伝説のキックス

 土曜日、高校時代の同窓会というものに初めて出席した。
 … といっても、入院しているカミさんの病状に関して、担当医からの報告があるというので、それを聞いてから駆けつけたので、一次会は終わっていた。
 
 構内の学生食堂を会場にした二次会からの出席となったが、ちょっと感激したことがある。 
 宴たけなわ…になってから、生バンドの演奏が行われて、それを聞いているうちに、かなり興奮したのだ。
 
 バンドそのものは、まぁ、いま流行の “オヤジバンド” といえるようなもので、われわれの同期のうちの何人かが、趣味のバンドを結成し、ちょうどよい発表の場としてこの同窓会を選んだ … というような感じだった。
 が、最初の組がステージに上がったとき、メンバーのギターとドラムスの人に、 「見覚えがある!」 と思った。
 もしかして、あの ……
 
 私は席を立ち上がって、ステージの前の方に移動した。
 
 ステージ前のテーブルは、バンドメンバーの家族によって占められていて、子供たちも交えて 「パパ頑張って」 という感じのアットホームな雰囲気に満たされていた。
 
 1曲目は、スティービー・ワンダーの 「A Place In The Sun (太陽のあたる場所) 」 だったか…。
 たぶん、ギターとドラムス以外は臨時編成のバンドなのではないかと思うが、ギターとヴォーカルを担当する少し白髪の交じったオッサンの、肩肘の張らないリラックスしたステージぶりに、独特の風格が漂っていた。
 

 
 ギター2本、ベース、ドラムスというシンプルな編成で、初期ビートルズ、ビージーズといったオールディズの名曲が淡々と演奏されていく。
 
 もしかして、これ、あの伝説の ……
 
 「このバンド、昔 『キックス』 といっていませんでした?」
 私は、ステージ前のテーブルに座っているメンバーの奥さんらしい人に尋ねた。

 「そうですよ」
 
 そうだ、キックスなんだ!
 ガーン! である。
 
 高校の学園祭で、学ラン着たままステージに上がり、本場の黒人以上にとろりとしたブラック風味濃厚なR&Bを演奏していたグループ。
 それが、高校生のくせに、セミプロとして、ディスコやベースで人気を博していた伝説の 「キックス」 だった。
 
 その時の演奏に接して、私はぶっ飛んだのだ。
 「ショック」 に近いといっていい。
 
 俺と同じ世代のやつらが、こんなすげぇー音をいとも簡単に出している。
 あの当時、まだ 「ディスコ」 という言葉すら生まれていない時代。
 そういうダンススポットを 「ゴーゴークラブ」 とかいっていたかもしれない。
 
 そこに出演する生バンドでは、日本のバンドよりもフィリッピンバンドの方がうまいとされていた。
 だけど、キックスはフィリッピンバンドのレベルを超えていた。
 
 リードヴォーカルをとっていたのは、四方寿太郎君。
 イケメンで、クールで、ちょっと悪そうな雰囲気もあって…。
 在学中は、典型的な遊び人に見えた。
 
 そういう “モテ要素” たっぷりな男に対して、私なんかは、すぐひがみ根性を抱いてしまうくちだから、どうせ、頭も悪いんだろうし、大した特技なんぞも持っていないだろう…と四方君のキャラを悪い方に勝手に想像していた。
 クラスも違ったから、在学中の3年間、一度も口をきいたことがなかった。
 
 その彼が、学園祭で黒人も顔負けのR&Bを演奏しているのを見て、わぁー負けた! 負けた! と思ったのだ。
 すごいヤツには、やっぱりかなわない。
 
 キックスはそこでアーチー・ベル&ドレルスの 「タイトンアップ」 や、エディ・フロイドの 「ノック・オン・ウッド」 などをカバーしていたけれど、オリジナルの音源をみな知っていたから、その堂々たるカバーぶりに頭が下がる思いだった。
 
 自分もバンドをやってみたいと思ったのは、それからである。
 私はその体験を、密かに 「キックスショック」 と名づけていた。
 
 そのキックスと、なんと40年ぶりぐらいに対面している!
 感無量であった。
 
 演奏そのものは、私が高校生の頃に聞いたテンションの高い鬼気迫るものとは違って、なんともおっとりした、ある意味、大人のゆとりをもった音だったけれど、そのレイジーさがまた良かった。
 
 1回目のステージが終わって、テーブルに戻ってきた白髪交じりのオッサンに尋ねた。
 「四方さんですよね?」
 「はいそうですが……」
 
 40年目にして、はじめて口をきいたのだ。
 
 「C組の町田といいますけれど、昔、学園祭で四方さんたちのキックスの演奏を聞いて、ぶっ飛んだ人間の一人です」
 「ああ、それはどうも…」
 なんと優しい笑顔であったことか。
 
 クールで、ちょっと悪の雰囲気もあって、近寄りがたい存在に思えた四方寿太郎氏とはじめて話して、スターの前にいきなりしゃしゃり出たファンのようにどぎまぎしてしまった。
 ギターを肩から外すと、四方氏は温厚そうなただの会社経営者という風貌にしか見えない。
 
 「昔からファンだったんです」
 そういうと、彼は、なんとも人なつっこい顔で笑った。
 「うれしいなぁ」
 
 聞くと、在学中からプロのオファーが何度もあったという。
 「しかし、僕らは在学中の思い出を作れればいいと思っていたので、プロにはならないと決めていたんです。
 でも、あの頃、音楽をやっていたよかった。
 それが今の仕事にも結局結びついている…」
 
 二次会もようやく終わろうとした頃、四方氏が最後の演奏のためにステージにあがった。
 すでに場も乱れ、会場のあちらこちらで、酔った人々のハイトーンの話し声が飛び交っている。
 バンドの人たちも、それぞれの家族と一緒に帰ったのか、ステージに登ったのはギターとベースだけ。
 
 ドラムスの席が空いている。
 どさくさにまぎれ、ドラムセットの前に座ってみたが、バスドラのフットペダルもスティックも見当たらない。
 誰かが、 「ご愛嬌」 と思ったのか、割り箸を渡してくれた。
 
 私はその割り箸で、スネアとハイハットを叩いた。
 もちろんギターを弾く四方氏の演奏を邪魔してはいけないと思い、ほとんど音にならないくらいに軽く叩いた。
 
 でも、ジワーっときた。
 あの四方氏の背中を眺めながら、ドラムスを叩く “まねごと” をしている。
 そんな幸運はめったにあるものではない。
 
 楽しい同窓会でした。
 
 
 関連記事 「“四方寿太郎バンド” のライブ」
 
 

カテゴリー: 音楽   パーマリンク

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong> <img localsrc="" alt="">