場末

 
 「場末」 って、好きだ。
 
 BASUE ……
 
 今、この言葉はどれほどまで機能しているんだろうか。
 ひょっとして、もう 「死語」 なのかな。
 若い人は、もうこういう言葉を知らないんじゃないか?
 
 「街の中でも、目抜き通りから少し外れた、さびれた場所」
 … っていうような意味なんだけど、色としてはくすんでいて、カタチとしては崩れていて、音としては歪んでいて、照明でいえば、蛍光灯じゃなくて、もちろんLEDなんかじゃなくて、 「裸電球」 という感じ。
 
 男が立ちションベンしていても、誰もとがめない場所 … っていうのかな。
 「白い幻想」 とか、 「チャコの店」 とか、 「ムーランルージュ」 なんていう看板掲げた古めかしいスナックが並んでいて、いずれもスツールに5人座れば満席となるようなカウンターの奥で、化粧の濃い60過ぎぐらいのおばあさんが、物憂そうに煙草を吸いながら客を待っている感じ。
 
 いいよねぇ。
 オレ、そういう場所がこの上もなく好きなの。
 
 で、ときどき男だか、女だか分かんねぇ化粧の濃い女装の人間がドアの外で客待ちしていてさ。
 「兄さん、1時間2千円でいいから、飲んでかない?」
 とか、声かけられてよ。
 
 「千円しかねぇよ」
 …とでも言おうもんなら、
 「バカやろー、金のねぇガキがうろうろする場所じゃねぇよ!」
 とか怒鳴られたりね。
 
 昔は、そんな場所でよく飲んだ。
 隣りには、シワシワのスーツに折り目の消えたスラックス履いたサラリーマンがさ、カウンターに頬つけて居眠りしててよ。
 「ケンちゃん、もう朝の5時だよ。このまま会社いくんかい?」
 なんてママさんに小突かれたりしててさ。
 
 そんな場所が街から少しずつ消えていって、どこもかしこも清潔になっていって。
 街がどんどんつまらなくなって。
 
 で、この前、ちょっと用事があって、東京の新宿に出たのよ。
 少し時間があったから、久しぶりに、昔さまよっていた場所をうろうろしてたらさ、どこか 「場末感」 の漂う一角が、まだあんだよね。
 
 「国際劇場」 という映画館が残っていてさ。
 “ポルノ映画” やってんだよ。
 
 「アダルト」 じゃなく、昔なつかしい 「ポルノ」 だよ。
 「ラーメン博物館」 じゃねぇけれど、こりゃ一種のテーマパークだな…と思った。
 
昭和館001
 
 今さ、パソコンで無修正画像が見られるような時代に、いったいどういう人が入るんだろう … って、しばらく立ち尽くしてしまったよ。
 入っていく人は誰もいなくて、出てくる人も誰もいなくて。
 階段の奥は、しんと静まりかえっていてさ。
 
昭和館002
 
 なんか、 「幻の映画館」 っていう感じで、中に入ると、もう映画なんてやってなくて、妖精や妖怪がパーティでもやってんじゃねぇの?
 …って、無類に想像力を刺激されてしまった。
 
 この 「国際劇場」 の方には入ったことはないけれど、東映のヤクザ映画をやっていた 「新宿昭和館」 の方にはよく通った。
 「仁義なき戦い」 シリーズなんてのは、みんなそこで観たんじゃなかったかな。
 30年以上も前の話だけど。
 
 うだつの上がらないサラリーマンたちがさ、誰も待っていない家に帰ってもしょうがねぇ … ってんで時間をつぶしているような映画館でさ。 (オレもその一人なんだけど)
 みんな前の席に足を乗せて、寝そべるように画面を見てんのよ。
 「禁煙」 なんて表示が意味もないくらい、館内には煙草の煙が充満していてさ。
 松方弘樹も、小林旭も、文太も、室田日出男も、みんな暗いつややかな声で、アウトローの生き様を歌うのよ。
 そんな声に惚れたね。
 
 で、映画がハネると、 「元気」 もらって、近くの居酒屋で一人でコップ酒あおってさ。
 
 そろそろ終電だ…ってんで店を出て、ホテル街の方に消え行こうとしている男と女の背中を見ながら、一人駅の方に向かって。
 
新宿「千種」
▲ 昔よく通った居酒屋。まだあったんだね 
 
 この前、久しぶりに 「国際劇場」 のあたりをうろうろして、そんな時代を思い出した。
 
 昔からそういう街を歩くのが好きなの。
 「ワイルドサイド」 …っちゃ少しおおげさだけど、 「Take a walk on the wild side」 って、ほらルー・リードが歌うじゃない。
 
 あんなニューヨークのようにカッコよかねぇけどさ。
 新宿の一角には、どこか和風のワイルドサイドが、少しだけ残ってんのね。 
 日なたに出ると、日光で殺菌消毒されちゃいそうな男と女が闇に消えていくような街って、いいよね。
 
▼ ルー・リード 「ワイルドサイドを歩け」

 

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