歯ぎしり

 すんでの所で、歯を抜かれるところだった。
 なにせ、右側の奥歯が 「物を噛むと痛い」 という状況が2週間も続き、お医者さんから、 「歯の寿命が尽きたので抜くしかない」 と言われていたのだ。
 「抜いた方が、かえってしっかり物を噛めるよ」
 といわれ、
 「はい、了解!」
 と潔く答えたものの、いざ抜く日が近づいてくるとなると、去っていく歯がいとおしくなった。
 
 いちおう、自分を50年以上支えてくれた大切な肉体の一部なのである。
 この間、文句ひとついうことなく、固いせんべいをかじる辛さにも耐え、煙草のヤニに汚されつつ、じっと堪え忍んできたのだ。
 
 なのに、 「歯なんだから、それが務めだろ」 と思っていたため、 「ありがとう」 の一言もいうことがなかった。

 ところが、いざ抜かれると思うと、だんだん 「このビスケットをかじるのもこれが最後だろう…」 などと優しい言葉のひとつもかけてやろうという気になってきた。
 すると不思議なことに、奥歯との決別が近づいてくるにつれ、 「痛み」 がなくなってきたのである。
 
 歯の方も、 「抜かれてたまるか」 と、ようやく一念発起して、痛みを自分だけで噛みしめて、主人に伝えないような努力を始めたのかもしれない。
 
 もともと、虫歯で弱くなった歯ではなかった。
 歯ぎしりしているうちに、割ってしまった歯なのである。
 人からは、けっこうおっとりした温厚な性格だと思われている私だが、実は、けっこうイライラする人間である。
 
 で、ストレスが溜まると、つい無意識のうちに、ギリギリと歯を擦り合わせている。
 「歯を食いしばって耐える」 といえばカッコいいが、要するに歯ぎしりの多い人間だったのだ。
 
 そのために、若いときは、 「縦横比」 でいえば 「縦」 が長い、江戸時代の殿様のような瓜ざね顔の骨格だったが、年をとるとともにアゴ系の骨が発達し、横幅の方がどんどん拡張していった。
 
 今じゃラグビーボールを地面に置いたときのような骨格になってしまっている。
 それほど、奥歯を擦り合わせて “鍛えて (?) ” いたわけだが、ある日突然、ガリッという鮮やかな音とともに、その歯が口の中で破裂した。
 びっくりした。
 
ガリッ!
 
 まぁ、大昔は虫歯になったこともある歯で、中に詰め物が入れてあるだけだから、歯そのものは薄くなっていた。
 
 そこに、当時としては、めっちゃストレスのかかる仕事を抱えていたため、そのプレッシャーを一身に受けていた歯が、ついにギブアップしたというわけだ。
 
 歯医者に行ったら、 「中高年には多いんですよ。いろいろ辛いことがあるでしょうから」 と同情された。
 
 で、そのとき修理した歯がまた痛くなり、いよいよ抜く日になって、歯科医の診療シートに座ったのだけれど、歯を抜く専門の先生が見るところによると (歯科医も分業制が発達してきたのだろうか?) … 「痛みがないなら抜くこともないですねぇ」 という。
 「本当にダメになるまで、騙しだまし、使ってみましょうか」
 と言われて、歯の掃除だけして帰ることにした。
 
 だけど、歯が生き残っても、本体の方が先にくたばる可能性だってあるんだから、どうすりゃいいのやら…
 
 帰りぎわに、 「顎関節症の症状を改善するために」 というチラシを渡された。
 歯よりも 「顎 (アゴ) 」 のケアをしろということらしい。

 そこには、
 ・ 「歯のくいしばりが必要な、重い物を持ち上げる動作は避けてください」 
 ・ 「精神的な緊張の持続は、症状を悪化させることがあるので、30分ごとに緊張を解放し、リラックスすることが必要です」
 ・ 「上下の歯を常時接触させてはおくのは良くありません。絶えず上下の歯を接触させている人は、顎関節にも常に力がかかります」
 ……ってなことが記されていた。
  
 これは大変なことになった!
 …と、またしても歯をギシギシ擦り合わせてしまった。
 習慣となったものは、なかなか治らない。 
 
  

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歯ぎしり への6件のコメント

  1. Yama より:

    あ~、そういうことですか。
    私もつめモノをした奥歯が、虫歯でもないのに、歯茎が悪いわけでもないのに、噛むと痛むときが、ここ2年近く続いています。経年劣化、廊下でなくて老化でも、痛くなるのですね。
    だまし、だまし、大事にしましょう。

  2. 町田 より:

    >Yama さん、ようこそ。
    Yama さんも似た症状に悩まされていたわけですか。
    お互いに気をつけましょう。
    歯科医の先生に言わせると、歯の病気とアゴの病気というのは連動しているらしいですね。
    とにかく、ポカッと口をうす開きにしていろ、と言われました。
    上の歯と下の歯というのは、本来モノを食べているとき以外は、くっついていない状態が正常らしいのです。
    それなのに、モノを食べてもいないときに上の歯と下の歯をかみ合わせていると、歯とアゴの両方によくないんですって。
    歯医者でひとつ学んで帰ってきました。

  3. 磯部 より:

    おっ、町田さんも私と同じだった!
    歯の食いしばりによる歯痛、アゴへの負担。私なんか、歯医者でマウスピースを作ることをすすめられました(笑)。
    辛いことが多すぎますな?そういう訳で、お互い顔型が変化したのですか?メタボが原因かと思っていました。

  4. 町田 より:

    >磯部さん、ようこそ。
    いやぁ、ここにも “同僚” がいましたか!
    歯の悩みを抱えているのは、私だけじゃなかったんですね。
    顔が変化したのは、私も 「食いすぎ」 が原因だと思っていましたけれど、歯とアゴのせいですよ! 絶対そうに決まっている。
    「お地蔵様」 の話、面白かったですよ。
     

  5. ムーンライト より:

    私も数年前、奥歯が2本割れていると言われました。
    「何か歯を食いしばることをしていますか?」
    「・・・・・?」
    そういえば、その頃、朝目覚めた時に「う~」とくいしばっていたことがよくありました。
    寝ながら悩むことが多かったのでしょうね。
    「温厚な人物」っていう感じ、分かりますよ。
    お会いして、ブログでのちょっと斜めから見ている感じは「テレ」なんだろうと思いました。
    最近、PTAでの友人に私がカスタマーレビューを書いていることを話したんです。
    そうしたら、その方、早速ご覧下さったそうなんですが、
    「やっぱり、タダモノじゃないと思った」そうで・・・。

  6. 町田 より:

    >ムーンライトさん、ようこそ。
    起きているときは注意できても、寝ているときの歯ぎしりは防ぎようもありませんね。
    せめて、歯をくいしばらなくてもいいような夢を見ることを心がけてください…って、それ無理ですよねぇ (笑)。夢だけは、意識の力で制御できませんものね。
    ムーンライトさんのカスタマーレビューが少しずつファンを獲得しそうですね。良いレビューを書かれていらっしゃるから当然でしょう。
    私もファンの一人ですから。
    また、新しいレビューを書かれたらご連絡ください。楽しみにしております。
      

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