長谷川等伯の絵

 
 長谷川等伯の絵について、何かひと言書きたいと思っていたのだが、鑑賞眼もないし、予備知識もないので、何も書けないままでいた。
 でも、圧倒されるのだ。
 いったい、こういう空間造形は、どういう精神から生まれてくるのか。
 
長谷川等伯「楓図」全体
 
 その秘密に迫りたいという気持ちだけは、絵を見るごとに募ってくる。
 等伯のライバルといわれた狩野派の絵においても同様だが、このような “超フラット” な空間を造形する心は、どこから生まれてくるのか。
 西欧近代の絵画を見なれた人からみると、等伯や狩野派の屏風絵に描かれる世界は、奥行きを失った、立体感の乏しい、平面的な図像にしか見えないだろう。
 しかし、現代のポップカルチャーに親しんだ人なら、このような絵は、 “絵画” というより、新しい都市環境を彩る “デザイン” に見えるかもしれない。
 
 たとえば、下の絵は有名な尾形光琳の 『紅白梅図屏風』 だが、このような絵を見ていると、昔の絵師の描いた絵というよりも、現代のアーチストが手掛けるポップアートのような斬新さが漂ってくる。
 
尾形光琳「紅白梅図屏風」
 
 実際に、デザイナーズ旅館や新意匠の割烹料理店などで見かけるインテリアには、けっこうこのような意匠をモチーフにした装飾が増えている。
 それらを称して 「和モダン」 というが、そのような意匠は、すでに大都市圏の店舗設計の中などにも相当採り入れられており、今や、西欧風の意匠を施したインテリアを古臭いものに見せるほど、現代の都市空間の中では主導的なデザイントレンドになりつつある。
 
 安土桃山時代の巨匠の絵画と、現代の和モダン的なデザイン意匠が類似しているということが何だかとても不思議に思えていたのだが、昨夜、NHKの 「歴史秘話ヒストリア 『名作選 美の戦国合戦』 」 という番組を見ていたら、意外と単純な事実を知らされた。
 長谷川等伯にしても、狩野永徳にしても、彼らは 「絵」 を描いているという自覚はなかった。
 いや、もちろん 「絵」 は描いていたのだけれど、それは近代西洋絵画でいわれるような、芸術家が自分の主観のおもむくままに描く “アート” ではなかった。
 
 では、どんなものを描いていたのかというと、建築物の一部を飾る “装飾” だったのである。
 つまり、時の権力者の壮麗な建築物をきらびやかに飾るために、請われるままに細工した室内装飾だったのだ。 
 確かに、等伯の代表作といわれる 『楓図』 にしても、永徳の傑作といわれる 『唐獅子図屏風』 にしても、障壁画や屏風 (びょうぶ) 画である。
 要するに “家具” だ。 
 彼らは、その “家具” を造形するための 「職人」 だったのである。
 和モダン的インテリアデザインとの類似性が認められるのは当然であろう。
 
狩野永徳「唐獅子図」
▲ 狩野永徳 『唐獅子図屏風』
 
 しかし、それにしても、その不思議な空間造形は、圧倒的な迫力でわれわれの胸に迫る。
 そこには、ヨーロッパ的な芸術観などでは解釈できないような、異次元の空間が造形されている。
 遠近法という絵画表現を手に入れたヨーロッパ近代絵画は、 「奥行き」 を手に入れた。
 それを見ていると、われわれは、その絵の中に入っていけるような “深さ” を感じることができる。
 
遠近法絵画
▲ 遠近法で描かれたヨーロッパ絵画
 
 しかし、等伯の 『楓図』 には、奥行きがない。
 奥行きがないのに、言葉を失わせるような、鮮明で巧緻なリアリティが生まれている。
 
 これを 「不思議」 といわずに、何といおう。
 手を触れると、ささくれだった幹の感触が得られそうな現実感を漂わせながら、同時に、人がその絵の中に入ってくることを拒む、ただの 「壁」 であるという不思議さ。
 
 そこに、ある種の “超越性” が現前しているといってよい。
 奥行きを失ったことが、逆に、見せかけの 「奥行き」 では表現できない、永遠に手が届くことのない世界の存在を教えてしまうのだ。
 
長谷川等伯「楓図」部分
▲ 長谷川等伯 『楓図』 (一部)
 
 このような絵に接してしまうと、最近はやりの 3D映画など、何を表現しているのか、考える気もしなくなってしまう。
   
  
参考記事 「ジョルジョ・デ・キリコの世界」
 
参考記事 「ジュリアン・オピー」
 
 
 
 

カテゴリー: アート   パーマリンク

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong> <img localsrc="" alt="">