塩野七生 × アントニオ・シモーネ 「ローマで語る」

本屋の店内
 
 また、本買っちゃったぁ。
 カネもないというのに。
 読む時間もないというのに。
 机の上には、読んでもいないような本がどんどん 「バベルの塔」 みたいに積み重なっていく。
 今日買ったのは、この2冊。
 
 『日本の難点』  宮台真司 (幻冬舎新書)
 『ローマで語る』 塩野七生 × アントニオ・シモーネ (集英社)
 
 本を買うときは、事前にレビューなど読んで、めぼしをつけて書店に行くこともあるけれど、ほとんど店頭で “出会い頭の事故” みたいに買ってしまうことが多い。
 手にとってみて、買うか買わないを決める目安は、まずランダムにページをめくってみて、自分のハートにビシッと届くフレーズがあるかどうか。
 たまたま開いたページなんだけど、この2冊は “ビビビッ” と来るものがあった。
 
日本の難点表紙
 
 宮台さんの本を買うのははじめて。
 雑誌などでは、よく目にする人だけど、いまいちどういう人なのか分からなかった。
 でも、この人の本を手にとってみたら、
 「これオモシロソー!」
 と思ったフレーズが出てきたのだ。
 
 「僕は自分が昔ナンパ師をしていた縁で、ナンパカメラマン (ハメ撮りカメラマン) とはほぼ全員顔見知りでした。
 その僕が断言しますが、彼らの中にいわゆるイケメンは一人もいませんでした。
 理由は簡単。女性はナンパの現場ではむしろ二枚目を警戒します。
 鬼畜なんじゃないかと (笑) 。
 ナンパ師に多いのはイケメンタイプじゃなく、人畜無害なタイプです」
 
 …ってなことを言う人なのかぁ。
 と、宮台さんに対して、一気に興味…というか、親近感が湧いた。
 
 「人間界 (人倫の世界) では因果性の帰属ではなく、選択性の帰属によって、主体=自己決定性が認定される」 …みたいなことばかり言う人かと思っていたから。
 東浩紀さんと並んで、時の人である。
 1冊ぐらい読んでみよう。
 
 もう1冊は、歴史読み物の大御所・塩野七生さんと、アントニオ・シモーネさんという若き映画人との対談集。
 パッと見て、 「ちょっと作りが軽そうだなぁ…」 と思ったけれど、手にとってみて、驚いた。
 対談の相手は、塩野さんの息子さんだったのだ。
 
 ローマで語る表紙
 
 で、パラパラと拾い読み。
 けっこういい感じ。
 決して “親バカ” 対談になっていない。
 対談というよりも、あの塩野さんがインタビュアーとなって、映画のプロに、その作品の意味やら意義やら、見どころなどを取材している感じなのだ。
 
 しかし、その質問は鋭い。
 塩野さんもまた、映画にはうるさい人だからだ。
 ところが、さすが塩野女史の息子さんである。
 映画の観方に筋が通っている。
 
 たとえば、ルキノ・ヴィスコンティの 『地獄に堕ちた勇者ども』 。
 アントニオ君は、こういう。
 
 「この映画では、ナチの将校たちの服が、単純に美的に決まっている。
 ボクは思うんですが、ナチに関することはすべて醜悪として決めつけるのでは、もうボクたちの世代は納得しないのではないか。
 美しいことは美しい、と認めたうえでナチズムと対決したほうがよいのではないかと思うのです。
 ナチの将校服は、どこの国のものよりも美的に優れているのは事実なんですから。
 それに、人間にとってほんとうに危険な存在は、醜い悪魔よりも美しい悪魔であることは、キリスト教でも認めている」
 
ナチの将校服
 
 タブーに対して、ずばりと踏み込んでいく勇気。
 バランス感覚に富んだ判断力。
 塩野さんの分身を見ているようだと思った。
 もちろん、そこのところを、パラっと拾い読みしただけで、すぐレジへ。
 
塩野女史&息子さん
 
 塩野家のことは、詳しくは知らないのだけれど、確か、お医者さんである旦那さんとは離婚していると思った。
 つまり、彼女はその後シングルマザー。
 なのに…というか、だからこそ…というべきか、お互いが同じ境遇を生きる 「同志」 として、親子を超えた知性人同士の対話が成立していると思った。
 
 塩野さんに、最初に取材を申し込んだのは、もう20年ぐらい前のことになる。
 当時、トヨタ自動車のPR雑誌を編集していて、発表されたばかりの 「セルシオ・デビュー記念号」 をつくることになった。
 なにせ、トヨタが欧州高級車と肩を並べる “高級車” をはじめて世に出すわけだ。
 「気合を入れた1冊をつくってほしい」
 と広報部から言われていた。
 
