ザ・バンドの 「ザ・ウェイト」

ザ・バンドジャケ001
 
 2010年の正月の3日だったか、何気なくチャンネルをBS-TBSに合わせたら、 『SONG TO SOUL』(永遠の1曲)で、ザ・バンドの「ザ・ウェイト」を取り上げていた。
 はじめて観た番組だったけれど、幸運だった。
 
 「ザ・ウェイト」は、1968年に作られた『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』に収録された曲である。
 ザ・バンドのアルバムとして個人的に好きなのは、2枚目の『ザ・バンド』である。
 しかし、この「ザ・ウェイト」が入っているだけでも、1枚目の『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』の価値は絶大だと思う。
 
ミュージックフロムビッグピンク
 
 「ザ・ウェイト」は、その味わい深いイントロが印象的な曲で、枯れた感じの素朴なヴォーカルと、土臭い演奏が交じり合った何とも形容しがたい曲である。
 
 わざと素人臭く、ヘタにやっている。
 そんな説明でもおかしくないような、微妙なズレが全編に漂っている。
 ドラムスとベースの微妙なズレ、コーラスのズレ。
 もちろん、計算し尽くされた上での演奏だが、そのラフな味わいが、いかにも丸太小屋の部屋で、ランプの明かりを囲んで迎える夜のように、しみじみとした寂しさと、温かさを伝えてくる。
 
 印象としては、典型的なアメリカン・トラディショナル音楽。
 だが、よく聞いてみると、いわゆるカントリーでもなければ、フォークでもなく、この世のどこにもないような音なのである。
 なのに、なぜ、西部開拓民たちの夕餉(ゆうげ)の祈りにも似た宗教的敬虔さと、家族愛のような温かみと、荒野を眺めるときの寂しさのようなものが漂ってくるのか。
 それが不思議でならなかった。
 
 最初に聞いたのは、映画の中だった。
 『イージーライダー』の挿入歌として、旅の途中で知り合ったヒッピーを乗せたピーター・フォンダとデニス・ホッパーの3人が並んで、アメリカの荒野をひたすら走るときの背景に流れていた。
 
イージーライダーパンフ
 
 『イージーライダー』は、疾走するバイクの姿を撮り続けたロード・ムービーだから、ステッペンウルフの「ボーン・トゥ・ビー・ザ・ワイルド」のようなアップテンポの曲が似合う。
 しかし、一番バイクの走行感をかもし出していたのは、このドタドタしたドラムスが特徴的な、ミディアムテンポの「ザ・ウェイト」だったのだ。 
 文明生活を嫌って、ならず者のように逃げていく3人のバイク野郎の姿が、この曲を被せられることによって、何か神々しいようなきらめきを帯びる。
 この曲がなかったら、あの連中が迎える最後の悲劇も、意味をもたなかったかもしれない。
 
 「ザ・ウェイト」のおかげで、ドラッグと走る快感だけに酔いしれた “ただのヒッピー” が、資本主義の荒野から最初に逃げ出そうとした「殉教者」になれたのだから。
 

 
 その映画を観た学生の頃、友達たちとスキーに行ったことがある。
 スキーを知らなかった自分は、スキーパンツも何も用意せず、ジーンズのまま、スキー場のレンタルスキーを借りて滑った。
 転んでびしょびしょになり、一気に嫌になった。
 2日目はゲレンデには出ないで、昼間から温泉に入り、後は一人でギターを弾いていた。

 大部屋で雑魚寝するようなホテルだったと思うが、一緒に来た友達の中に、アメリカ人のカップルがいた。
 彼らがなぜ、その日スキーをしなかったのか、今ではもう覚えていないが、3人でギターを弾いて遊んだ。
 
 二人が目を輝かしたのは、私が「ザ・ウェイト」を弾き始めたときだ。
 「ユーはこの曲知っているのか? 名曲だ」
 
 カップルの男の方が、例の「テイク・ア・ロード・オフ、ファニー」のリフレインのところで、ハモリを入れた。
 練習もしたわけではないので、まったくハモリにならなかったけれど、その “たどたどしさ” が、逆にザ・バンドっぽい雰囲気を漂わすことになった。
 楽しい時間だった。
 
 「ウェイト」の歌詞の解釈については、さまざまな議論があるという。
 「ナザレ」「モーゼ」「ルカ」などという固有名詞が出てくるところを見ると、なにやら旧約聖書の物語が歌われているような感じもするが、歌詞の意訳をいろいろ眺めてみると、別に宗教的な歌ではない。
 
 ただ、哲学的な解釈がいろいろ立ち並ぶ詞らしく、かなり興味深い「ウェイト論」のようなものを展開しているブログもある。
 私は、あまり歌詞の世界にはとらわれないので、音として、「ザ・ウェイト」の絶妙なアンサンブルに引き込まれている。
  
