夜の妄想

 幕張ショーが開かれたメッセ9号館の裏手の駐車場に、深夜の2時頃戻る。
 そこに止めておいた自分のキャンピングカーの中で寝るためだ。
 
 親しい人たちと居酒屋でさんざん飲んで、ついでに、彼らの泊まるホテルの大浴場にちょっと入らせてもらって、夜道を帰るときには、もうすっかり酔いも醒めている。
 
 片道2車線の広い道路は、遠くまで見通せるというのに、視界に入るクルマの姿は1台もない。
 天を突くばかりの高層ビルには、明かりの漏れている窓もあるが、人の影は見えない。
 
夜のビル001
 
 舗道を照らす街路灯は、やたら煌々と明るい光を投げかけるが、その下を通る犬一匹いない。
 パビリオンの入口には、小さな守衛室があるというのに、ガードマンの姿が見えない。
 
 光はあるが、音のない世界。
 鮮やかな都市の姿をとどめながら、空漠とした荒野の静けさに満ちた街。 
 死に絶えた未来都市の風貌を持つ深夜の幕張は、ビルそのものが巨大な墓碑となる。
 
 自分のキャンピングカーに戻り、鍵を回して中に入ると、今日も人の姿を求めてさまよいながら、結局誰にも会うことのなかった “地球最後の人類” になったような気分になる。
 
 食料はまだ少しある。
 水もある。
 ガソリンも、もう少し残っている。
 だが、それもあと何日持つことやら。
 
 明日陽が昇ったら、もう少し南へ下ってみよう。
 せめて、魚が泳いでいる海か川にでもたどりつけるように。
 そこには、まだ生き残った仲間がいるかもしれない。
 
 …… なんていう妄想を頭に浮かべながら、冷蔵庫からウィスキーのミニボトルを取り出して、寝酒をあおる。
 
 ダイネットの窓から見える街路灯が、凍った光を舗道に落としている。
 時が止まったように見える。
 
 ひとつ気づく。
 「光」 とは、 「時」 の死骸なのだと。
 
 死に絶えた 「光」 を見ていると、FFヒーターの噴出し口から昇る温風にも、どこか首のあたりを刺す冷たい刃の感触が交じっている気がしてくる。
 
夜の街路灯010
 
 この怖さは何なのか。
 
 昔、各地のキャンプ場を取材しながら、山道の路肩などにキャンピングカーを止めて寝ていた時代があった。
 ヘッドライトが照らす一角だけが、唯一の 「世界」 で、それ以外はすべて漆黒の闇。
 周囲がどんな場所かも分からないようなところで寝るのは怖かった。
 
 闇は、人間の妄想をたくましくする。
 視界の届かない闇の奥で、魑魅魍魎がうごめく気配を察することもある。
 
 「何かがいる」 という怖さ。
 人の思考も届かぬような闇の底で、何かが息を潜め、こちらをうかがっているという怖さ。
 あの感じも怖かったけれど、 「何もいない」 という怖さに比べると、まだ心が安らぐ。
 邪悪なものか聖なるものか知らないけれど、少なくとも、それと拮抗して、対決しようとする自分の存在を確認することができる。
 
 しかし、 「何もいない」 世界と向き合うことは、自分も 「無」 になっていく感じがする。
 
 ダイネットの明かりを消して、バンクに這い登る。
 
 最後の夢をみよう。
 そして、まだ地球に、花と緑が息づいていた時代を思い出すことにしよう。
 …… ってなことを妄想していると、キャンピングカーの中で一人で過ごす夜にも退屈することがない。
 
 

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