージを膨らますことはできないと思います。
    18日から人形町が舞台のTBS『新参者』が始まります。
    「そよいち」さんの周りでもロケをしているようです。
    http://sotokichi.blog36.fc2.com/blog-entry-174.html
    このドラマ。レギュラーなのか初回だけなのか分かりませんが、原田芳雄さんも出演しています。
    大木トオルさんのふるさと・人形町が舞台で。
    大木さんを題材にした「Dear Mr. Blues」を歌った原田芳雄さんが出演。
    私にとっては、とっても想像力をかき立てられるドラマになりそうです。

  2. 町田 より:

    >ムーンライトさん、ようこそ。
    軍艦島は、実はテレビで何度か見ているのですが、あれほど迫力ある産業遺産廃墟というのは、日本中を探してもそう簡単に見つかりそうもない感じですね。人気が出るのもわかります。島と町の比率がアンバランスなんですね。小さな島がまるごと町になっているという感じで、海上にいきなり巨大ビルが浮いているという感じです。
    あれは、多くの人の想像力をかきたてるでしょう。
    別の意味で、人形町界隈というのも、また魅力あるたたずまいですね。あまり足を運ぶことはないのですが、典型的な東京の下町という風情があって、「そよきち」 さんのように、伝統的な味を守ったおいしいレストランや食堂がひしめいているという感じを受けました。
    ドラマの方は、どんな展開になるのでしょう。
    それを見ていると、次に 「そよいち」 さんあたりを訪れるのも楽しみになりそうですね。
     

  3. hoso より:

     古い町並みも、その土地に住んでる方にとっては珍しい物では有りませんから、「観光資源」といっても、解らないですよね。
     私の実家近くに温泉施設が出来た当時、第三セクターにも関わらず黒字だったそうです。
     お客さんに何が良いかと聞くと「何も無いのが良い」と。
     その後、黒字で気を良くしたのか設備がドンドン出来、今は赤字らしいです。(^▽^;)
     

  4. 町田 より:

    >hosoさん、ようこそ。
    観光地にとって、何が 「観光資源」 になるのかというのは、案外難しいテーマなのかもしれませんね。
    来訪するお客様に 「何か与えなければいけない」 という “足し算” の思考で考えてしまうから、ついついお客様にが求めないものまで捻り出してしまうこともあるように思えます。
    しかし、“引き算” の観光というのもあるのかもしれない。
    都会にない 「静寂」 とか、「不便な生活」 とか。
    能登半島に行ったとき、わざと電気を引かない 「ランプの宿」 というのがあって、ランプの明かりだけを頼りに食事したりするんですけど、けっこう面白かったように記憶しています。
    現代人は、過剰なものに飽き飽きしているので、 “足りないもの” の方が新鮮に見えたりするのかもしれませんね。
     

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