鰻弁当のしあわせ

 「ウナギなら食べられそう」
 病院から外泊許可をもらって家に戻ったカミさんが、そういう。
 
 なにしろ、極度の食欲不振に陥っているらしく、病院で出る食事も、喉の奥に押し込むようにして、むりやり胃の中に収めているという。
 
 医者からは、
 「栄養のあるもの。高カロリー・高タンパクなものを食べなさい」
 と、もし私が言われたならば 「喜んで!」 と答えそうな指示をもらったカミさんなのだが、
 「そういうものを食べる気がまったくおきない」
 と贅沢にも、言うのである。
 
 「私、やせたでしょ?」
 と、心配顔で尋ねるカミさんに対し、
 「んなことねぇよ、相変わらずだよ!」
 と、見たとおりのことを言うわけにもいかず、
 「そうだね、大丈夫?」
 と、深刻な声を出して、優しく答える私。
 
 その極度の食欲不振のカミさんが、 「ウナギなら食べられそう」 といったのだ。
 
 ウナギ…ねぇ……。 
 そういえば、もしかしたらこの1年、オレも食ってねぇ。
 ウナギの産地が相変わらず偽装されているのかどうか知らないが、ここんところ、うまいウナギを食ったためしがない。
 
 もっとも、400円とか500円クラスのウナギ弁当で、ホンモノの国産ウナギが使われているはずもなく、国産以外のウナギとなると、私の偏見かどうかは知らないが、極端に味が変わる。
 
 まずい…というよりも、ちょっとだけでも冷えてくると、安ウナギは、舌の上で柔らかく伸びてはくれるのだが、噛み切れないのだ。
 まるでゴムみたいに、くっちゃくっちゃ何回噛んでも、食いちぎれない。
 アレが嫌だ。
 
 そんなわけで、安いウナギ弁当のたぐいは金輪際 (こんりんざい) 食わないようにしているのだが、かといって、安心できる国産ウナギを出す店のメニューは 「ウナ重、肝吸つき2,000円以上」 とかなるので、1食にそんな大枚をはたく余裕もなく、やっぱり食う機会がない。
 
 というわけで、ウナギというものを、ここ1年ぐらい食っていないことに気がついた。
 「よし、夕食はウナギにするか!」
 夕方、チャリンコ漕いで20分ほどの隣町のデパートまでウナギ弁当を買いに行った。
 
うなぎ弁当
 
 そのデパートには、 “静岡県産最高級” とかいう保証付きのウナギ弁当を売っているので、わざわざそこまで買い出しに出たのだ。
   
 で、そういう店のウナギ弁当は、包装紙にも、江戸時代の役者絵みたいなデザインが施されていて、みるからに “贅沢” なのだ。
 その包装紙をテーブルの上で開くときの楽しさ!
 
 ああ、幸せ…と思いながら、食い始めたのだけれど……
 
 「あれ、ウナギって、こんなにあっさりした食いモノだっけ?」
 舌の上で、濃厚な味がとろりと広がるのを期待していた私は、ちょっと拍子抜け。
 
 多少冷たくなっても、あのサクっと食いちぎれる食感は、確かに高級ウナギなんだけど、期待したほどの喜びがこみあげて来ない。
 
 カミさんが入院中、濃い味のラーメンとか、塩っ辛いコンビニ弁当に慣れてしまったせいか、口の中に脂肪分が泡のように広がるような味付けでないと、満足しない身体になっていたのだ。
 
 “ひとりメシ” の場合は、夕食時間というのが決まっていないから、いつも、激しい空腹を覚えたときが 「夕飯どき」 となる。
 そうなると、いきおい、満腹への即効性を持つメニューを選びがちになるため、味付けは “脂肪” に頼らざるを得ない。
 
 そんなことを繰り返しているうちに、高級ウナギの上品さに、舌がついていけないようになってしまっていたのだ。
 
 もちろん、脂と塩が身体に悪いことは重々承知している。 
 だから、 「今晩だけは特別。明日からは自粛」 と必ず思うのだけれど、その “特別な晩” が一晩ずつ繰り延べになっていく。
 
 やっぱ腹へったときの “濃厚な味付け” って、禁断の快楽だよな。
 意志の弱さだけは、人一倍自慢できる私なのだ。
 
 そんなわけで、期待値が高かったわりには、ちょっとがっかりしたウナギ弁当だったけれど、弁当を食いながらカミさんが言った言葉。
 「おいしい!」
 
 もう、その一言がすべて。
 冬空の下を自転車漕いで、隣町までウナギ弁当を買いに行った労が、一瞬のうちに報われた瞬間でした。 
 
 

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鰻弁当のしあわせ への2件のコメント

  1. motor-home より:

    町田さん
    奥様の看病、本当にお疲れさまです。我が家の実家でもいろいろあって大変なところなので、身にしみながらブログ拝見しております。
    うなぎ、おいしそうでしたね。つい私も食べたくなってしまいました!あのゴムのような食感を感じる度に、うなぎに限らず「偽装」って言葉が思い出されてしまうのが寂しいですね。(昨年の秋、上海ガニで完全に裏切られました。。。)
    我が家でも、もし妻が不在になったら食生活が確実に大変になりますね。。。大切にしないといけないってことですね。(反省)
    お忙しい年の瀬ですが、くれぐれもお体には気をつけください。
    2月の幕張メッセでの「キャンピング&RVショー」では、是非、回復された奥様の姿にお目にかかれたらと思います。よろしくお伝えください。

  2. 町田 より:

    >motor-home さん、ようこそ。
    ありがとうございます。
    人間ある程度の年になると、親の介護の問題などがどうしても降りかかるようになりますね。特に未曾有の高齢化社会に突入する日本は、今後、どの家庭でもいろいろな影を投げかけていくことになるでしょう。
    そのときは夫婦の健康が何より。奥様を大切にしてあげてください。
    2月の幕張ショーでは、どのようなお手伝いを差し上げればよろしいのでしょうか。遠慮なくお申し越しください。
    お会いできることを楽しみにしております。
     

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