関係する女、所有する男

 
関係する女所有する男表紙
 
 斎藤環氏が書かれた『関係する女 所有する男』(講談社現代新書) は、「男と女」の違いを、主に精神分析の手法を通じて解き明かした書である。
 納期が迫った仕事に関わる資料として入手したものなので、 “飛ばし読み” のような粗雑な読み方になってしまったが、ところどころ絶妙な言い回しがあって、けっこうネタとして使える本だと思った。
 
 内容を一言でいえば、恋愛や結婚という男女関係の中で、どうして男と女の間には、様々な「食い違い」が生まれるのかということを、主に、男と女が受ける社会的・文化的制約の違いから解き起こそうというのが、本書のテーマである。
 
 そのテーマを象徴的に要約するならば、
 「女は男に対して関係性を求めたがるが、男は女を所有したがる」
 という言い回しになる。
 
 「女が求める関係性」という言葉が、ちょっと分かりづらいが、要するに女性は、一緒になった2人がどういうふうに変化していくのか、その変化を楽しむことを求めている … というような意味だ。
 それに対し、男は「2人の関係がどうなるか」ということよりも、まず、その女を “自分のモノ” として所有し、できれば、いつまでも最初の状態が持続することを願う。
 
 そういう男女の心の違いを、本書は様々な例証を出して検証していく。
 男性の私から見れば、新手の「女性の口説き方」の指南書のようにも見えた。
 つまり、女性の “心の動き” をよく把握し、それに則った攻略法を伝授しているという気配もなきにしもあらず。
 もちろん著者にはそんな “不純な(?) ” 動機はなかったろうが、ある意味で、そういう実用書のような読み方を可能にしている部分もある。
 
 いくつか印象に残ったフレーズを紹介したい。
 その一つは、シンガーソングライターの一青窈(ひととよう)が、あるテレビ番組で言ったというワンフレーズ。
 「男は過去の女性の思い出を “フォルダに保存する” が、女は “上書き保存する” 」
 という一言だ。
 
 これには著者の斎藤氏も感心していたが、私もまたその通りだと思った。
 男は、いつまでも別れた女性の思い出をめそめそと頭の中で反芻したりするが、女性は過去の男性に対して冷淡である … ということは、別に目新しい言説ではない。
 それをパソコン用語で表現したところが、なんとなく斬新に思えた。
 
斉藤環氏
 
 斎藤氏 (↑) は、この “一青窈発言” を、こう解説する。
 
 「男は、恋愛関係の思い出を、別々の『フォルダ』にいつまでもとっておける。
 別れに際して、男のほうがはるかに未練がましいのは、フォルダがなかなか捨てられないからである。
 だからこそ、男は同時に複数の異性とも交際できる。
 
 いっぽう女は、現在の関係こそがすべてだ。
 女にとって性関係とは、 『一度に一人』が原則だ。新しい恋人ができるたびに、過去の男は消去(デリート)され、新たな関係が『上書き』される」
 
 そこから、
 「ストーカーには男が圧倒的に多く、女は少ない」
 という結論とか、
 「男の浮気は元のサヤに戻ることが前提となるが、女性の浮気は、事実上、結婚生活の心理的な終わりになる」
 などという結論が導き出されるだろう。
 
 こういう結論自体は、すでに数々の恋愛ドラマや恋愛小説で語り尽くされたものである。
 この本がユニークなところは、その理由を “構造的に” 解き明かしたことだ。
 
 氏は言う。
 「男が過去の女性の思い出をフォルダにしまい込んで、それを保存するのは、『所有原理』が働いているからである」
 つまり、エモノとして獲得した動物を “剥製や標本” などにして取っておきたいという願望にほかならない。
 
 それは、人類がこれまで営んできた社会の構造が、男性の自己評価を、「知性や身体性に優れていたり、コミュニケーションスキルを持っていたり、リーダーシップを発揮できたり … 」という “社会的スペック” に求めてきたことに起因する。
 男性にとっては、学校でよい成績を収めたり、仕事の成果を評価されたり、職場で尊重される役職に付くことが自己評価の目安となる。
 そして、そのような社会的な立場を確立することが、彼の自信と達成感のよりどころとなる。
 いかに魅力的な異性をゲットしてきたかということも、そのような社会的スペックを充実させるものとして機能する。
 
 それに対して、女性は、そのような社会的スペックで自己評価を下さないし、異性の価値も判断しない。
 あくまでも、相手が「自分に何をもたらせてくれるか」という相互の関係性を重視する。
 だから、結婚に関しても、女性にとっては新たな関係の始まりであり、必要なのは 2人の「より良い変化」なのだ。
 
