奥様はまずキャンピングカーに反対

 ときどき顔を出している地元の飲み屋さんの忘年会があった。
 常連客とその家族も交えたような、気さくで、気楽な会だった。
 
 奥座敷には、1歳ぐらいの赤ちゃんを伴った若夫婦がいた。
 常連客である私と同じ年の男性の “娘夫婦” だという。
 
 「こちらね、キャンピングカーの本つくっている人なの」
 …と、その彼が、私のことを娘夫婦に紹介した。
 
 「え? キャンピングカー!」
 赤ちゃんを抱いていた婿さんの顔が輝いた。
 「僕、すごく興味あるんです。欲しいんですよ」
 と、婿さんはいう。
 
 「だめだめ、そんな高いもの。それに、私が運転できなくなっちゃう」
 と、すかさず奥さんが反対する。
 
 奥さんの口元にはにこやかな笑みが漂っていたが、目には “断固許さない” という気迫がみなぎっている。
 きっと、婿さんとの間には、何度も議論があったのだろう。
 
 「いや、高くないって。ハイエースぐらいなら、安いキャンピングカーがナンボだってあるって」
 と、婿さんは説得するのだけれど、その 「ハイエース」 という言葉自体が、どうも奥さんにはピンと来ないらしく、
 「…んな無理やわ」
 と、主張を変えない。
 
 「キャンピングカーが高いって、いくらぐらいだと思っていらっしゃいます?」
 と、私はその奥さんに尋ねてみた。
 「1,000万円以上でしょ? うちには無理やわ。それに、そんな大きなクルマが入る車庫なんてないし…」
 
 う~む。……なるほど。
 この奥さんの反応は、一般的なファミリーが、キャンピングカーというものを考えるときのひとつの典型的なパターンであるかのように思えた。
 
 キャンピングカーにさほど関心を持たない人たちの、 「キャンピングカー」 という言葉から連想されるものは、 「1,000万円を超えたバカでかいクルマ」 というイメージなのである。
 
 だから、 「普通の小型ワンボックスカーのようなキャンピングカーもあるし、軽自動車のものもあるし、200万円代から買えるものだってあります」
 とか説明すると、たいていの人は、 「えっ?」 っと不思議そうな顔をする。
 
 どうやら、巷で普及している 「キャンピングカー」 という言葉と、業界の人たちが使う 「キャンピングカー」 という言葉の間には、けっこうな開きがあるようだ。
 
 私はキャンピングカーに乗っているユーザーさんたちにも、よく取材をする。
 彼らは、キャンピングカー販売店の人たち以上に商品知識を持っていたりして、話を聞いていると、私などもたじたじとなってしまうことがあるのだけれど、そういうユーザーさんたちとばかりと話をしていると、一般の人々にも相当キャンピングカーというものは認知されているのだろう…と、ついつい錯覚してしまう。
 
 しかし、実際には、 「キャンピングカーにはどんな種類のものがあるのか」 、それすらも知らない人たちの方が圧倒的に多い。
 
 この夏、キャンピングカーショーの会場で、キャンピングカーをまだ購入していない人たちを対象に、何を目的にそのショーに来たのかを調査をしたことがある。
 
 あるファミリーの奥さんはこういう。
 「今日はキャンピングカーを見に来たんじゃないんですよ。ハイエースを見に来たの」
 
 ハイエース……?
 彼女が指差す “ハイエース” を見てみると、それはハイエースをベースに架装されたバンコンのことだった。
 もちろん、それは立派な 「キャンピングカー」 なのだが、彼女の意識では、それは 「キャンピングカー」 ではなく、 「ハイエース」 なのだ。
 
ハイエースベースのバンコン 
 ▲ ハイエースベースのバンコン
 
 で、彼女が 「キャンピングカー」 というものに対して、どういうイメージを抱いているかというと、
 「ほら、ああいうの…」
 
 彼女の指差す方向を見てみると、そこにはバンクを張り出したキャブコンがあった。
 
キャブコン01
 ▲ キャブコン
 
 バンコンとかキャブコンなどという、われわれが、ごく日常的に使っているジャンル分けの 「言葉」 自体が、キャンピングカーショーにはじめて来たような人には十分に浸透していないことを痛切に感じた。
 
 われわれの仕事は、すでに、キャンピングカーに関心を持って、多少なりとも研究している人たちを相手にして、機構解説やら、装備の使い方などを論じているに過ぎない。
 そこに至るまでの人々に対しては、少しも親切な解説をしてこなかったのかもしれない。
 キャンピングカージャーナリズムは、まだまだやるべきことがいっぱい残っているんだなぁ…と改めて思った。
 
 で、飲み屋の忘年会。
 私のキャンピングカーの話を聞いているうちに、奥さんの目が輝きだした。
 
 「……ああ、そういうことだったら、1台あってもいいのかもしれない」
 と、奥さんの気持ちがかなり軟化してきた。
 
 喜んだのは、婿さん。
 「今度、どんなキャンピングカーがお薦めなのか、ぜひ教えてください」
 婿さんとは、そういう会話をして、別れた。
 
 

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奥様はまずキャンピングカーに反対 への2件のコメント

  1. hoso より:

     旅先で知らない方から、声をかけられる事があります。
    「キャンピングカーですか~」、
    「いいですね~」、
    「高いんですよね~」て。
     最初の頃は「高くないですよ~」て、丁寧に教えてあげてましたが、いろいろ話した後に、
     必ずと言って「宝くじが当ったらね~」て。
     そんな方は、宝くじが当ってもキャンピングカーは買わない方だと、私は思います。結局はただのひやかし。(`ヘ´#)
     最近は「高いですよ~」て逃げてます。(^▽^;)

  2. 町田 より:

    >hoso さん、ようこそ。
    確かに、キャンピングカーをあまり知らない方々とキャンピングカーの話になると、「高かったでしょう?」 とよく言われます。なんだか 「お金持ちですねぇ~」 といわれているような気分で、少し複雑な気分になりますね。
    「高いですよ~」 で逃げてしまうのもいいのかもしれませんね。
    考え方次第ですから。
    その意味がよく分かっている方々にとっては、けっして高い買い物じゃありませんものね。
    今の私は、乗用車を手放して、キャブコン1台ですべてすませています。結局、そっちの方が 「価値」 が高いから。

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