 『SONG TO SOUL』では、もう白髪のジジイとなったガース・ハドソンが、ピアノの鍵盤に倒れこむような姿勢で、「ザ・ウェイト」の一部を弾いた。
 
ガース・ハドソン
 
 そして、「バッハのコラールがいかに完璧であり、研究されるべきものであるか」、「ポール・サイモンは、どのようにして賛美歌から『アメリカの歌』を生み出したのか」などということをしゃべった。
 
 彼は、はじめて聞いた人でも、「どこかで聞いてきた曲だ」と思わせるように、この曲を演じたという。
 たぶん、それは白人の子供たちが、日曜日に教会のミサに訪れて聞いた賛美歌のように、黒人の子供たちなら、黒人教会で歌われたゴスペルのように、小さい頃からなじんだ音なのだろう。
 番組を観ていて、「ザ・ウェイト」に感じた宗教的なものの匂いの秘密に、ようやく触れたような気分になった。
 
 私は、キリスト教とは何の縁もゆかりもない文化の中で生きている。
 だけど、その音のベースとなった分厚いやつらの「文化」の迫力にはやはり圧倒される。
 最初に聞いてから、すでに40年経とうとしている。 
  
  
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ザ・バンドの 「ザ・ウェイト」 への6件のコメント

  1. 磯部 より:

    偶然にも、私も年末イージーライダーの映画のことを考えておりました。で、ずっとステッペン・ウルフの「ボーン・トゥ・ビー・ザ・ワイルド」をYou-Tubeで聞きながら、この映画の結末を考えていた訳なのですが、同時期にこのブログを見て驚いた次第です。
    やはり、ブログを書いて、コイツを貼り付けようと考えておりました(笑)
    お互い、どうも60年代にチェックを入れていたようですね?
    町田さんは、ここを実体験として走ったわけですから、いやぁ良い選曲、的確なむ分析にほれぼれ。恐れ入りました。
    何故か、素材を過去に求めてしまうって、習性ですかね?そこんとこ、私は良い想い出なのですが、町田さんの見解は如何に?
    何はともあれ、今年も、宜しくお願いします。

  2. 町田 より:

    >磯部さん、ようこそ。
    そうなんですかぁ! まさに気持ちが通じ合っていたようで…。
    過去に素材を求めてしまう習性というのは、もうしょうがないことのように感じます。
    やっぱり、若いってことは、周囲のものがみな生き生きと見えていたということでしょうから。
    それに比べると、年とってくると、新鮮な驚きってものがなくなってしまいますね。
    しかし、こうも考えています。
    つまり、若い頃は、周りのものがキラキラ光って見えていても、それを表現する言葉を知らなかった。
    そして、年とってくると、キラキラしたものを見失ってしまう代わりに、表現するテクニックだけは身につけるようになる。
    だから、若い頃に感動したものを、現在の時点で言葉にすればいいんではないだろうか……と。
    ま、言い訳ですけど。そんな感じで、昔の思い出を書いております、はい。
    こちらこそ、今年もよろしくお願い申しあげます。
     

  3. el (エル) より:

    こんばんは、elです。
    町田さんまたまたお邪魔します。
    THE BAND いいですねぇ!  
    僕にとってただの「音楽」ではなく「文化」と化しています。
    「文化」とは生活の中で必然的に「日常」になった「習慣」だと
    理解しています、そうなんです「偶然」ではありません。
    THE BANDは僕にとってそう言う存在なんですね。
    僕が20代にバックパッカーやってた時、バンコクのカオサンにある
    ゲストハウスの様子が映画のように浮かんで来ます。
    勿論、こういう公の場で書けるものではありません(笑)。

  4. 町田 より:

    >el (エル) さん、ようこそ。
    THE BAND お好きなんですね! なんか音楽の好みが似ているように感じます。
    カントリー&ウエスタンには歌詞の悲しさはあるけれど、音の底に、どこか白人特有のオプティミズムがあるように思うのですが、ザ・バンドの奏でる音楽には、カントリーの味わいを持つフレーズが出てきても、言い知れぬ哀調があるんですよね。
    そこが好きです。
    >「文化」 とは、生活の中で必然的に 「日常」になった 「習慣」 …というのはいい言葉ですね。まさにそのとおりだと思います。
    ザ・バンドの音楽には、開拓期の人々の素朴な日常の中で繰り広げられる “祈り” のようなものがあるような気がして、まさに 「文化」 なのかもしれないと思います。
    いずれ、カオサンのゲストハウスの話も、話せる範囲で教えてください。
     

  5. ザ・バンド

    NO.00107 ザ・バンドのオリジナル・アルバム『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』(1968年) 例えば“田舎”と聞いて「ダサい」と思うのは、まだ自分自身に …

  6. 町田 より:

    >まい・ふぇいばりっと・あるばむのOZZYさん、トラックバックの連絡ありがとうございます。
    さっそくOZZYさんのブログを拝見させていただきました。
    豊富なコレクションに基づいた素晴らしい音楽ブログで、とてもびっくりいたしました。
    このような素敵な音楽ブログを管理されている方のお目に留まったことは光栄です。
    ありがとうございました。
     

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