 編集会議の席上、 「高級とは何か? というテーマで、超有名人にエッセイを書いてもらうことにしよう」 と決まった。
 そのとき頭にすぐ浮かんだのが、塩野七生さんだった。
 で、意を決して、塩野さんに原稿を頼むことにした。
 
 
▲ 『優雅なる冷酷』 に掲載された塩野氏画像
 
 当時、彼女はまだローマではなく、フィレンツェを活動拠点にしていた。
 電話をかけて、ルルルルルっとコールが鳴って、とにかく人が出たから、
 「ミセスシオノ、プリーズ」
 と言ってみた。
 
 すると、 「ハイ」 という日本語。
 いきなりご本人が出てきてビックリした。
 で、こちらは自動車会社のPR誌の編集部だけど、今度 “高級車” を出すので、高級とは何かというテーマで原稿を書いてくれないか、と断られることを覚悟で、頼んでみた。
 「原稿はダメ」 と言われたが、結局塩野さんとお会いできたのは、テーマが 「自動車」 だったからだ。
 ちょうど、息子さん (先ほどのアントニオ君) が免許を取る年頃になったのだという。
 
 「だから、どんなクルマを選べば良いのか、日本でクルマに詳しい人がいたら、尋ねてみたいと思っていたところなの。
 そういう人との対談ならいいわよ」
 やったぜぇ!
 天にも昇る気持ちとは、このことかと思った。
 
 で、彼女が対談の相手として指定してきたのが、 『間違いだらけの車選び』 で一世を風靡した徳大寺有恒さんだった。
 これもラッキーだった。
 ちょうどその頃、うちの会社で、徳大寺さんの 『ダンディー・トーク』 というエッセイ集を刊行したばっかりだったからだ。
 
ダンディートーク表紙
 
 この本は、われわれの制作していたPR誌の連載をまとめたもので、クルマよりも、ファッション、ライフスタイル、音楽などをテーマにしたエッセイ集だった。
 それを、徳さんがちょっと “ダンディー” に語る。
 連載中から好評で、徳大寺氏の新しい境地を開いたものとして、業界的にも話題になった読み物だった。
 
 さっそく塩野さんのいるフィレンツェに、その 『ダンディー・トーク』 という本を送ることを約束し、日程の調整に入った。
 対談の場は、塩野さんが来日したときの定宿である、銀座の 「帝国ホテル」 。
 いちおう部屋としてはスィートを予約した。
 
 当日の徳大寺さんが素敵だった。
 ダークグレイのディナージャケットに、ピンクのシルクのタイ。
 同色のポケットチーフ、薄いグレーのペンシルストライプのスラックス。
 「これ、塩野さんと会うと思って、急いで作らせたんだが、おとといやっと間にあったんだ」
 
 どうだい似合うかい? といった感じで、ちょっと照れて、笑う。
 そんな少年ぽいところが徳さんにあって、実にほほえましい。
 
徳大寺有恒氏
 
 待つこと10分。
 「突然」 といった感じで、部屋の入り口に塩野さんがふぁっと現れた。
 妖精のような現れ方だった。
 
 ケープを身にまとっている。
 すっごく素敵である。
 すかさず徳さん、塩野さんの肩からケープを取って、ダンディーな紳士ぶりを発揮した。
 
 はたで聞いていても、楽しい対談だった。
 ただ、まとめるのに苦労した。
 
 話題は 「高級車」 をはるかに離れ、ローマ帝国の発展の秘密、ルネッサンスの意味、イタリア人の気質といったように、めまぐるしいほど変転していったからだ。
 まさに、塩野ワールド全開であった。
 
 後日、
 「対談をまとめた原稿をチェックしてほしいのだが…」
 と、フィレンツェに電話をかけとき、
 「見なくていいわよ、別に …。私は徳大寺さんという人と会ってみて、信用のおける人だと判断しましたから、原稿に関しては、徳大寺さんがOKを出されたら、私の方もOKということにします」
 という返事だった。
 度量の大きい人だった思った。
 
 結局、その原稿は、塩野さんのチェックを受けずに雑誌に載った。
 それが、彼女の意にかなった原稿だったのかどうか、いまだにちょっと自信がない。
 徳大寺さんが、 「いいよ!」 と明るく答えてくれたことだけが、せめてもの救いだった。
 
