NAVI 誌の休刊

NAVI誌
 
 自動車雑誌の 『NAVI (ナビ) 』 が、2010年4月号 (2月26日発売) をもって休刊するという小さな記事を、たまたま開いた新聞紙面の片隅に見つけた。
 かつての愛読誌のひとつであった。
 創刊は1984年。 『カーグラフィック』 (二玄社) の姉妹誌のような形で登場し、カーグラよりも思想、政治、社会現象、風俗などにコミットする割合を高めた雑誌だった。
 
得大寺氏001 舘内氏001
 
 レギュラー執筆陣やゲスト出演者も豪華で、徳大寺有恒氏、舘内端氏などの人気ジャーナリストが毎回寄稿するか、座談会 (NAVI TALK) に出席。
 他にも、栗本慎一郎、浅田彰などのニューアカ系学者たち、矢作俊彦、村上春樹、田中康夫などの人気作家たちの原稿やインタビューが、いつもにぎにぎしく誌面を飾る異色のカー雑誌だった。
 80年代をにぎわした “ハイソカーブーム” などに対し、いちばん適切で鋭い論評を加えたのは同誌ではなかったか。
 自動車評論を、社会時評を加えた 「読み物」 に仕立てた手腕はたいしたものだと … と今でも思う。
 
ハイソカーソアラ
 
 もっとも、私は、創刊当時からしばらくは読んだものの、ここ20年ほどは手に取ることがなかった。
 基本的に、愛読していたのは、初代の大川編集長が勤めていた時代のものまでである。
 鈴木編集長に代わってからのものは、私の仕事が乗用車を離れてキャンピングカーに移ったこともあって、次第に手に取る機会がなくなってしまった。
 だから、休刊の記事を眺めたとき、 「あ、まだ続いていたのか…」 という醒めた感慨しか湧かなかったが、それでも、一抹の淋しさは感じる。
  
 休刊の理由は、 「不況による広告・販売の低迷による採算割れ」 と伝えられていた。
 「休刊」 という言葉は、事実上の 「廃刊」 を意味する。
 雑誌としての看板を下ろすということである。
 やむを得ないだろうな…と感じる。
 
 自動車の販売不振が取り沙汰されるようになった現在、その影響は、媒体にまで及んでいる。
 自動車の情報を 「雑誌」 から入手するという発想が、すでに現代の若者にはない。
 若者は、その自動車そのものにすら、もう興味がない。
 エンスーオジサンたちの読者層は残っていると思うが、かつての 『NAVI』 誌の “上から目線” っぽい説教くささに耐えきれなかった人たちは、いつしか別の雑誌に逃れたように思う。
 創刊当時から、同誌の人文色の強いエリート主義を嫌う人は多かった。
 (私は好きだったけれど…)
 
 ニューアカブームという時代のサポートがあったから、あの編集方針を支える読者層もいたのだろうが、ニューアカが、バブル退潮と同時に泡として消えてからは、 「人文系エリート主義」 そのものが、どこか場違いなところに置かれた “座りの悪い置物” のように敬遠されていった。
 その後、人文系出版物の人気も一気に急落。
 今や、古書店に行っても、人文科学書などは値が付かないどころか、引き取ってももらえない状況が続いている。
 
 自動車ブームの沈静化。
 人文系学問の衰退。
 『NAVI』 誌は、時代の二つの逆風をもろに被ったといえる。
 
 もっとも、90年代に入ってからの同誌は、高級ファッションブランドとのタイアップグラビアなどにスペースを割き、広告収入の増収を目指して路線転換を図ったと言われているが、その頃のものにはあまり目を通していないので、状況が分からない。
 
 目を通しもせずに、当てずっぽの予測で書くのは失礼なことだが、たぶん、 「ジャンフランコ・フェレのわかる男はランチャを愛す」 ってな感じのタイアップ企画が堂々と誌面にまかり通ったのではなかろうか。
 もし、そうだとしたら、かつての 「NAVI TALK」 で、さんざん冷静な分析をやってのけた 「商品の記号的消費」 とかいうやつを、地でいってしまったことになる。
 