 そこで、男女の意識の食い違いが生まれる。
 結婚した女性にとって、結婚したばかりの男は、まだ「未熟な夫」でしかなく、その夫が自分との関係の中で「最高の夫」へと変化していくプロセスが女性の希望となる。
 
 男は逆で、結婚したばかりの妻こそが、性格的にも外見的にも「最高の妻」なのである。
 だから男は、妻がいつまでも新婚当時のままであることを願う。
 結婚前の恋愛関係においても、この食い違いは生じる。
 
 いつまで経っても “未熟な恋人” は、女性にとっては自分に何も変化をもたらせない愚物であり、女性たちは愚物な男に見切りを付けるのも早い。
 新しい恋人が出現すれば、未熟な男はあっさりと “上書き” されてしまう。
 
 このように、2人の「関係の変化」に期待する女性と、異性をただのモノとして「所有」しようとする男性の食い違いは、それぞれ相手に感じるセクシュアリティにも反映している。
 
 異性の体で、どこに魅力を感じるかという点でも、男性と女性の意見はかなり異なる。
 男性のほとんどは、相手の「胸」や「お尻」に集中する。
 いっぽう女性の場合は、男性の「腕」や「指」、あるいは「眼」に魅力を感じるという。
 
 男性の「胸」や「お尻」というのは、要するにフェチである。
 つまり、女性をモノとして所有する視線にほかならない。
 男は、女性の人格とは無関係に、女性の身体そのものに欲望できるようになっている。
 逆に、ある種の男にとっては、女性の「知性」は、自分の自尊心を脅かすものとして感じられたりもする。
 女性の「知性」が自分に鋭く突き刺さってくると、相手をモノとして所有できなくなるからだ。
 
 いっぽう女性のこだわりが向かうのは、ここでも「関係」だ。
 「腕」や「指」 、あるいは「眼」というのは器官は、すべて相手と関係するための器官である。
 女性はその腕に抱かれ、その指に触れられ、その眼に見つめられるという、自分と相手との関係の中で機能する器官に魅力を感じている。
 
 最終章においては、著者はこのような男女の意識構造のからくりを、精神分析学の見知を駆使して解説している。
 この本の内容をアカデミックに掌握しようと思う人は、最終章を読むだけでも十分かもしれない。
 しかし、そこはちょっと専門的になるので、このブログでは書かない。
 ( … というか、ちょっと難しい)
 
 読みながら、ふと思ったのだけれど、最近の男女の生態系を観察してみると、この本で書かれた男女の差異が少しずつ相互浸透して、だんだん解消されつつある気配も感じる。
 女性のオヤジ化も進み、若い男性の女性化も進行しているようにも思う。
 
 それでも、人類の男女の歴史が今まではこのように動いてきたことは確かだし、この解析が、現代社会でもいまだ有効なことは間違いないだろう。
 
 とにかく本書は、女性に振られながらも、その理由がよく分からない男性にとっては勉強になるはずだ。
 読んでおくと、次の恋愛はうまくいくかもしれない。
 

 参考記事 「夫婦の会話の危機」 
 
 

カテゴリー: 映画&本   パーマリンク

関係する女、所有する男 への4件のコメント

  1. ボールチェアー より:

    シッカリ読んでおきます…

  2. Take より:

    この手のフレーズで最初に実感したのは松任谷由美さんの「魔法のくすり」
    男はいつも最初の恋人になりたがり 女は誰も最後の愛人でいたいの だから所詮 おんなじ気持ちで 求め合っていると 思っちゃいけない
    でした

  3. 町田 より:

    >ボールチェアーさん、お久しぶりです!
    うれしいです。ボールチェアーさんの久しぶりのコメントをいただけて。
    「再スタート」、期待していますし、楽しみにしています。

  4. 町田 より:

    >Takeさん、ようこそ。
     なるほど。そのフレーズは松任谷由実でしたか。
     ある意味で古典的な認識ながら、でも、男と女の普遍的なセオリーかもしれませんね。
     昔、野坂昭如が唄っていた歌で、 『黒の舟歌』 という歌がありました。
     「男と女の間には、深くて暗い川がある。
     誰も渡れぬ、川なれど、
     エンヤコラ、今夜も舟を出す」
     確か、そんな歌詞だったように思います。
     いい歌だなぁ…と、当時思っていましたけれど、これも 「男の歌」 ですね。
     

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong> <img localsrc="" alt="">