 肝心の、息子さんのクルマ選び。
 対談後の雑談で、そこに話が及んだが、徳大寺さんが何と答えたか、実はあまり記憶がない。
 アウトビアンキだったか、フィアット・パンダだったか。
 フェラーリ、マセラッティ系でないことだけは確かだ。
 
塩野女史&息子さん
 
 アントニオ・シモーネ君が、実際にどんなクルマを選んだかは、知らない。
 しかし、塩野さんとアントニオ君の対談集を手にとって、真っ先に思い出したのは、そのことだった。
 
 
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塩野七生 × アントニオ・シモーネ 「ローマで語る」 への2件のコメント

  1. ムーンライト より:

    塩野七生さんと徳大寺有恒さん!
    何と素敵なお仕事をなさったのでしょう!
    徳大寺さんを大木さんのディナーショーでお見かけしたことがあります。
    ワクワクした様子でオークションの「ハーレー」に小走りに向かっていらっしゃいました。
    私もその時徳大寺さんに「少年」を感じて素敵だなと思いました。
    『ダンディー・トーク』を読んでみたくなってアマゾンで調べてみました。
    『ダンディー・トーク2』もあるのですね。
    こちらは別の出版社のようですから町田さんはかかわっていらっしゃらないのでしょうね。
    早速手配しましたので、拝読するのが楽しみです。^^
    私。近頃は「人の縁」で本を選ぶことが多いです。
    今までとは違う世界、思いもよらぬ世界が開けることがあります。
    「主夫の仕事」へのミペット1号試作品さんのコメントが話題になていましたね。
    「今思うと、それだけのことをする価値がある女性ではなかった」という箇所にズキリとしました。
    でも・・・。
    「あなたの為に」そう思える人に出会ったのなら、その時そう思えたのなら幸せというものなんじゃないか。
    例えそれが一時の夢であろうと幻であろうと。
    私はそう思います。
    そして、ミペット1号試作品さんの「台詞」が私に向けられたら嬉しいかは分かりませんね。
    確かに真面目で誠実な方であることはよくわかりますが。
    この女性はまだ若かったんじゃありませんか。
    自分の老いなど想像したら「甘い暮らし」「二人の明るい未来」など考えられないじゃありませんか。
    相手の誠実さが重いということもあります。
    不実な人は嫌なのに、誠実な人に愛されるのは幸せであることは分かっているというのに。
    うまくいかないものです・・・。

  2. 町田 より:

    >ムーンライトさん、ようこそ。
    徳大寺有恒さんの 『ダンディー・トーク』 は、Ⅰ、Ⅱともに、「みずうみ書房」 という会社から出版され、2冊とも、私が担当編集者として関わりました。
    ただ 「みずうみ書房」 という出版社さんが今はなくなっているため、在庫も存在しません。Amazon で、中古を探すしかないようですね。
    私は、著者のサイン本を1冊ずつ保管しています。
    この本は、徳大寺さんのメインのお仕事である自動車評論から少し離れて、彼のファッションへのこだわり、お気に入りのアイテムに対するウンチク、読書、映画、音楽などについて触れたものです。
    そのため、今までの徳大寺さんの読者に受け入れてもらえるかどうか、多少の懸念材料を残したままでの出版でした。
    しかし、結果的に市場の反応はよく、自動車マニアの受けも悪くなく、その後の徳大寺さんの活躍する舞台を広げるものとなりました。
    何よりも、この本の出版自体を著者に喜んでもらえたことが、担当編集者としての何よりの自信につながりました。
    コメントの後半部、>「相手の誠実さが重い」 という一言、いろいろな意味で、奥行きと広がりを持ったテーマになりそうな言葉です。
    人間が演じる恋愛ドラマの大半は、実はこの問題なのではないでしょうか。
    愛している人に誠実に接する。しかし、その誠実さが、相手からすれば重い。
    それは、もしかしたら、その 「誠実さ」 が、相手への自分の押し売りになっているからかもしれませんね。
    相手に 「誠実さ」 を与えることは、その代償として、 「自分という存在の承認」 を求めている場合が多いのです。
    …というか、恋愛の場合における誠実さとは、そのほとんどが、「誠実なる自分のを認めて」 という願いとか祈りがこもったものになるしかないように思います。
    それを受け入れられるのは、誠実さを手向けられる人も、また、同じように相手を愛している場合だけです。
    誠実さに心を打たれるか、重いものとして感じられるかは、お互いの関係性の中で、微妙に定まっていくものなのでしょうね。
     

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