 「アルファロメオは、アルマーニを着こなす男を選ぶ」
 … みたいなアプローチは、デザインもコピーも、オシャレであればあるほど古びるのも早い。
 5年経てばギャグにしかならない。
 ファッションブランドとタイアップする怖さはそこにある。
 読者に飽きられるのも早いのだ。
 『カーグラフィック』 は、エンスーの本棚を飾る資料として生き残れても、『NAVI』 は、その時点で、使い捨て雑誌になるしかなかったのかもしれない。
 
 まぁ、そうはいっても、創刊当時の 『NAVI』 が、新しい自動車像を思想的文脈に置き換えて表現した功績は大きかった。
 そのために、私にとっては手放せない雑誌となった。
 自動車を考える新しい材料をもらったし、使えそうなキャッチは、一部を改編してパクったりもしたこともあった。
 
1986年NAVI
 
 この雑誌は、クルマのハードな部分を真摯に愛する一部の読者を逃してしまったかもしれないが、一方で、クルマに対してジャーナリスティックな視点で挑もうという読者を多数巻き込むことに成功した。
 確実に、ひとつの時代はつくった雑誌である。
 だから、ファッションブランドに依存しなければならなくなった時代が来たときに、自動車雑誌としての 『NAVI』 の使命は終わっていたのかもしれない。
 編集に携わった方々には、本当にご苦労様でした、といいたい。
 
 

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NAVI 誌の休刊 への7件のコメント

  1. TJ より:

    本年もよろしくお願いします♂
    今日の朝刊で見ましたが・・・NAVIもこの数年は惰性の内容が目立っていましたからね。。それに新しい何かを取り入れたくても常に編集部+ジャーナリスト協会の関わった内容だけでは今の読者の求めているクルマ+ファッション・ライフスタイルを掴めなかったのでしょうね。。
    創刊号マニアのTJは創刊号から数年買っていたので来月の最終号!?も買います♂
    それと常々思うのは本屋での立ち読み公認は雑誌の売り上げに影響しているでしょうね。。
    これで同じような流れのCAR雑誌はENGINだけですか・・・

  2. 町田 より:

    >TJさん、ようこそ。
    こちらこそ、本年もよろしくお願い申しあげます。
    今の時代の読者ニーズに応えるCAR雑誌って、本当に難しいでしょうね。趣味の多様化という現象が、自動車という一つのジャンルの中でも起きているような感じがします。
    そして、商品そのものは動かなくても、情報だけはやたら早い速度で動いているから、ネット情報に遅れをとってしまうし。
    ペーパー媒体の編集は、よほどの特殊性を出していかないと生き残れないという感じがします。
    本屋の立ち読みが増えているのは、やはり私たちの中にも、「情報はただが当たり前」 という感覚が生まれているからかもしれません。
    たぶん、ネットがそうだからでしょうね。
     

  3. aki より:

    初めまして、そしてあけましておめでとうございます。去年の後半から町田さんのブログを楽しみに読ませていただいております。
    こちらにコメントを入れさせていただくなんて恐れ多いと思っていたのですが、いつも読ませていただくばかりでは申し訳なく、勇気を出して書かせていただいております。
    クルマに関する話題はもちろんですが、その他の様々な話題についても、共感を覚えることばかりで、いつも親しみと敬愛の気持ちが湧き上がってきます。なかでも、『飲み正月』の奥様に対するお気持ちは、まさに少し前に体験した自分自身にかぶる部分も多く、奥様が一日も早くお元気になられることを願わずにはいられません。
    これだけの長く深いコラムを更新し続けられることは大変なことでしょうが、これからも町田さんの素敵な文章を拝読するのを楽しみにしております。

  4. 町田 より:

    >akiさん、ようこそ。
    はじめまして。
    とてもご厚情のこもったコメントをいただき、ありがとうございます。
    akiさんも、同じような体験をもつお正月を迎えられたことがあったのでしょうか。
    さぞや、切ない思いもされたのでしょうね。
    今はご家族で平和な時間を楽しまれているようにお見受けしますので、それがなによりです。
    素敵なホームページ、拝見いたしました。
    デザインも洒落ているし、写真もきれいですね。
    そして、ご家族で、生き生きとカヌーをはじめ、様々なアウトドアを楽しまれている雰囲気が伝わってきて、ほのぼのとした温かい空気に包まれました。
    アクセス件数の多さにもびっくり。
    ファンがたくさんいらっしゃることがしのばれます。
    またのお越しを楽しみにしております。
     

  5. aki より:

    町田さんからコメント戴けるなんて感激です。
    お察しの通り、8年前になりますか…切なく苦しく先の見えないお正月を迎えた経験があります。そして今も現在進行形の「治療」という形で常にそのことを意識して暮らす毎日でもあります。
    若輩者がこんなことを書いて良いのか、少し迷う部分もありますが、失ったものも多いけれど、大切なものを得た実感もあり、今では差し引きすると多少プラスだったのかなぁと思うことが出来ます。
    どんなに聡明でストイックな人でも、「幸せ」は慣れてしまうもので、“もっともっと”と願ってしまいます。でもそういう欲張りな自分の“幸福のボトムライン”をリセットしてくれる出来事だったのかなぁ、と。
    平凡な毎日は徐々に色褪せて見えるようになるけれど、本当に色を失ってしまうということがどんなに味気ないことなのか?を実感しますよね。そして再び色を取り戻した時に、地味だけど微妙な色の違いを見分けることが出来る自分に気づいて、ちょっと嬉しい気持ちになります。
    お会いしたこともない町田さんに尊敬の念を感じるのは、たぶん色を失った状態の中で、様々な事象への興味を失わず、こうして素晴らしいコラムを書き綴っておられることです。全てを投げ出して逃げ出したくなった30代の私とは年齢も経験も違うといえばそれまでですが、この辺りに人としての大きさの違いを感じております。
    長文、大変失礼致しました。ひとりのファンとして町田さんのご家族に一日も早く笑顔が戻りますよう心からお祈り申し上げます。

  6. 町田 より:

    >aki さん、ようこそ。
    とても素晴らしい文章を頂きまして、感謝しております。
    >「幸福のボトムラインをリセットしてくれる出来事」…という言葉には、何か、とても勇気づけられるものを感じました。
    また、>「地味だけど微妙な色の違いを見分けることができる自分に気づく…」
    これも素敵な言葉だと思いました。
    私もまた、aki さんに教えられたように、そういう心境が訪れることを期待して、乗り切っていきたいと思います。
    またまたaki さんのブログを拝見いたしました。
    ルソーの 『眠れるジプシー』 の絵がお好きなのですね。
    いい絵ですね。私もまたルソーについて書いたことがあります。
    ロフト感覚の書斎も素敵ですね。
    清々しい感じが漂ってきます。
    どうしたら、あんなにいい写真が撮れるのか。
    勉強になります。
     

  7. aki より:

    ご丁寧にご返答ありがとうございます。お忙しいので今回はお返事無用に願います。
    お察しの通り、ルソーの 『眠れるジプシー』の複製画を検索している過程で町田さんのブログに出会いました。そして、町田さんの世界に惹きこまれました。
    トレーラーCasitaを牽いたり、DodgeVanを改造したり、VW Californiaを輸入したりと、私の興味の対象が町田さんのご専門と重なるのはもちろんですが、キャンピングカー、車中泊というキーワード以外の部分、例えば「欲しがらない若者 」「答は風の中」「二人のルソー」などなど、年齢差を越えて良くも悪くも近しい感性の方がいらっしゃることに感激して夢中で読ませていただきました。
    今はきっとどうして自分だけが?よりによって奥さんが?って思いが大きいとは思いますが、今の現実が町田さんにとって絶対にプラスに転じる日が必ず訪れるはずです。決して頑張り過ぎることなく、くれぐれも我慢して一人で全てを背負い込まれることのないよう、頼れる部分は息子さんや周りのご友人に頼ってお過ごし下さいませ。
    贅沢を言わせて頂くならば、「町田の独り言」をこの先ずっと拝読できますように願っております。

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